BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――緊張感

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 明らかに空気がピリピリしてきた、と思う。当確者皆無のトライアル2nd。全員が勝負駆けという状況では、当然のことだろう。井口佳典の顔色も明らかに違う。実に声をかけにくい雰囲気があふれ出ていて、それでもすれ違う際に会釈をすると、一瞬目をそらして、軽く会釈を返すだけだった。一昨日とはえらい違いだ。そんな井口に、ゾクゾクさせられる。これがトライアルだ、そんな気分になる。

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 白井英治の動きも変わった。昨日までは余裕たっぷりで過ごしていた朝、しかし今日は早くからプロペラ室にこもっていた。服装も、胸に獺祭と刺繍されているグランプリジャンパーだ。今日は早くも戦闘態勢に入っている。勝負駆けであることはもちろん、昨日の“謎の”失速を今日は繰り返さないため、その原因を究明しつつ、対策を施す。

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 菊地孝平も、勝負どころで見せる思索の表情。控室から自艇に向かって歩いていく間じゅう、視線を落とし、両ポケットに手を突っ込んで何かを考え込んでいる。すれ違う時に挨拶くらいするのは礼儀だとわかっているが、その思索に割り込むことはとてもできない。思考を中断させるほうが無礼だと、その背中を見送るしかない。

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 峰竜太も、朝だというのにまるでレース直前のような雰囲気になっていた。ほんの数m離れたところに立っていたこちらの存在も目に入っていないようで、ややカタい表情をしながら通り過ぎる。何日か前は、向こうから歩み寄ってきたというのに。峰もやはり戦闘モード。太陽のような峰ももちろん魅力的だが、ピリピリしている峰はなかなかに格好いい。
 やはりグランプリは、こんな緊張感がふさわしい。選手の視界に入らないほうがいいような気がして、つい隅っこのほうに向かってしまう、そんな緊張感。トライアル最終戦になって、その空気が一気に高まってきた。

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 シリーズ組も、準優勝戦組はやはり気持ちが入る。新田雄史は、すれ違いざまに挨拶すると何も反応がなく通り過ぎた。無視されたということになるのかもしれないが、僕はそうは感じていない。これこそ、スイッチを入れたときの新田雄史だ。オールスターでもそうだった。準Vだったあの準優、優勝戦の日。気持ちが入り、極限の集中力になっているのだ。今朝はこの三重の師弟に実にゾクゾクさせられたな。穏やかで朗らかな選手たちの様子も大好きだが、やはり大勝負を目前としたときのこうした様子もたまらないのである。

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 石野貴之は、1R発売中は係留所にボートがあったが、2R発売中にはボートを上げて、本体を外している。整備に取り掛かるようだ。石野は、まだ来年のクラシックの権利がない。これはクラシックの勝負駆けでもある。それを考えているかはともかく、シリーズに回ったとはいえ、ここは重要な勝負なのである。

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 対照的に、平尾崇典は昨日までと変わらずに淡々と過ごしている。まあ、ずっとマスクをしていて表情がうかがいにくいので、そのマスクの下に闘志が隠れている可能性はあるけれども。まだ大きな動きも見せておらず、そのあたりは超抜の余裕か。とにかく、取りこぼしそうな雰囲気はほとんど感じない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)