BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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徳山グラチャン優勝戦 私的回顧

徳山の空の下で

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12R優勝戦
①白井英治(山口)07
②茅原悠紀(岡山)09
③桐生順平(埼玉)13
④寺田 祥(山口)17
⑤長田頼宗(東京)14
⑥山田康二(佐賀)22

 64年ぶりのSG。徳山のスタンドははち切れんばかりの観衆だった。
「エイジーーーッ!!」
 ファンファーレの直後、あちこちから叫び声が飛び交う。シライではなく、エイジ。
「テラショーー!!」
 この声も、交錯する。スタンドの1マーク寄りにいた私は、それを聞きながらピット方面を見つめた。徳山には対岸の大型モニターがない。遠目で睨みつけた待機行動は、観衆の喧騒とは裏腹にひどく淡々と静かに見えた。隊形は誰もが予想した通りの枠なり3対3。12秒針が回って、等間隔に幅をとった6人が真っすぐこちらに向かって来る。スタートタイミングは、よく分からない。分からないが、白井の艇がほんの少しだけ大きく見えた。

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 遅れてはいない?
 思っている間にも6艇はぐんぐん近づき、近づくごとに隊列が鮮明になってくる。半艇身ほど抜け出している白井が、目の前を通過した。同時にターンマークへと舳先を傾ける。昨日は寺田を差しきった怖い怖い茅原が、ガツンとハンドルを入れるのが見えた。外からは何も来ない、一騎打ち。まずは白井が豪快にターンマークを旋回する。握り過ぎではないか、と不安になるほどの握りマイに見えた。その内側に、茅原がダイナミックなフォームで舳先を滑り込ませた。視線の角度の関係で、茅原だけがグンッと伸びる。

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 今日もかっ??
 一瞬だけ思ったが、そこから白井がスッと突き放して行く空気を感じた。私の周辺の地元ファンも、同じような心の推移だったはずだ。はっきりと1号艇が抜け出していると分かった瞬間、嬉々とした叫び声がほぼ同時に湧きあがった。合唱のようなその大きな響きが、白井英治のふたつ目のSG制覇、64年ぶりの徳山SG制覇、そして山口支部レーサーにとって初めての地元SG制覇を告げる勝利の号砲だった。

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 3周を走り終え、また真っすぐこちらに向かってくる白井はゴールの瞬間に静かに頭を下げた。それからすぐに上体を立てると、今度は徳山の空を仰いだ。そのまましばらく、白井は空を眺め続けていた。何を見ていたか、何も見ていなかったか。
「地元に、本当の恩返しができたな」
 5分後、ウイニングランを待つ60歳くらいのおじさんが、ボソッと呟く。
「ホントに素晴らしいSGだったわぁ。俺の夢が叶った。昨日の準優のアレ(おそらく1900倍だろう)を獲るより嬉しいわ」
 40歳くらいの兄さんが、彼女なのか奥さんなのか、30歳くらいの女性に力説し、女性がうん、うんと何度も頷く。

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 周囲を見回すと、スタンドはまだ超満員だった。2階と3階のバルコニーも、その前に連なる長い通路も、溢れんばかりの人々が身体を寄せ合うようにして水面を見つめていた。レスキューに乗った白井が現れると、またしても大歓声。あの若松メモリアルでは何度も拳を天に突き上げた白井が、今日は静かに手を振りながら観衆を見つめていた。その顔は、やはり若松での満面の笑みとは違って、泣いているようにも嗚咽をこらえているようにも見えた。歓声、また歓声。
 そんな光景をぼんやり見つめながら、私はこんなことを思っていた。
 きっと寺田が勝っても、ほとんど同じ光景なんだろうな。と。観衆も、寺田本人も。

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 さらに30分後、記者席でインタビューを終えた白井に、私はこんなことを言っていた。
「師匠、これで正真正銘のホワイトシャークですね」
 何秒かがたってから、白井は静かに頷いた。
「ああ、そう、そうだね。白で、勝てたね」
 本当はもっと違う、いろいろなことを聞きたかったのだが、なんとはなしに聞きそびれていた。(text/畠山、photos/シギー中尾)