BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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福岡マスターズ優勝戦 私的回顧

19年ぶりの……

12R優勝戦
①今村 豊(山口)09
②渡邉英児(静岡)11
③市川哲也(広島)09
④野添貴裕(大阪)12
⑤柏野幸二(岡山)15
⑥平石和男(埼玉)21

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 2コースからズボ差し一発。バック直線で鮮やかに突き抜けた。おめでとう、48歳のエージ!!
 ドリーム戦の6コースまくりからシリーズを力強く引っ張り続けたミスター今村豊にとって、やはり最大の敵は「アイツ」だった。進入は穏やかな枠なり3対3。115mほどの助走距離を得た今村は、今日も鋭く踏み込んだ。コンマ09、全速。内3艇がきれいな横並びのまま直進し、4カドに引いた怖い怖い野添もさほど出て行く雰囲気はない。

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 こうなれば、ミスターが逃げきるか、回り足が抜群の英児が差しきるか、という一騎打ちの隊形に見えたのだが……1マークで埋伏の難敵が今村に襲い掛かる。直前の11Rでもイン今垣をキャビらせた博多名物「うねり」。ターンマークを回った瞬間、うねりに乗ったミスターの艇は左右に暴れ、完全にバランスを崩した。この瞬間、2年連続4度目の“名人位就任”の夢は絶たれた。「今日のうねりがいちばんひどかった」と語った選手もいるから、ミスターにとっては不運だったとしか言いようがない。

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 一方、例によってターンマーク際を俊敏に旋回した英児も、ミスターとほぼ同時にバランスを崩したように見えた。あわや大惨事か、という1マークだったのだが、英児の艇はキャビテーションには至らず、スーーッと前に押して行った。
「エンジンがうねりを超えさせてくれた」
 野添と節イチを分け合った超抜パワー(←私の勝手な見立て)が、ミスターとの明暗をも分けたのだろう。

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 バック2番手は、3コースから付け回った市川。「勝てばオーシャンカップ当確」という勝負駆け、必死に同期の背中を追いかけた市川だったが、ターンマークごとにその差は開いて行った。グランプリなど4個のSGを制した同期の大スターを従えて、英児は飄々とした姿で19年ぶりのGIのウイニングゴールを駆け抜けた。

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 正直、45歳まで引き下げられた今年のマスターズで、48歳の渡邉英児が優勝するとは露とも想像していなかった。さらに正直に書くなら、「記念戦線では終わった選手」とさえ思っていた。私がボートレースにハマったのも20年ほど前。当時、SGはじめ記念戦線で活躍していた英児は、私にとって眩いスターレーサーのひとりだった。力石徹のような細面の二枚目。私の拙い記憶では、当時の選手全体の平均スタートがコンマ20くらいという中、コンマ17前後で「スリットから覗いて自在に捌く」という印象を抱いている。

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 そんな若手の記念常連レーサーだった男が、徐々に記念戦線から遠ざかり、ついには一般戦でしか見かけられない選手になっていた。私にとっても徐々に色褪せた存在になっていたわけだが、なんとなんと、史上もっともレベルの高いマスターズを制覇! 下剋上とも呼ぶべきこの優勝はじんわりしみじみ嬉しいし、20年前とちっとも変わらない力石フェイスははんなり懐かしくさえ感じられた。この優勝で得た“副賞”は、5年ぶりのSG(来年の戸田クラシック)のチケットだ。過去に4度優出している英児が、久々のSGでイブシ銀の名人芸を披露してくれることだろう。

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 最後に、改めてミスター今村豊について記しておきたい。今年から年齢が一気に引き下がり、松井繁、田中信一郎、太田和美ら屈強なSG常連が大半を占める中、圧倒的な存在感を魅せたミスター今村豊。本人にとっては哀しい思い出になっただろうが、3度のまくり勝ちを含めて文句なしの最優秀主演男優だったと私は思っている。うん、今さら書くまでもないけれど、この艇界随一のレジェンドは今年も「名人の中の名人」だった。この称号を他の選手に授けることは、私が生きている間にはありえないだろう。(text/畠山、photos/シギー中尾)