BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――地元勢が……

10R 仁志、無念……

f:id:boatrace-g-report:20190525171357j:plain

 記者席からピットに向かう途上で、イベントのため来場していた篠崎元志とバッタリ会った。お子さんを抱え、「こんちは!」と爽やかに笑う元志。お子さんがまためちゃくちゃかわいく、手を振ったらニコッと笑って手を振り返してくれた。
 仁志が勝つ! いや、元志に会ったから仁志が勝つなんて短絡的すぎるわけだが、しかし僕は勝手にそんな予感を覚えたのだった。
 桐生順平との2番手争いを制したとき、ほらっ、やっぱり! そんなことを思った。時間的に考えて、元志はまだスタンドのどこかにいて、10Rを見ていたかもしれない。よしっ、と手を叩きながら。
 しかし3周2マーク、桐生に再逆転されてしまう。ああ……。仁志が3着にしりぞいた瞬間、おそらく福岡支部の面々だろう、悲鳴のような声が小さく聞こえてきた。仁志にとっても、元志にとっても、福岡支部にとっても無念。エンジン吊りでは仁志の心中を慮ってか、後輩たちは声をかけていない。ただひとり、新田雄史だけが仁志の胸をポンポンと叩いてねぎらいの言葉をかけていた。うーん、仁志を買い続けてきた僕も無念です!

f:id:boatrace-g-report:20190525171440j:plain

 茅原悠紀が逃げ切り。ゴキゲンな笑顔を見せながら、ピットに戻ってきている。公私ともに仲のよい菊地孝平が嬌声をあげて茅原を称える。毒島誠は、桐生のエンジン吊りに参加しながら、茅原に目配せして勝利を祝福した。今日はレース後にボート洗浄が行なわれる日だが、その作業の間も茅原は高揚感を醸し出す。こんな茅原を見たのは久しぶりだなあ……。

f:id:boatrace-g-report:20190525171511j:plain

 2着の桐生は、仁志に頭を下げて競り合った相手に配慮を見せた。もともとニュージェネの盟友でもあるから、それだけで気持ちは伝わったはずだ。最後の最後に逆転勝ちで、安堵した様子も見えた。まずはひとつのノルマをクリアして、肩の荷が下りたといったところだろうか。桐生の福岡SGの優勝戦は過去、6着と転覆。明日はその嫌な思い出をしっかり塗り替えたいところだ。

11R 颯仁、残念……

f:id:boatrace-g-report:20190525171758j:plain

 SG初準優だった仲谷颯仁は、立派な戦いではあったが、それで納得など本人はひとつもしていないだろう。1マークを握って攻めて、バックではたしかに2番手を走ったのだ。しかも、内で粘っていた湯川浩司と伸びてきた岡崎恭裕が2マークは競り合う格好になり、絶好の展開が仲谷に向いたようにも見えた。しかし、そのうちに疾風のように切り込んできた平本真之に並びかけられた。結果3着。最も悔しい着順となってしまった。
 ピットに戻ると、やはり平本が仲谷に声をかけている。平本には先輩の貫録のようなものも見えて、だからこそ仲谷にとってはさらに悔しさが襲ってきたことだろう。その仲谷をここでもねぎらったのが新田雄史。新田の言葉に耳を傾けながら、仲谷は唇を噛み締めた。
 本当に悔しかろうが、しかしこれでひとつのステップを上がったとも言える。予選を突破し、準優も健闘し、大きな悔しさを味わった。この経験は確実に仲谷を大きくさせる。あと、羽野直也も刺激を受けたんじゃないかな。今日のところは、その奮闘に拍手を送ろう。

f:id:boatrace-g-report:20190525171841j:plain

 逆転優出の平本は、勝ったときも素直に感情をあらわにする男なので、もうニコニコなのであった。元愛知支部の先輩・原田幸哉にも祝福を受けて、さらに笑顔は深くなった。仲谷を気遣ったのはその直後のこと。そのときには、笑顔は微笑程度になり、肩をひとつふたつ叩いている。

f:id:boatrace-g-report:20190525171914j:plain

 そして、勝った峰竜太もニコニコ! 弟子の山田康二、上野真之介に出迎えられて、その周囲はパーッと明るくなっている。ボート洗浄の際には、こちらに気づいて親指を立て「やった!」。ほんと屈託のないスーパースターである。
 会見では「ファン投票1位で優出できたのは初めて。今までは本当に悔しかった。これで僕の思いをみんなに伝えられると思う」と殊勝なことも言っている。もちろん勝てればいちばんいいわけだが、そうでなくとも峰らしいレースで1位の感謝を水面に立ち昇らせてくれるだろう。

12R 西山、残念無念……

f:id:boatrace-g-report:20190525171952j:plain

 結果的に、地元勢最後の砦となった西山貴浩。レース前には西山らしい(そう、実は西山らしい、のである)気合のこもった表情を見せていたし、レースも強気に攻め込む、思いが伝わるレースであった。2番手もあるか、というバックの態勢になりかけたが、やや流れ気味となって3着。終わってみれば地元勢はすべて3着、あと一歩で優出を逃すかたちとなってしまった。残念無念、としか言いようがない。
 ピットに戻った西山は、まずは対戦相手に挨拶回りをしたあと、ボート洗浄へ。その間中、西山は時にブツブツ言いながらも、ひたすら顔をしかめていた。最後には、洗浄用のスポンジをこっそり地面に叩きつけた。とにかく優出したくてたまらなかったのだ。

f:id:boatrace-g-report:20190525172028j:plain

 西山の野望を砕いたのは、吉川元浩と白井英治。11Rまではニュージェネ勢が優勝戦ピットを埋めていったが(峰によると、ニュージェネは解散したそうですが・笑)、最後の最後に登番3000番台が貫録を見せた。吉川はもう、とにかく淡々としたもので、優出の喜びや優勝戦1号艇を決めての心地よさみたいなものはまるで伝わってこない。やるべき仕事をさらっとしたらポールポジションだった、という雰囲気で、もはやメンタル的にも死角は見当たらないのではないかと思えてしまう。思えば、SG初制覇となった07年グランプリの舞台がここ福岡。もっと息が詰まる優勝戦1号艇をとっくに経験し、さらに経験を積み重ねてきたのだ。少なくとも、プレッシャーに押しつぶされてのミスはありえないと思うのだが、どうだろう。

f:id:boatrace-g-report:20190525172053j:plain

 白井は、優出を決めた嬉しさ、あるいは安堵をほとんど醸し出さず、ずっと苦虫を噛み潰したような表情を見せていた。準優は2着で良し、という考え方はこの男にはないということか。それとも吉川のパワーを最も近くで見せられて、明日への不安も生じたか。とにかく、11R2着の平本は実に対照的な白井であった。明日は5号艇。将棋好きのこの男が、どんな戦略、定石を用意するだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)