BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――梅雨の思索

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 寒暖計など見なくても、湿度が上がったのはわかる。それくらい、ジメジメしている3日目。気温はそれほどでもないのに、不快度は明らかの上昇している。念のために寒暖計を見ると、昨日は湿度40%くらいだったものが、67%に上昇。梅雨、ですね。
 湿度が上がれば回転は上がらなくなる、がセオリーで、だからプロペラ調整室は大盛況となっている。12R1回乗りの菊地孝平が、早くもハンマーを振るって調整中。エンジン吊りに出てきたときなども、調整の方向性を探っているのか、深く考え込む表情も見せている。

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 やはり12R1回乗りの石野貴之は、すでに水面に出ていた。試運転から係留所に戻り、ペラを外して調整室へ。こちらも動き出しはかなり早い。時間的に余裕があるせいか、切羽詰まった様子ではない。それでも、時間はいくらあっても足りないのだ、という意欲は感じられる。

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 白井英治が1R発売中に水面に出ていった。これもかなり早い。白井は11R1回乗りだ。白井は序盤の時間帯はマイペースに過ごし、ケブラーズボンやシューズを身に着けずにジャージのままエンジン吊りに出てきたりすることも多い。それだけに、この動き出しは少々異例とも言える。一昨日は僕のヒザを笑って気遣い、昨日なども「こんちわー」と明るく声をかけてきた白井が、今日はすれ違っても難しい表情のままだった。やはり、どう調整するべきか、という今日の命題が頭を占めているのだろう。

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 ようするに今朝は、思索をめぐらすような表情を見せている選手が実に多かった。昨日の11R後はテンションめちゃ高だった峰竜太にしても同様。今日のような日は、必然的にそうした様相を呈することになるわけである。

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 ピットに胴長の巨人あらわる!? といっても首から上がないわけだが。これ、実は王者なのだ。試運転に出ようとカポックを着こもうとした松井繁。そのとき、松井から声をかけたのか坪井康晴が声をかけたのか、松井がカポックをかぶろうとする寸前で会話が始まった。すると松井はこの態勢のまま会話を進めた。それを後ろから見たら、巨人登場にように見えたというわけだ。湿気と選手の思索で空気も重く感じる朝、ちょっと微笑ましかったシーンでありました。

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 その松井が、1Rで2着に入った木下翔太を出迎え、二言三言、話しかけた。それまで淡々としていた木下の顔が、一瞬で緩んだ。王者の言葉が魔術ででもあるかのように。この若者にとっては、松井との絡みの1秒1秒が血肉となっているに違いない。大阪支部の選手が頭角をあらわし、最強支部を形成していくことになるのには、技術だけではないこうした部分も大きく寄与しているように思える。その相手が田中信一郎、太田和美らであっても同じことだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)