BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――堂々たる初代チャンピオン!

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 棚からぼた餅、とレース後の会見で田村隆信は言った。
 そうだろうか?
 決勝戦の枠番は抽選と決められた大会なのだから、田村は堂々と1号艇を手にしたと言える。残り福、という言い方もされていたが(最後にあみだくじをスタートさせたので)、実際は枠番プレートが貼り付けられ、6人が任意の一本線を入れた時点で実は枠番はすべて決定していたのだから、それも違う。
 何より、決勝戦に進出したのは田村の力にほかならない(田村自身も、そこは自力と認めていた)。田村は、企画レースと言えるトーナメント戦を堂々と戦い抜いたのだ。すなわち、堂々たるチャンピオンだ。おめでとう!

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 毒島誠は今日もギリペラ。といっても、昨日より早い11R締切10分前に調整を終えて、ボートに向かおうとしている。11Rの出走待機室に向かおうとしていた桐生順平が、その姿を見て「ちょっと早いんじゃない?」。誰もが毒島のギリペラぶりを知っていて、10分前ではいつもより早いだろうと、桐生がからかったのだ。ペラ調整所周辺で一斉に笑いが起こる。松本晶恵も笑っていた。というわけで、毒島はペラゲージをキャリーバックに片づけて、締切7分前になったと同時に今度こそボートへ。展示ピットについたのは、きっちり締切5分前なのであった。

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 そのくだりがひとつの象徴というか、やはりSG優勝戦より柔らかい空気になっていたと思う。今回、1回戦から田村は緊張していたという。つまり、「ここで終わってしまったら嫌や」という思いが、緊張を強いたというのだ。なるほど、と思う。一発勝負で負けたらそこで終わり、というのは、言ってみれば毎日準優勝戦を戦うようなものだろう。初日や2日目で準優敗退という憂き目にあえば、敗北感はより大きかったとしてもおかしくはない。そうしたなかで決勝戦に辿り着いて、しかも枠番はすべて抽選というやっぱり一発勝負。まずはそこで戦える幸福感や枠番は抽選だったのだから致し方ないというどこかスッキリした思いがあったとしても、それは自然なことのように思えるのだ。これはトーナメントのひとつの良さだと思う。年に1、2回のトーナメント、やっぱり楽しい!

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 とはいえ、敗者たちは一様に表情が硬かった。毒島は思い切り顔をゆがめていた瞬間もあったほどだ。3連勝で決勝に臨み、最後は不発に終わる。これが悔しくないわけがない。シンガリに敗れてしまった瓜生正義も、表情が明らかに硬直していた。やはり屈辱だっただろう。吉川元浩は、ピットに戻ってからモーター返納を終えて控室に消えるまで、硬い表情を変えなかった。6号艇だからといって、負けて良しなどということは、少なくとも優勝戦ではありえない。

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 地元で準Vと健闘を見せた、長田頼宗にしても同じことだ。優勝を逃したなかでは最も上位、それも地元ファンを前にその姿を見せたことになるわけだが、それが長田を納得させることはありえないようだった。最も深刻な表情を見せていたのは、もしかしたら長田だったかもしれない。第1回大会というすべて手探りになるシリーズの選手代表の大役を担いながら準Vとはよく頑張った、といった類の労いは、何の慰めにもならない。

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 柳沢一は、師匠の原田幸哉と顔を合わせた瞬間に、苦笑いを浮かべた。毒島のジカまくりは想定していなかったか。結果的に見せ場を作れなかったことで、師匠の顔を見た瞬間、その心中を苦笑いというかたちであらわにしたのかもしれない。動じない男のこんな顔は珍しい。

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 田村の戦前は、同県同期の興津藍や、上瀧和則選手会長らとにこやかに話し込んでいた。1号艇のプレッシャーは見当たらなかった。棚からぼた餅感が田村にあったとするなら、まあそれほどカタくなることはありえなかっただろう。そしてそれが、コンマ12全速の好スタートと1マークでケリをつけるターンにつながったと言えよう。落ち着いて戦った田村は、もちろんエンジンパワーの後押しもあって、とにかく強かった。
 田村には、同期の井口佳典が祝福の言葉を投げている。田村の顔がパッと弾けて「お手本通りやろ!?」と井口に返す。井口は破顔一笑。よう言うわ、的な笑顔ではあったが、井口も認めるしかない逃げ切りだったのはたしかだ。次はグランプリでしのぎを削る2人。銀河系のツートップの交歓には美しさがあった。

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 個人的に、田村の優勝は嬉しいことだ。田村が見せる変幻自在の戦いぶりをBOATBoyなどでさんざん称賛してきたし、鳴門に半世紀以上ぶりのSGが来た時にも田村に出場を煽った。結果、ここ2回の鳴門SGに田村は出場できておらず、無念の言葉を交わし合ったし、またトリックスター的な戦いぶりでなかなか結果が出なかったときには、田村の苦しそうな顔を見、また言葉を聞いた。もしかして俺は田村を煽りすぎなんじゃないか、とも思ったことがあった。それだけに、プレミアムGⅠとはいえ、てっぺんに立った田村を目の当たりにできたことは感慨深い。というわけで、表彰式から帰ってきた田村とはハイタッチ! 笑顔を交し合うことができた。もちろん、田村にしてもここが到達点ではない。やはりSGでてっぺんに立ってこそ、田村のさまざまな思いは報われる。今、田村のリズムは絶好だ。この勢いでグランプリのてっぺんに立ったとき、また田村とハイタッチをしたい。今の田村なら、可能性は低くないと思っている。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)