BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――コントラスト激しく

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 峰竜太、転覆。その瞬間、V2はまさに水の泡となった。グランプリ連覇はもちろん難業だが、それがこういう形で消えるとは。昨年は5号艇5コースからのセンセーショナルなまくり差しでファイナル1号艇をもぎ取り、今年は5号艇5コースからのまさかの転覆で優勝戦線を脱落。いずれにしてもド派手な男。これもスーパースターの証、なのか。
 ひとまず体は無事であるが、しかし気持ちのほうは相当に傷んでいるようだった。報道陣に囲まれても、言葉は短くしか出てこずに、早々に輪を離れている。その落胆ぶりに、記者さんたちもそれ以上声をかけられないようだった。涙はないが、背中が泣いていた。

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 勝った瓜生正義は、淡々としたものであった。もっとも、この勝利でもファイナル行きは12Rの結果待ち、である。まずは勝利への安堵しか、そこにはなくて当然である。

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 11Rでファイナル行きを決めたのは2人。白井英治と桐生順平だ。白井は今日も顔をゆがませて悔しさを滲ませてはいたが、それでも海野康志郎と会話を交わしながら控室に戻るなど、やや普段の敗戦後とは様子が違っていた。やはりファイナル当確を決めた安堵も少しはあったということだろう。ちなみに、スタートはスローのほうがわかるので、ファイナルもスロー発進の可能性を匂わせている。4号艇だが、師匠・今村豊譲りのスロー全速スタート、もあるということだろうか。

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 桐生はファイナル1号艇の可能性を残した2着だったが、そのこと自体を意識している様子はなかった。また、ファイナル行きの高揚感もそれほどあらわしてはいなかった。峰の転覆は、まさに桐生に並びかけた瞬間。そのシーンを、中田竜太らと身振り手振りで話し合う場面もあって、峰への気遣いも内心にはあったか。もちろん桐生には何の責任もないことだが(峰は選手責任の失格)、目の前で起こった事態を無視はできまい。
 桐生は結果、2号艇になっているが、スタートは白井同様にスローのほうがわかるといい、足も全体にバランスが取れていると好感触を得ている。2コースから自在な戦略を繰り出せる足色と言ってよく、ファイナルはもちろん有力候補の一人だ。

 

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 石野貴之の顔が光り輝いた。5カドからスタートを踏み込んでの締めまくり一気。トライアルで何度、この「あえてダッシュに引いての一撃」を見てきたことか。まさに石野貴之らしい勝ちっぷり。石野貴之らしい戦いっぷり。渾身の一撃は、仲間たちの気分をも高揚させ、松井繁や太田和美らにさんざん祝福されて、石野は満面の笑みでそれに応えた。
 なにしろこれは、結果的にファイナル1号艇をもぎ取る勝利だったのだ。グランプリを獲れれば100点。獲れなければ0点。1年間の採点は、常にそういうことだと石野は言う。ついに100点に最も近い位置を手にしたのだ。レース後も、報道陣に囲まれても、テンションが上がりっぱなしになるのも無理はない。足も仕上がっているようで、今のところ不安はほとんどない。「たぶん緊張するだろうなあ」なんて笑ってもいたが、そう言ってしまえるのも強みに働く。明日は一日、凛々しすぎる石野をピットで目にすることになるだろう。

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 まったく対照的だったのは、もちろん毒島誠である。4着でよかったのだ。しかも道中は4番手を走っている(1周バックでは2番手争いだ)。それをキープすれば、石野と同得点となるが上位着順回数の差で(石野1勝、毒島2勝)毒島が1号艇となる。それがまさか6着とは……。エンジン吊りが終わって、毒島はなかなか歩を進めなかった。ほかの5人がかなり前方を歩くなか、毒島はうつむきながら控室に向かった。ヘルメットはかぶったまま。顔色をうかがわさせたくないとばかりに、シールドも下げたままだった。歩きながら、赤い勝負服をやるせなさそうに脱いでいく。しかし手元がおぼつかないのか、脱ぎ切るにはやけに時間がかかり、気がつけば控室の前に達していた。その間、1周2マークの接触を詫びた平本真之以外は、誰一人として声をかけなかった。あの落胆ぶりを見て、声をかけられる者はいない。
 それでもファイナル行きなのである。3号艇は好枠と言ってもいい。もちろん、願いに願った優勝の可能性は十分にある。しかし、毒島の姿は優出選手のそれではなかった。1号艇が欲しいというよりは、優勝の可能性が最も高い位置を自力でつかみたかった。いったんはつかんだはずだったのに、手からこぼれ落ちていった。その失望感の大きさは、レーサーでなかったとしても、想像できるはずだ。だからただただ、気持ちを切り替えて赤いカポックでの優勝を目指してほしい。

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 同じように落胆が大きかったのは井口佳典だ。3着で得点20点は、瓜生正義と吉川元浩に並んだ。しかし、井口には瓜生と吉川にはある1着がなかった。次点に終わってしまったのだ。同期の田村隆信に寄り添われながら、井口は完全に脱力した様子で控室へと戻っていった。単なる1号艇での敗戦ではない。大げさに言えば、今年が終わってしまった敗戦なのだ。気持ちで戦うところのある井口が、疲労感に襲われるのは当然と言える。

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 井口が3着に終わった結果、吉川元浩と瓜生正義がベスト6に残ることとなった。結果を受けて報道陣に取り囲まれた吉川に気づいた松井繁が、からかうように顔を凝視して吉川を笑わせている。吉川にとって、安堵と喜びの瞬間であっただろう。ファイナルは今日と同じ6号艇。どんな戦略で臨むのか、注目しよう。

 

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 シリーズの優勝戦メンバーも決まった。8Rからは西村拓也と西山貴浩。西村は太田和美の派手なガッツポーズに出迎えられて、歓喜を噛み締めた。この8Rには松井繁、上條暢嵩も出走していて敗退してしまっているが、SG初優出となるニシタクの快走は大阪勢を沸かせていた。西山は記者会見で長々と演説してましたが、割愛します(笑)。ひとつだけ、「優勝したら、ずーっとウィニングランしてます。グランプリの奴らが出てこられなくなるくらい、ずーっと水すまししてます」だそうです。本場に来られる方、そうなったらぜひブーイングしてあげてください(笑)。

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 9Rからは木下翔太と永井彪也が優出。木下は予選トップだったので、優勝戦も1号艇だ。これもまた、大阪勢が沸いた。自身は優出を逃した上條も、盟友というべきチーム・グラッツェの快勝に笑顔満開。石野貴之も笑顔で称えている。これで勢いがついたかも? 結果として、11Rも12Rも地元勢が1号艇。木下は石野にバトンをつなぐ役割も任じることになる。永井の優出には東京勢が沸いている。濱野谷憲吾を中心に笑いも巻き起こっていた。師匠の中野次郎がもっとはしゃぐかと思ったが、そうでもなかったのが意外というか次郎らしいというのか。ともかく、東京のヤングスターがSG初優出を果たしたことは、東都をおおいに盛り立てるものである。

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 10Rからは馬場貴也と篠崎元志。トライアル1st組で唯一の優出を馬場が果たしたかたちだ。馬場は出迎えた丸野一樹に左手で力強すぎるガッツポーズ! 1st敗退の鬱憤を少しは晴らせただろうか。これを望んで住之江に入ったわけではないが、しかし来年につながる快走だったと思う。一方の篠崎元志は、1号艇で敗れたことで虚脱感が伝わってきた。1マークはハンドルを切り直したことで流れたそうで、自分のミスということを何度も強調していた。この悔しさを優勝戦へのバネとできるか。元志の4カドって、かなり怖いと思うぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)