BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――今年最初の、平成最後のSG準優

10R 濃い戦い

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 山田康二には、ただただ悔しい準優となった。長田頼宗に差されたのはまだしも、道中で徳増秀樹に抜かれて優出まで逃してしまった。ピットに戻った山田を一言であらわせば、呆然、である。

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 長田頼宗は、会心の差しだ。昨日の2コース戦は、ツケマイ策に出て6着。長田曰く「あれがあったから、今日は冷静に周りを見ることができた」とのこと。前日の失敗をいきなり活かすことができたわけだ。
 長田にとって、大きな刺激となったのは、昨年のチャレンジカップ。同期の馬場貴也の優勝を間近で見たことだ。SG制覇は自分のほうが先だが、グランプリ行きは馬場に先んじられた。今年は多摩川グラチャンがあり、気合の入る1年。そうした思いがひとつ結実したのが、このクラシック優出と言ってよさそうだ。

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 2着は徳増秀樹。前付けで3コースを奪い、道中逆転で優出。うむ、「濃い」レースであった。山田を抜くシーンでは接触もあったが、山田がキャビって避けようとしながらも接触してしまったもの。複雑な思いもあるだろうが、濃いレースをしたからこそ手にできた優勝戦のピットである。
 結果的に、明日も6号艇だ。さあ、どうする? まず「カマしても売り切れる。2マークから小回りブイのあたりからの起こしが理想」とのこと。ということは、やはり前付け策に出る公算が大きいだろう。明日のキーマンは徳増! 明日も濃いレースを見せてくれるだろうか。

11R 初々しい新風と貫録の1号艇

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 シンデレラボーイの誕生だ! SG初出場の桑原悠が、SG初優出まで手にした! 何やら14年前の笠原亮が頭にチラつくのだが、それはさておき。本人も「嬉しいというよりビックリしてます」と語った通り、ピットに戻った桑原の笑顔には「アンビリーバブル」と書いてあるようだった。
 その後もとにかく初々しい。共同会見の場にあらわれて、満席の報道陣を眺めながら、やや挙動不審に(笑)。どうぞ腰かけて、と言われてようやく椅子に座ったが、未体験の光景に明らかに戸惑っていた。このクラシックのポスターに書かれているキャッチは「新たな伝説の予感。」。桑原が優勝すればまさにこのキャッチに符合するわけだが、それを報道陣に指摘されても、桑原は「そんなの見る余裕ないです」と苦笑いだ。
 しかし、今日のレースぶりや自分の足色については、冷静に捉えられてもいる。それをふまえての明日の戦略については「宿舎で大先輩(原田幸哉)と作戦会議(笑)」とまだ決めかねているようだが、今節はチルトを使い分けて足の特徴を活かしており、同じことができれば脅威の存在となるだろう。原田先輩も、的確なアドバイスよろしく(笑)。

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 一方、吉川元浩は実に落ち着いた様子。逃げ切って帰還したピットで、出迎えた仲間に笑顔を向ける瞬間はあったが、さすがキャリアが違う、地に足がついている。個人的には足も節イチクラスだと思っており、結果的に1号艇となった優勝戦、最有力V候補はやはりこの人となるだろう。
 戸田SGは7年ぶりだが、その7年前のクラシックを勝ったのは馬袋義則。つまり、戸田SG兵庫勢2連覇がかかっている。と指摘されると、しばらくの沈黙のあと、なぜか爆笑。吉川も「なんで笑うねん」と自分に突っ込みを入れていた(笑)。思い出す7年前、逃げ切って帰ってきた馬袋は兵庫支部の面々に向かって「…………(俺で)ええの?」と言って、みんなをズッコけさせていた。SGウィナーらしくない、と言っては失礼だが、まるでカッコつけるところのない等身大の人柄があふれていた。吉川もそんな馬袋を思い出したのだろう。「優勝戦の朝、宿舎の自販機でジュースを買ったら、当たりが出たらしいんですよ。僕も当たるまで買おうかな」と吉川の会見にしては珍しいジョークも飛んだ。なお、昨日畠山も書いていたが、戸田の優勝戦は1号艇(1コース)16連勝である。昨年の11月中旬からインは負けていないのだ。そのジンクスを継続できるかも、吉川にはかかっている。

12R 地元勢とホワイトシャークの無念

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 締切3分前、中田竜太が装着場をうろうろしていた。「あー、緊張する。あー落ち着かない」。大事な一戦の前、本人より周囲が緊張するということはよくあることらしいが、中田がまさにその状態。今日は5日目で、レース後はボート洗浄があるのに、中田はアカクミ(スポンジ)を2つ手にしてモニターの前に陣取る。それ、今日はいらないでしょ。それくらい中田はそわそわしていたのだ。
 中田はレースを、一言も発せずに、表情も変えずに見入った。先輩が握った1マーク、渾身の小回りで2番手に浮上した2マーク、内から並びかけられ不利な態勢になった2周1マーク、ツケマイ及ばずの2マークと、中田は叫ぶことも溜息をつくこともしなかった。ただ、ゴールの瞬間は明らかに肩を落とした。戸田SGで、地元から優出を出せなかった。そのことを無言で悲しんでいた。

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 3着に終わってしまった桐生順平。当事者だから、その落胆ぶりは中田以上に見えた。ピットに戻ったとき、ちょうどモニターがリプレイを流し始めた。桐生は画面に釘づけになっていた。その走り、その旋回を確認せずにはいられなかったのだろう。眉間にはシワが寄っていた。リプレイが終わったとき、桐生のボート洗浄はもう始まっていた。それに遅れて駆けつけるのを厭えないほど、悔いの残るレースだったのだ。
 桐生も中田も、待ちに待った地元SGで、劣勢のモーターを立て直しながら、感動的な奮闘を見せてくれたと思う。桐生は準優で優出争いを演じ、中田も準優勝負駆けに持ち込んで勝負駆けらしい気合のレースを見せた。二人にとって、前検からの6日間は今までで最も疲労度の大きいSGになったはずだ。結果は残念。しかし胸を張って、明日は戸田SGを満喫してほしいな、と思う。

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 勝ったのは馬場貴也! 5コースからのまくり差しが鮮やかに決まった。切れ長の目がさらに細くなって、喜びを満面に称えていた。
 長田、馬場と93期から2人が優出! 馬場は「2人で優勝戦を走れるとは夢にも見てませんでした」とその感慨を語っている。さぞかし長田も喜んでるだろうと思って話しかけたら……「あんにゃろー、って感じですよ。馬場だけには絶対に負けたくない!」。ダハハハハ! つまり長田もめちゃくちゃ嬉しいのである。毒島のいる92期、岡崎のいる94期に挟まれた93期は、実績ではやや遅れをとったが、SG覇者が2人出て、明日は一緒にSG優勝戦を戦う。「こうなったらワンツーフィニッシュですね。もちろん僕が前で!」。馬場ももちろん、同じことを考えているだろう。二人の真っ向勝負を楽しみにしよう。

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 予選トップの白井英治は2着。去年は優勝戦で唇を噛み、今年は準優で悔恨を抱えた。一時は優出も危うかったが、なんとか2着を保ったのが幸いではあった。「正直、1マークは最善を尽くしたと思います(桐生のツケマイをブロック)。あれ以上やりようがない。ただ、もう少しスタートで先手を打ちたかった。向かい風が利いていて、届かなかった」。レース直後にスリット写真を見て唸っている白井。悔しさのなかで、敗因を冷静に分析できてはいる。
 徳増の前付けへの対応を会見で問われたときは、軽口も飛ばした。「明日は薄めでお願いしますと言っときます。濃く来るなら、ちゃんと濃く来てくれないと困る。そのときは勝つために、たぶん入れます。でも薄めならダッシュに行ってくれないと」。徳増が優勝戦で薄めにするとは思えないが(笑)。ただコースではなく勝利にこだわるという言葉には、ある種の心強さがある。
 会見を終えて、白井と顔を合わせた。ふっと目元が緩み、僕の前頭部を人差し指と中指で撫でながら、「いいことがありますように」。えー、このハゲ頭になんの御利益があるとは思えませんが(笑)、もしいいことが白井英治の身に起こったら、明日のレポートは「黒須田のおかげ」と書かせてもらうかもしれません。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)