BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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びわこレディースオールスター準優ピットレポート――沈痛……

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 5日目はボート洗浄デー。その日のレースを終えた(女子戦ではその後に試運転をする選手も多いので、試運転終了後のパターンもある)選手のボートを選手総出で洗浄する。洗剤を染み込ませたスポンジでゴシゴシ。もちろん、山川美由紀のような重鎮であっても、準優を逃げ切った後ということも関係なく、率先して自分のボートを洗う。

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 地元の総大将・水口由紀も、他選手のボート洗浄に加わる。11R後は、近畿の選手が出走していなかったので、同世代の海野ゆかりの洗浄に参加。洗剤で磨いたあとは、ホースで泡を洗い流す作業を始めたわけだが、大先輩がやっているものだから、向井田真紀ら後輩が恐縮してホースを奪って交代しようとしたりして。気にしなくていいのよ、とばかりに水口は後輩を制して泡流しを続行。準優という大きな勝負どころを終えたあとにも、そんな微笑ましいシーンが見られたりするのである。
 しかし……12R後は、さすがに沈痛であった。遠藤エミ、平高奈菜、大山千広がフライング。内枠3艇のFは、一瞬にしてピットの空気を固まらせた。しかも、そこには地元の大エースが含まれている。さらには、これが3本目のFとなる者もいる。今年は大きな飛躍を期待された若き有望株もいる。この3人が一気に戦線を離脱するばかりか、それぞれ大きなペナルティを課されるのだ。

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 装着場のど真ん中にあるモーターに「スタート判定中」の文字が出たとき、まずは「わっ」と小さく声が上がった。その数秒後、艇運係の方の控室から「3艇だぁ……」という声が聞こえてくる。次の瞬間、モニターには「返還①②③」と表示された。これを見ていた瀧川千依と薮内瑞希は悲鳴をあげて、その文字を見たくはないとモニターに背中を向けた。切った3人もそうだっただろうが、ピットにいた誰もが――選手仲間はもちろん、関係者や我々報道陣も含めて――信じたくない出来事なのだ。

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 フライング艇は先にピットに戻ってくるため、3人のそれぞれの地区の選手がざわつきながらボートリフトの周りに集まった。どの顔も、暗鬱だった。びわこのリフトは、1台に6艇まとめて乗れるもので、だから3人がリフトに収まってもレースが終わって完走した3人が戻るのを待っていた。心配する仲間に見つめられるなか、3人はどんな思いでリフトが上がるのを待っていただろうか。4~6号艇がようやくリフトに収まって、内枠の3人もやっと陸に戻った。すでにヘルメットを脱いでいた平高の痛々しい表情に息が詰まる。

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 その後、12R組のボート洗浄が始まったわけだが、これに遠藤も平高も大山も加わっていない。フライングを切った者はすぐに競技本部に呼ばれて説諭を受けるからだ。3人が戻るころには、洗浄作業は終わっていた。1着の藤崎小百合、2着の長嶋万記はもちろん参加していたが、ともに複雑な表情で、優出の喜びは感じられなかった。事態の重大さは勝ち上がった彼女たちにももちろんわかっている。そして、他人事とも思えないであろう。3人の心中を思えば、レース直後に笑顔は浮かばない。特に、遠藤エミの立場、というものに思いを馳せれば、優出への高揚よりも先に遠藤への複雑な感情が起こるはずだ。

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 競技本部から戻ってきた遠藤を、やはりその心中を我がことのように理解している仲間たちが取り囲む。同期の樋口由加里は心配げな表情で声をかけた。「放ったんだけど……」という遠藤の声が小さく聞こえてくる。原田佑実は遠藤の肩に優しく手を置き、慰めの言葉を投げた。そうした選手たちの小さな輪が、そこにはできていた。
 こうしたフライングが出ると、僕はどうしても書いてしまう。これにめげることなく、前を向き立ち上がってほしいと。グランプリを目指したいと言っていた遠藤には大きな足踏みとなるだろうが、だったらSGでその分を取り返してほしい。F3という苦境に立つことになった平高は、それで強いられるブランクなど復帰後すぐにでも埋められると信じている。大山にしても、これが彼女をさらに大きくする糧になるはずだ。

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 そして、藤崎と長嶋は、胸を張って優勝をもぎ取りにいってほしい。長嶋はこのあと、地元クラシックが控えているのだ。勢いをつける走りを見せてほしい。

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 10Rと11Rは奇しくも香川-愛知の決着。中村桃佳と山川美由紀は、優勝戦1号艇と2号艇で、真っ向勝負をすることになる。山川はもちろん連覇をめざす戦い。そして中村は、これから歩むであろうスターロードに最初の勲章を飾る戦い。昨日と今日は、同期の倉持莉々との絡みを何度も見かけた。11Rは直接対決となり、もちろん同期ワンツーを願ったはずだが、倉持は残念ながら敗退した。レース後にカポックを解きながら、語り合う姿があった。中村は倉持の思いも背負って戦うことになろう。東京支部が優勝戦にいないので、12Rが終わるのを待たずに管理解除になる可能性もあるが、11Rを走る倉持(と廣中智紗衣)がもし優勝戦もピットに残っていたなら、笑顔で(もしかしたら涙混じりに)抱き合う114期の2人を見ることができるかもしれない。

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 愛知勢の2人は、優勝戦4枠と5枠。細川裕子が4カドから持ち前のまくりを決めて、それに水野望美が連動しての愛知ワンツーだって夢ではない。細川は、今節「プロペラには触ってもいない」とか。乗り心地が良く、ノーハンマーを通しているのだ。天候次第とはいえ、明日もレースに集中して1日を過ごすことができるだろう。嬉しかったのは「オーシャンカップに届きそうなので、今節はとにかく優出したかった」と語ったこと。細川は東海地区選でもあわや優出の活躍をしているが、「いろいろ教わることが多く、呼んでもらって嬉しかった」と男女混合GⅠを戦った意義についても語っている。やはり女子トップクラスが“さらに上”に意識を向けてくれると、本当に嬉しいんです。これでオーシャンはほぼ当確のはず。GⅡ優勝を手土産にSGに乗り込むのも悪くない。

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 水野は、記者会見の場にあらわれ、報道陣がずらり居並ぶのを見て「こわーい」とボソリ。こうした場面は初めての体験だ。そして、今後は何度もたくさんの報道陣の前に対峙しなければならないだろう。あ、明日でもいいんですよ。明日、先頭ゴールを果たせば、その数十分後には今日以上の報道陣が会見場で水野を待ち受ける。それも祝福の拍手つきで。その快感を味わえば、また何度もその場に立ちたくなるだろう。
 昨日も書いたように、試運転終了後のエンジン吊りに、今日も水野は駆けつけた。聞くと、新人の頃は自分も同じように先輩のエンジン吊りに助けられたし、また久しぶりに新兵となったクイーンズクライマックスやレディースチャンピオンで、最近はいかに後輩の子にこうした仕事をやってもらっていたかを痛感し、自分も積極的にやらなければ、と思ったそうだ。めちゃくちゃええコや! ということで、さらに水野を応援したくなったワタクシである。明日の予想では水野を本命にはしないかもしれないが、こっそりアタマ舟券は買っちゃいます。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)