BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

波乱含みの勝負駆け

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 ピットに悲鳴が響いた。10R、6コースの細川裕子がスリットを過ぎたあと、消波装置に乗り上げたのだ。それがポールが立っているあたりのことだったから、ボートごと激突するのではないか、と一瞬案じられた。それは回避できたものの、エンジンは停止。細川はエンスト失格となっている。

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 それで済めばよかったが、「選手負傷」のアナウンスがかかってピットに緊張感が走る。後輩の水野望美がいち早くボートリフトに駆けつけて、心配そうに1マーク方向を見やった。すべての艇が帰ってきたあと、細川は担架で医務室に運ばれ、ピットの空気はさらに重くなる。幸いなのは、明日の準優勝戦に名前が載ったこと。負傷といっても、出走に問題はないようだ。明日は今日の不運を弾き飛ばす奮闘を期待したい。

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 事故があったレースだから、完走した5人も一様に不安げな顔つきで上がってきている。勝った寺田千恵も2着の津田裕絵も、あるいは4着の土屋南も、表情に勝者敗者の区別は見えなかった。細川の状態を案じていたのだろう。この事故に関わってしまった香川素子の様子は、とりわけ動揺しているように見えた。結果的に不良航法をとられ、減点により予選落ちとなってしまっているが、そんなことなどまるで頭になく、ただただ細川の無事を願っているようだった。着替えを終えたあと、おそらく不良航法を告げるためだろう、競技本部への招集アナウンスが入ったときも、香川は納得したような表情ですぐに歩を進めた。時として不良航法がとられるレースは起こるが、選手たちは相手にケガをさせようなどともちろん思っていないし、そしてケガをさせることは絶対に避けたいと願う。それでもこうした事態は起こってしまうし、そのときには当事者もそれ以外の選手も、仲間のことをひたすら思うのである。

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 寺田千恵にとっては、選手代表として複雑な思いもあったようだ。事故については重く捉えてしまうのは仕方がないだろう。11Rで富樫麗加と西橋奈未がフライングを切ってしまったときにも、寺田は激しく顔を歪めていた。選手代表として、また念願の女子ビッグを迎えた地元の顔役として、是が非でもこのレディースオールスターを成功裏に終わらせたい。事故はまず避けたいし、スタート事故に関しては売上にも響いてくるから、胸を締め付けるものになってしまう。さりとて、事故の当事者たちを責めるわけではなく、ただただ心に重いものを抱えることになる。その責任感が寺田の心を曇らせる。といっても、レーサー寺田千恵となれば話は別。11Rの結果を受けて準優1号艇が確定、それを伝えられると明るく笑って「ヤッター!」と両手をあげた。テラッチにはスマイルがよく似合う。代表としていろいろあるだろうが、レーサーとしてはたくさんの笑顔を見せてほしい。

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 スタート事故も含め、事故全般は選手にとって他人事ではない。だから誰もが胸を痛める。そして、それによって落ち込む者には優しい言葉もかける。着替えを終えて姿をあらわした富樫には、先輩の清水が声をかけ、おどけたように抱き着いて慰めていた。西橋に対しては、12Rの展示から戻ってきたところで出くわした先輩の今井美亜が優しく声をかけている。細川も香川も富樫も西橋も、明日からも頑張れ!

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 12R、遠藤エミが逃げ切り。これで予選トップを手に入れた。昨年の地元レディースオールスターでも予選トップ通過だった遠藤、結果は記憶に鮮明という方も多いだろう。まさかの準優F。遠藤にとってはそのリベンジの機会であり、嫌な記憶を振り払うチャンスでもある。

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 一方、遠藤が逃げても2着ならトップ確定だった田口節子はまさかの大敗。予選4位まで後退してしまった。ある程度の状況を把握していたのか、田口の表情はひたすらに硬く、また控室へ戻っていく足取りは重かった。とはいえ、田口の本気モードがここで途切れるわけではない。準優は2号艇から虎視眈々と勝利を狙う。

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 18位は深川麻奈美。6号艇6コースからの2着で勝負駆けを成功させた。お見事! フライング2艇が出たレースとはいえ、しっかり最内を差してきたもので、ほんと、この人の6コースはまったく侮れない!(なにしろ初優勝が6号艇6コース)同期の津田裕絵が大喜びしていたし、深川もニッコリ。明日も6号艇、不気味な存在だ!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)