BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――スマイル

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 11R締切7分前くらいだっただろうか。展示ピットがひとつ空いたままになっていた。黒の旗をつけたボートがない。守屋美穂はギリギリまでプロペラ調整を続け、締切5分前のアナウンスがピット内に流れたころ、ようやく試運転係留所にあったボートを展示ピットに移した。
 もう時間が残されていないから、そこからがまた慌ただしい。走って控室に戻り、急いで本番用のカポックと勝負服を整え、また走って展示待機室へと向かう。少しばかりの焦りもあったことだろう。必死な表情で守屋は走った。
 それが実った! 12R、差し切りで見事に1着。朝はそれほどの手応えでなかったようだが、12Rにはしっかり仕上がった。それも、ギリギリまでペラ調整を続けた成果であろう。出迎えた選手たちにニコニコと笑顔を返す守屋。とことん調整したこと、それで1着を獲れたことは、守屋の胸に充実感を生じさせたはずだ。

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 11Rを逃げ切った長嶋万記も、土屋実沙希ら後輩たちに満面の笑顔を見せていた。前検後は「まだワクワクする感じがない」と言っていた長嶋。しかし今日一日の調整で、方向性はしっかりと見つけたようだ。だから「明日から楽しめそう」というコメントになる。明日以降の調整作業は何をすればいいのか、はっきりつかめた。しかもレースは1着の好発進。長嶋もまた、大きな充実感を抱いて初戦を終えることができた。短期決戦においては、このポジティブなメンタルがきっと武器になる。

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 両レースとも、2着はベテラン勢ががっちりと獲り切った。山川美由紀も日高逸子も、今日の手応えの共通点は「乗りやすい」。今日は風が強く、水面が荒れ気味だったので、その部分がアドバンテージになった。記者会見では二人ともゴキゲン。山川は展示タイムの遅さを、つまりは伸びがもうひとつなことを表明したのだが、そのとき12Rの展示タイムが会見場のモニターに映された。それを見た山川、「小野生奈と20も違う!」と苦笑い。断然のトップタイムを出していた小野生奈とは、たしかにコンマ20の差があった。小野との足合わせではそれほど差はなかったというから、不思議なものだ。日高の会見中にはリプレイが映し出された。日高がまくりを放ったとき、ターンマーク際にたむろしていた鳥たちが羽ばたいていくのが映っていた。「鳥が気になっちゃって。轢いちゃうんじゃないかと思った(笑)」。山川も日高も、そうして報道陣を笑わせるのだった。

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 一方、注目機を引きながら初戦6着と大敗してしまった中谷朋子は、やはり神妙な表情になってしまう。一昨年の平和島クイーンズクライマックスでも中谷は2連対率トップのモーターを引きながら初戦6着。そこからリズムを立て直せずにファイナル行きを逃した。今年はその二の轍は避けたいところだ。レース後はペラを外しており、思い切った調整もありうるか。

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 1号艇を活かせなかった小野生奈は、本音が顔に出ていたかどうか、意外と明るいレース後であった。竹井奈美と話しながら、笑みもこぼれた。むしろ竹井のほうが神妙だ。10R終了後に陸にあったボートを着水するとき、その表情は完全に“入っている”ように見えた。女子の第一人者らしい風格も見えた。しかし、もちろんそれがレースに直結するわけではない。しかも舟券圏内をも外してしまい、思うところはいろいろあると思うのだが。僕の手応えでは、もちろん本音の笑顔には見えていない。

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 ホッとした表情だったのは細川裕子。敗れたとはいえ、6号艇の3着は上々の初戦、である。しかも道中で小野を抜いており、後々この1ポイントが運命を左右することもありうる。昨年は最終戦で6号艇を引いて、4着でファイナル行きを逃している。今回は初戦の6号艇を3着。この差は大きい。もともとコース不問の攻撃力があり、しかも舞台は平和島。この3着でかなり不気味な存在になってきた、と思う。

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 さあ、枠番抽選だ。わりと淡々とした雰囲気で進行した、というのが最初の実感。小野生奈が緑を引いたとき、小野の動きが一瞬止まったのと、竹井奈美が白を引いたときにちょっと空気がざわめいたくらいで、先に抽選したA組は粛々と6名がガラポンを回していた、という感じだった。

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 盛り上げたのはベテラン勢。B組2番手の山川美由紀が白を引いた。山川、小さくガッツポーズ! これに、まず寺田千恵が反応した。「やっと抽選運が来たんじゃない?」。たしかに山川のクイーンズクライマックスは、抽選に恵まれたという印象はまるでない。それどころか、よく緑を引いているイメージもある。それは、唯一のクイクラ皆勤賞である寺田も同様に思っていただろうし、1回だけシリーズ回りだっただけの日高逸子も同様だろう。というわけで、次は日高。「初めてじゃないの?」「いや、2回目」。そう言って、ベテラン3人は笑い合う。

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 寺田は自分の順番でも笑わせた。5番手の抽選で、残っていたのは黒と緑。祈りながらガラポンを回したが、なかなか球は出なかった。慎重に慎重に回して、出たのは……緑!
「出したくなかったの! だって、緑が見えてたんだもん!」。ゆっくりと回したから、穴から緑色が覗き見えていたらしい。こんなときに出ちゃうんだよなー。というわけで、苦笑いしながら天を仰ぐテラッチなのだった。

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 シリーズ組。川野芽唯が残念ながら負傷帰郷してしまった。10R1周2マーク、廣中智紗衣が失速したあおりを受けて艇が止まり、そこに中川りなが避けきれずに接触(廣中が不良航法、中川は転覆)。そのときに左腕を強く打ってしまった。深川麻奈美が、中川の転覆艇引き上げに参加しつつ、川野の身を案じて医務室と往復。川野は左腕をだらりと下げながら、深川に付き添われて帰郷の準備を始めていた。無念の表情だった。
 これでドリーム組からは今井美亜につづいて帰郷者が出ることに。シリーズ組は波乱の気配が漂っている。

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 その転覆艇引き上げは、福岡勢が主導して行なわれているが、そこには實森美祐や土屋実沙希、さらには角ひとみや岩崎芳美も参加していた。手が空いていて近くにいれば、支部や先輩後輩問わずにヘルプする。SGでももちろん見かける光景ではあるが、女子ではよりその傾向が強いような気がする。そのうち角は、いちばん最後まで試運転をしていた一人。終盤の時間帯に、いろんな意味で最も走り回っていたのは角だったかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)