BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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大村メモリアル優勝戦 私的回顧

かぼちゃ馬車パワー

12R優勝戦
①毒島 誠(群馬)09
②前本泰和(広島)15
③菊地孝平(静岡)06
④石野貴之(大阪)17
⑤重成一人(香川)18
⑥桐生順平(埼玉)21

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 群馬の雄・毒島誠が26%のワースト機を育て上げて52人の頂点に立った。去年の丸亀に続くメモリアル連覇。SGタイトルは13年の丸亀メモリアル、17年の下関チャレンジカップ、18年の若松オーシャンカップも含めて全5冠。すべてナイター開催だから、文字どおり「夜の帝王」の称号を授けたい。これだけ“絶倫”なのだから、地元・桐生、住之江、蒲郡のSG制覇も時間の問題だろう(笑)。

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 レースそのものは、昨日に続いて薄氷の勝利だった。いや、1マークの危険度は昨日よりはるかに上。この大本命の肝を冷やしたのは、やはり韋駄天・菊地だった。昨日の準優で1号艇の峰竜太ら3選手がフライング(5億返還)、さらに今日は直前の11Rで峰の愛弟子、山田康二がやはり1号艇で勇み足(3億返還)。これだけの“損害”を施行者に及ぼした直後のファイナルとなれば、どの選手も平常心でのスタートは難しい。ゼロ台の半ばまで踏み込めるとしたら、突出したスタート勘を持つ男だけ。

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 菊地は行った。コンマ06! 両サイドはぴったり1艇身だから、まさに唯我独尊のロケットスタートだ。もっとも大きなプレッシャーを担う毒島もコンマ15前後なら、おそらく菊地は迷うことなく絞めまくったことだろう。
 だがしかし、毒島の集中力と度胸も艇界屈指。しっかりとゼロ台まで踏み込んで、菊地への迎撃態勢を築いていた。まくりは無理、と判断した菊地は、得意の3コースまくり差しに作戦を絞る。1マークの手前で凹んだ前本をツケマイ気味に絞め込み、迷いのない差しハンドルを突き入れた。

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 ズッポンッッ!!
 音の鳴るような絶品差し。その舳先は間違いなく毒島を捉えたし、回った直後は舳先が揃ったほどに見えたものだ。完璧な3-1態勢だ。今節は4日目からインが強い大村モードに突入したのだが、インを負かした7選手はすべて3コース(Fのレースを除く)。その7勝のうちの5勝がまくり差しで、「やっぱり最後もコレだったか!!」と確信したほどだった。

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 そこからだ。ターンの出口から、2艇のパワー差が露骨に現れる。菊地73号機の最大の弱点である行き足~伸びが、少しずつ相棒の勝利を危うくしていく。半艇身、1/3艇身、1/5艇身……バック直線のセンターを過ぎたあたりで、あれほど深く貫いていた菊地の舳先はあっけなく振りほどかれた。キャブレターを交換するなどレース直前まで整備に明け暮れた菊地の労苦は、残念ながら勝利には直結しなかった。逆に言うなら、菊地のパワーを子ども扱いにした20号機の出足~行き足を讃えるべきだろう。その足色は、もちろん26%のそれではなかった。

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 毒島がこの劣等生モーターに活を入れたのは、初日3Rの手前だった。まだ1走もしないうちにピストン2、リング4、シリンダーケースのいわゆる「セット交換」に踏みきった。この交換については前にも書いたが、早い者勝ちの一面がある。前年度までの優秀機のセットを移植するギャンブルで、もちろん一番乗り=「当たり」とは限らないが、早いほど「当たり」の確率は高まる。この同じ日、セット交換した選手は他に2人(寺田祥と今垣光太郎)いたが、八村塁レベルの優秀セットを引き当てたのは毒島だった。さらにキャリアボデーも交換した20号機は、上位級のモーターとも互角に渡り合えるパワーになっていた。かぼちゃが馬車に生まれ変わったように。

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 もちろん、それだけで優勝に辿り着けるほどSGは甘くない。その後も毒島は小まめに丁寧に20号機に手を入れ、(おそらく)声のない会話を繰り返し、レースごとにさまざまな日替わりの足色を見せながら、さらに逞しいモーターに成長していった。26%のモーターとともにSGの頂点まで昇りつめた7日間の物語は、レディチャンの「チヒロ64」とは対極をなす真のシンデレラストーリーと呼んでもいいだろう。
 前検の段階で「現状では無理」と見切る判断の早さ、すぐに行動に移す決断の速さ、その後の細やかな微調整とレースへの連動、多大なプレッシャーを跳ねのけるコンマゼロ台の度胸、そしてあのバック直線の勝利へのストレート足……それらすべてを兼ね備え、だからこそギリギリ逃げきった今節の毒島は、本当に強かった。フライングをとやかく言うつもりはないが、峰竜太の強さとはまったく異質の強さを改めて痛感した7日間だった。おめでとう、ブス君!!(photos/シギー中尾、text/畠山)