BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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平和島BBCT準決勝ダイジェスト

鬼足の興亡

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11R
①吉川元浩(兵庫)12
②瓜生正義(福岡)13
③赤岩善生(愛知)17
④井口佳典(三重)18
⑤田村隆信(徳島)20
⑥太田和美(大阪)19

 昨日は赤岩のレース足が瓜生を凌いでいるように見えたが、今日は瓜生の出足・回り足が完璧に仕上がっていた。スタート展示の後に『BOATBoy』誌の三島敬一郎など、何人かの記者たちが「瓜生の足が凄い!」と絶賛。今節、パワーの見立ても舟券もまったく冴えない私はその変化を見逃していたが、確かに絶品のレース足だった。
 スリット隊形は↑御覧のとおり、この段階でイン吉川vs2コース瓜生の一騎討ちムードに。1マークは外からの脅威がないまま吉川が先マイ、瓜生が差すという正攻法の展開から、内の瓜生の舳先だけが力強く突き抜けて行った。今日のペラ調整がストライクゾーンのど真ん中を貫いたのだろう。

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 バック中間で、2艇と後続との差はあっという間に5艇身。喉から手が出るほど欲しい3番手(取りきってしまえば決勝戦の枠番はあみだ抽選なのだ)は、2番差しから最内を進む赤岩が優勢だった。スタートで後手を踏んだための応急措置だったと思うが、あるいは「3着以内で抽選」という特殊ルールが堅実な2番差しに導いたか。

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 だがしかし。1周2マーク、2周1マークとしっかり3番手をキープした赤岩の後方から、力強いストレート足で田村が肉薄。ターン出口で2艇身ほどもあった差が瞬く間に縮まり、2周2マークの手前で完全に舳先を貫かれた。もっとも重要な着順での逆転劇。昨日の赤岩の鬼足を思えば、今日はゾーンを外していた可能性は高い。それとも、初日から軽快だった田村37号機がさらなる覚醒を遂げたのか。1時間後、この逆転の3着によって田村が得たプレゼントは実に大きな物だった。明日の12Rの1号艇。トーナメントを2着3着3着と綱渡りで凌いできた田村が、一躍明日の主役に成り上がったのである。

光太郎劇場

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12R 並び順
①毒島 誠(群馬) 09
⑤今垣光太郎(福井)18
②柳沢 一(愛知) 27
③長田頼宗(東京) 16
④桐生順平(埼玉) 13
⑥磯部 誠(愛知) 11

 やはり、スタンドの観衆にとびっきりのサプライズを与えたのは、50歳のマスターチャンプだった。スタート展示では動かず、本番だけゴリゴリ攻める「やらずのやり」前付け戦法だ。ファンファーレから20秒ほどでスタンド騒然。最近、大レースでめっきり増えた若者たちがどんなリアクションを見せるのか、野次や罵声、戸惑いの奇声が飛び交うのか、と見ていたらばさにあらず。

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「イマガキーー、サイコーーー!!」
「やった、やっぱお前だよ、イマガキィィ!」
「よっしゃ、これって甲子園の再現だわ、行ったれ、イマガキーー!!」
 私が驚くほどの熱狂ぶり。もちろん、今垣が何事かをしでかすと踏んで舟券を買った若者たちなのだろう。それにしてもの大反響。中には12秒針が回る前に
「ありがとーーー、コータローーッッ!!」
 と叫んだせっかちさんもいた(笑)。ボートレースの未来は明るいかも?

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 さて、大声援を浴びた今垣の2コース攻撃は、スリットで半艇身抜け出した毒島には届かなかった。3日連続のイン戦で、今日も外の艇をまったく寄せつけない完璧な逃走劇。ターン出口でまずはファイナルの4人目が決まり、離れた2番手に付けたのは2コースから差した今垣だった。
「よっしゃーー!!!」
 再びあちこちから歓声。今垣の劣勢パワーが嫌われて、1-5は中穴レベルの美味しい舟券だ。果敢に前付けしたからこその1-5態勢で、買ったファンとしてはメチャクチャ嬉しい展開だろう。が、その歓声が1周2マークで奇声に変わる。全速でぶん回した今垣の内から、長田が鋭い差しを貫いたのだ。

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「よっしゃ、オサダーーー!!」
 今垣コールが長田コールに変わり始めた。オサダオサダがわらわらする中、それでも「イマガキーー粘れ~!」的な声も多い。1-3-5を押さえている人々か。その声援にシンクロするように、2周1マークも全速でぶん回した今垣が完全にケリを付けたように見えた。
「もうそれでいい、それでいーよ、そのまま~!」
 叫んだのは、先刻「ありがとーー」と言ったせっかち君だ。そのせっかち君の声が、今度は2周2マークで阿鼻叫喚の絶叫と化した。5艇身ほど後方の柳沢が一撃の小回り差しで今垣を捕えたのだ。今垣のパワーはありえないほど劣勢だった。ギャーとかワーッとか叫びまくるせっかち君の声とともに、今垣は4着に敗れ去った。ピットアウトから頑張って頑張ってファイナルからこぼれ落ちた。
「なんだよ~~~~!!」
 レース直後に絞り出すような声を発したのも、せっかち君だった。が、すぐに思い直したようにせっかち君はこう言ったのだった。
「まあ、よく頑張った、よく頑張ったよ」
 その哀しいけれど温かい声が耳に残り、このレースだけ私的回顧のようになってしまった。どんな非力なパワーでも、どんなシリーズでも100%の全力で突っ走る50歳。今垣光太郎が、(おそらく)東京界隈の若者たちにかなり愛されていることを知り、ほっこりした気分になった。

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 さてさて、3日連続のトライアルイン逃げで断然優勝候補のはずの毒島は、あみだ抽選で2号艇を与えられた。1着のない田村が1号艇で、コッチが2号艇。このちょっとした不条理(昔は当たり前だった)が、もちろん今シリーズの大きな特徴であり、私個人としては好物のスタイルでもある。毒島がバナレを飛ばして“奪還”するのではないか。抽選で6号艇を余儀なくされた吉川が、黙って6コースを選択するか。などなどの勝手な深読みも含め、明日の12Rまでの脳内レースを愉しむとしよう。(photos/シギー中尾、text/畠山)