BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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びわこレディースオールスター優勝戦ピットレポート――桃佳おめでとう!

 

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 展示を終えてピットに戻ってきた中村桃佳に、山川美由紀がおかしそうに話しかけた。
「もっと、こっちから行くんだよ、って言ったじゃーん」
 スタート展示を終えて、周回展示に移る際の話のようだ。本来ホーム水面に戻るべきタイミングより早く、中村は走り出してしまったらしい。
「ほんとですか!?」
 中村は笑顔で返す。山川も「早い早い」と笑顔。その横では藤崎小百合も、ニコニコ顔でうんうんと頷いている。微笑ましいシーンだったのだが……
 桃佳、緊張しまくっているのか!?
 直感でそう思った。今日は前半は向かい風だったものが途中で追い風に変わり、また風が吹いたりやんだりと安定していなかった。昨日の12Rでは大量返還も出ている。もし本当にカタくなっていたとするなら、スタートからミスする可能性もある……。

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「スタートには不安はなかったです」
 コンマ12の全速スタート。そりゃあ緊張はあったかもしれないけど、僕が感じたことはまったくの杞憂なのだった。
 終わってみたら完勝である。いや、1マークは山川に差されたかとも見えたが、押し切った。いずれ女子戦線をリードしていくべき中村桃佳が、そのストーリーを本格的にスタートさせた瞬間となった。
 レース後の中村は、ただただ笑顔だった。テレビのインタビューを一通りこなすと、出迎えた西村美智子らとハイタッチを交わす。藤崎小百合のモーター返納を終えた大山千広は嬉しそうに抱き着いた。そうそう、中村を出迎えた平高奈菜も、嬉しそうに笑っていた。平高と西村はレースを試運転用の係留所で観戦。3周2マークを回った中村に諸手をあげて手を振っていた。山川先輩が敗れていて、複雑な部分もあったかもしれないが、後輩の壮挙に対しては心から嬉しそうに笑っていた。
 涙はなかった。まあ、なにしろGⅡである。「今後はGⅠやSGに出続けられる選手になりたい」と会見でも言っていたように、目指すべきところは上にある。レディースチャンピオンやクイーンズクライマックスならともかく、これはあくまで通過点であろう。

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 チャレンジカップ時に発表されたファン投票の中間発表では1位だった中村。ピットで話したとき、中村は「ビックリしました」と言いながら、嬉しそうに笑っていた。最終的には4位。残念ではあったが、レースでは堂々たる1等賞となった。1位の座を奪い返したようなものである。
 個人的なことだが、中村にはちょっとした思い入れがある。吉田拡郎が優勝した丸亀オーシャンカップの最終日、お手伝いに来ていた新人選手が、喫煙所で一服していた僕に声をかけてくれた。「中村桃佳です。よろしくお願いします!」。
 その数カ月後。トークショーで小野生奈、竹井奈美と一緒になった。その控室での雑談中に、小野が言った。「香川の中村桃佳ちゃんって子、すごく上手だよね」。中村桃佳って、あの中村桃佳か!
 それからわずか3年半ほどで、中村はSG初出場も果たし、レディースチャレンジカップでも優出し、そしてレディースオールスターを制してしまった! あの礼儀正しい女の子が、という思いもあるし、小野の言葉がまるで予言めいていたことへの驚きもあるし、とにかく感慨深いのである。
 って、それを書くのもまだ早いか。GⅠで、SGで大仕事を成したときまで待つべきかも。でも、そのときにはまたこのことを思い出そう。とにかく、おめでとう!

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f:id:boatrace-g-report:20180311181152j:plain 最後に敗者についてもざっと。レース後はどの選手も比較的落ち着いていたように思う。山川と長嶋万記については、露骨に顔をしかめた瞬間も目撃はしているが、レースを笑って振り返り合う余裕はあるようだった。

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 藤崎小百合も、細川裕子も、それは同様。細川をはじめとしたダッシュ勢はスタートを行けなかったことに対する思いはあるのだろうが、それを表情にストレートに出すようなところは見当たらなかった。

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 ひとり、水野望美は充実感を覚えているように見えた。敗れて充実もなにもないだろうが、2着争いには加われたし、何より全国的に注目される大きな舞台で走る経験を積むことができたのだし、それが胸の奥にくすぶる悔恨よりも強く表に出ていたように思う。その思いをこれから何度も味わうことになってほしいし、また敗れて悔恨にまみれる経験もあっていいだろうし、もちろん勝って歓喜を味わってほしいし、いずれにしてもこの経験が次につながっていってほしいなと思う。昨日も書いたが、ピットを飛び回る姿は、本当に素敵でしたよ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)