BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――呵々大笑

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「まいりました!」
「ハッハッハッハ!」
 ボートリフトで隣に並んだ田中信一郎が、今村豊に最敬礼。それを受けて、ミスター高笑い!
 いやあ、ほんとにまいりました! 今村豊、6コースまくり一撃。常に全速スタートの今村ならではの勝ちっぷりだ。深くなった内5艇を、バチンとスタートを決めて一気に呑み込む。田中の言葉は、今節いちばんの古株にしてやられた後輩たちの思いを代弁するものになっていた。
 もちろん、ミスターはゴキゲンだ。エンジン吊りの間も笑顔があふれる。カポック脱ぎ場の前で待ち構えていたカメラマンにはピース! しかも、右足を軽く上げて腰をひねる、アイドルのようなポーズまで見せていた。JLCピットレポーターの高尾晶子さんに「カッコいぃ~ん」と祝福されると、ふたたび高笑い。気持ちよかっただろうなあ、この勝ち方は! とてつもなく強い“新人”がやってこようと、やはり今村豊はマスターズの顔だ。

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 ところで、この12Rではピットにちょっとした異変が起きている。写真がイマイチで恐縮だが(撮影:私)、田中信一郎がパドルを持っているのがおわかりだろうか。田中はパドルを漕いで、ボートをリフトに乗せているのである。吉川元浩も同様だった。
 12Rの締切が迫るころ、選手代表の藤丸光一、山一鉄也、競走会の方々で、下まで下がり切ったリフトを見つめて「やばいなあ」などと話す光景があった。今日は大潮で、ドリームはまさに干潮の時間帯。水位が下がり過ぎて、リフトが底にまで達してしまうのだ。年に何度もないほどの低水位だそうで、係留所からピットへの渡り橋の勾配を見て山一は「こんなの見たことない」と言っていた。地元の山一でさえ、体験したことのない水位の低さなのだ。

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 何がやばいかというと、レースを終えたドリーム組のボートは、プロペラ部分の分だけ水位が足りず、架台にうまく乗らないのだ。というか、プロペラがリフトに接触してしまう。というわけで、選手たちはリフトの手前でエンジンを停止し、モーターを持ち上げてプロペラ部分を水中から引き上げたのだ(これも私撮影の写真がイマイチですみませんが、こんな感じ。普通はエンジンを止めずにデッドスローでリフトに乗り、所定の位置に収まるタイミングでエンジンを停止する)。惰性でリフトに乗れてしまえばいいが、田中や吉川はリフトの手前でボートが止まったため、パドルを取り出したというわけ。自然環境がいろんなところに影響するボートレース、今日は珍しいところにその影響が及んだというわけである。

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 11Rも6号艇の勝利だ。吉川昭男。こちらは4コースに潜り込んで差し切った。外枠なら内に動いて1着をもぎ取る。昨年の最多勝の原動力となったひとつがこのスタイルだろう。
 ミスターとは対照的に、こちらは淡々としたレース後であった。芝田浩治に称えられて笑顔も出ていたが、すぐに引っ込んで粛々と作業を終わらせる。そして、戦った相手に対して頭を下げる。1号艇で敗れて悔しさ見せる服部幸男も、そんな吉川には穏やかな笑みを返すのであった。

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 このレースではフライングが出てしまっている。三角哲男だ。3コースから攻めて展開を作ったが、コンマ01の勇み足。真っ先にピットに戻ってきた三角は、やるせない表情で競技本部へと向かっている。その後は、遅れて戻ってきた11Rのメンバーたちに頭を下げて回っていた。やはりフライングをしてしまった選手には痛々しさがある。

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 今日はもう一人、山一鉄也もフライングを切ってしまった。今日は51回目の誕生日だったのに……。先のボートリフト周りのくだりの際、高尾晶子さんが誕生日おめでとうと声をかけていたので、思わず「おめでとうでいいのかな……」と呟くと、それを耳にして山一は明るく言った。「一生忘れられない誕生日になりました」。それはそうかも。マスターズ世代ともなれば、フライング後の対処の仕方も知り尽くしている。うん、誕生日は誕生日。おめでとうございます。来年、52歳の誕生日は今日と同じ舞台で、呵々大笑できる一日にしてください!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)