BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――グランプリに出るということ

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 9Rのエンジン吊りをひとり離れたところで待っていた今垣光太郎が、「これで大丈夫か」と呟いた。すなわち、「これで自分のグランプリ行きがほぼ決まった」ということだ。いや、僕はもう実質上、大丈夫だと思ってましたよ。そう伝えると、今垣は「いやいや」と手を振って、準優の結果がこれこれこうなったらぜんぜん危ない、と何パターンかの結果をあげた。そのなかには、もしも濱野谷くんが逃げて石野くんが飛んで、というものもあった。濱野谷くんの逃げは有力だが、石野くんはかなり安泰に思える、しかし何があるかがわからないのがボートレース、今垣の想定には含まれていたわけである。
 グランプリを目指すレベルの選手が、いかにこうした状況を把握し、また計算しているかを改めて痛感する。9Rで平本真之-毒島誠で決まったことで、自分はほぼ安全圏となったことを見越していたのだ(あのひまひまデータさんも9R終了後に今垣に当確を出している!)。そして、グランプリ出場がいかに大きな目標なのかということも、わかってはいたことだが、これまた改めて思い知る。今垣は「これでリラックスしてレースに臨めます」と笑って、エンジン吊りに加わっていった。

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 そう考えれば、準優敗退がそのままグランプリ行きを閉ざされたことになる19位以下の選手は、その敗戦を重くとらえるのは当然だ。9R3着の湯川浩司が見せた虚脱感。地元グランプリに手が届きかけたにもかかわらず、バッサリとそこへ続く橋を落とされてしまったのだから、動きや歩みが亀のように遅くなるというものだ。11Rで3着の篠崎元志も同様。前期B2級で賞金レースでは後れをとりながら、諦めるなどという発想はまるでなく、ここまで辿り着きながら、寸前で道は遮断された。グランプリに出続けなければいけないと己に課してきた男としては、ビハインドを跳ね返してよくぞここまで、という言葉は慰めにもなるまい。

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 一方、17位の茅原悠紀も準優敗退で、こちらは明日の優勝戦の結果を待つ身となった。優出しておけば結果的にグランプリ行きは相当に近づいていただけに、納得がいかぬような表情になるのも当然だ。それでもまだ有利は有利であるが、もやもやを抱えて明日を過ごすことになるのだろう。

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 大山千広にとっては、やはりまだグランプリは現実的ではなかったと思われるわけだが、かといって準優敗退を軽く受け止めているわけではあるまい。まさしく挑戦者の立場で臨んだ準優、しかし歯が立たずに6着大敗を喫したことは、彼女のなかに「やっぱり自分はまだまだ」という思いを生んだだろうし、だからこそ「必ずこのレベルで互角に」という強い決意も生じさせただろう。それでも、レース後は疲労感がにじみ出た。月並みな言い方だが、それも含めたすべての出来事が、まさにいい経験として彼女をさらに引き上げることだろう。

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 優出した6名のうち、4名がすでにグランプリ当確組だ。それにしても、毒島誠は本当にすごいね。これだけ機力に苦戦してきて、準優でもセット交換、クランクシャフト交換を施さねばならない状態だったのに、きっちり優出を果たしてしまうのである。ちなみに、クランクシャフト交換が正解だった模様。毒島は旋回力がよく取り沙汰されるわけだが、整備力、執念力(そんな言葉あるのか?)もまたとてつもないレベルにあると言うしかない。ちなみに毒島自身は「整備力ではなく整備士力」と笑っていて、今回も「(自分の要求に対応して)たくさん部品を出してくれた整備士さんは疲れたでしょうね」と気遣っていた。それを整備士さん快く行なってくれるのだとしたら、毒島の人間力もすごいということだ。

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 毒島はすでに賞金ランク1位でのグランプリ出場が当確しているが、石野貴之、井口佳典の目指すものは単にグランプリに行くことではなく「賞金ランク6位以内でグランプリへ」である。優出を決めてふたりは、はっきりそれを口にした。
 井口は今回、「優勝条件」と心を決めて、桐生に来たという。グランプリ当確ながら優勝条件というのは、もちろん優勝しなければベスト6には届かないということだ。優出はそのための関門をひとつクリアしただけにすぎず、明日はただただ優勝だけを考えて走ることになる。そのために、調整でも攻める、と井口は言った。結果的に4号艇、伸びをつけてまくり一撃を狙うということだろうか? それとも……。さらに、「久しぶりにぶち込みましょうかね」とも言った。出た! 井口の決め台詞「ぶち込みます!」。最近ファンになった方はご存じないかもしれないが、かつての井口は選手紹介や優出インタビューをこの言葉で締めるのが常だった。もう何年も封印してきたわけだが、ここで飛び出た! まあ多分にリップサービスであろうが、スタートもターンもプロペラもすべてにおいて攻めるのは間違いない。

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 石野は、優出したことで完走すれば柳沢一を超えることは確定した。3~4着でも瓜生正義を超える可能性が高そうだ。つまり限りなくベスト6入りに近づいたということである。それでも石野も「優勝しか考えない」と言った。1号艇に入ったからには、ということもあるだろうし、ベスト6入りが見えた以上、今度は「ひとつでも上位ランクで=トライアル2nd初戦をひとつでもいい枠で」を目指すことになるのだ。優勝しても2位の吉川元浩を超えるのは難しいが、トライアル初戦3号艇よりは2号艇を目指すのは当然である。

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 そうしたなかで、田村隆信はその類のことは考えずに臨むそうだ。ダービーのときも書いたが、田村の今のテーマは「落ち着いてレースをすること」。この先にある大事なものを、レースで無理をしたことでなくすことがないよう、自分を戒めているのだ。そう心に決めてから、鳴門周年を優勝し、蒲郡周年も優勝し、ダービーは予選トップ(田村にとってはいまだに悔しいものとなっているが)、そしてチャレンジカップ優出。きちんと結果が出ているのだから、これが正解なのだろう。6号艇で臨む優勝戦も、「自分から動くことはない」。前付けや跳ねチルトなどで変幻自在に戦う田村が大好きなこちらとしては少々寂しさもあるが、その強い思いがむしろ結果に結び付いていることを思えば、6コースからの捌きも楽しみではある。勝てばベスト6入り、準Vでもトライアル1st初戦1号艇、それを狙わずにしかし結果的に手にすることになった、なんてこともあるかもしれない。

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 逆転グランプリ出場組からは2人が優出。9Rを逃げ切った平本真之と10Rを逃げ切った濱野谷憲吾だ。平本は完走で17位の茅原を抜くので、かなり有利な立場。というか、完走当確か。それでも平本は、「ここまできたら優勝を狙う」と言う。それがレーサーのサガであろう。

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 繰上りで出場の濱野谷は、グランプリへは優勝条件だ。チャレンジカップ出場をいったんは逃し、その時点で閉ざされたグランプリの扉が、たまたま開かれた。そして、大下剋上のチャンスを手にした。桐生順平から「ぜんぜん繰上り感ないっすね」とからかわれていたが、桐生の水面に降り立った以上はそんなことは関係ないのだ。で、濱野谷は「2コース下手なの知ってるでしょ」と報道陣を笑わせる。年に2回か3回、会心のレースがあればいいほうで、「今年はGW開催と前節でやってしまってるから、明日はどうかな」とさらに笑わせる。その余裕、繰上り感というよりベテラン感が強いな(笑)。5人が登番4000番台のなか、濱野谷はただひとり3000番台。しかも3590だから500番くらい開いている。イメージとは違うのだが、明日は老獪な戦いぶりを見せてくれるかも!?

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 レディースチャレンジカップも優出メンバーが決まった。5人がクイーンズクライマックス当確組だが、やはりトライアル初戦の枠番をめぐる戦いにもなるわけだから、おろそかにはできない。9R終了後、優勝戦1号艇を手にした松本晶恵が試運転に出て行ったのだから、驚かされた。勝って兜の緒をギュウギュウに締めようとしているかのような動きだ。SGもGⅡも地元勢が優出を果たしたわけだが、1号艇で臨む松本は責任感がより強くなっているのかもしれない。

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 3号艇の遠藤エミも、まるでレース前であるかのようなプロペラ調整を、終盤の時間帯にしていた。ガッツンガッツンと、思い切りハンマーを打ち下ろしていたのだ。さらに2号艇の守屋美穂も、遅くまでプロペラ調整だ。8Rで優勝戦メンバーが決まるというのも珍しいことなわけだが、その後ものんびりとすることのない優勝戦内枠組。もちろん魚谷香織、平高奈菜の外枠勢も精力的に動いていた。日高逸子は整備室で椅子に座ってのんびりと記者さんと話していたけど(笑)。

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 というわけで、明日はアツいアツい戦いが11Rと12Rの両方で見られる贅沢な一日。年末を思い切り楽しむためにも、絶対に見逃せないですぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)