BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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徳山クイクラW優勝戦 私的回顧

悲願からの

11Rシリーズ優勝戦
①池田紫乃(長崎)  25
②堀之内紀代子(岡山)31
③細川裕子(愛知) 24
④山川美由紀(香川) 18
⑤平田さやか(東京) 18
⑥落合直子(大阪) 14

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 なんとなんと、5コース平田さやかがズッポリのV差しを捩じ込んだ。デビュー15年、31度目の優出にして初優勝、おめでとう!!
 スリットから仕掛けたのは、大方の予想通り4カド山川だった。今日になって新プロペラに交換(ヒビ割れなど何かしらのアクシデントがあったのだろう)。短時間で自分の形に叩き換えたらしいが、確たる自信の持ちにくい臨戦態勢になってしまった。それでもスタートはスロー3艇を出し抜く形。スロー勢が揃って遅かったという見方もできるスリット隊形から、もちろん山川は迷わず攻めた。例によって有無を言わさぬ怒涛の絞めまくり。

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 だが、トップ級の行き足を誇る細川もすぐに伸び返し、瞬く間に2艇の舳先が並ぶ。それでも山川が締めて細川が抵抗してもっともスタートが遅かった堀之内も巻き込まれて……内水域がてんやわんやで流れている間に、5コースの平田がスパーーーンと最内を差し抜けていた。昨日は3コースからまくりきりながら、イン池田のゾンビのような伸び返しに屈した平田だったが、今日はそのまま池田の追撃を振り切って嬉しいデビュー初Vとなった。31度目のファイナル挑戦での優勝は、もちろん“悲願達成”と呼ぶにふさわしい。

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 ある優勝がひとりのレーサーを一回りも二回りも成長させる。
 守田俊介のダービー制覇、馬場貴也のチャレカ制覇、永井彪也のヤングダービー制覇……舞台こそ違え、その後の彼らの自信に満ちた走りっぷりや勤勉さ、生活態度の変化などには驚かされることが多い。35歳にして真の勝利の美酒を味わった平田が、2020年のレースにどんな変化をもたらすか。その成長を楽しみにしておこう。

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 1号艇で惜しくも敗れた池田紫乃からも、大きな変化、成長がひしひし伝わってくるシリーズだった。端的に言うと「人間がモーターを育て、モーターが人間を育てる」。下馬評が低かった26%の22号機を節イチ級まで持ち上げた池田の整備力には舌を巻いたし、その22号機がパワーアップしてからの池田のスタート力(ゼロ台3連発)と獰猛な攻撃力(2・5・3コースからまくり3連発!!!)は実になんとも素敵だった。最後の最後にスタートタイミングを逸したのは残念だが、明日=2020年からの活躍ぶりが大いに楽しみだ。このまま機力アップ⇔攻撃力アップの循環が続くようなら、「45歳にして10年ぶりにA1復帰」などという嬉しいニュースが舞い込むかも?

サプライズ娘の“真骨頂”

12Rクライマックス優勝戦
①遠藤エミ(滋賀)09
②守屋美穂(岡山)03
③今井美亜(福井)03
④寺田千恵(岡山)09
⑤香川素子(滋賀)08
⑥大山千広(福岡)06

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 早くから人気者だった『北陸のミーアキャット』今井美亜が、真の意味でのニューヒロインに進化を遂げた。艇史に語り継がれであろう凄まじいまくり差しとともに!
 スタートは↑御覧のとおり、6人全員がゼロまで踏み込んだ電光石火のスリットライン。しかし、横一線にはほど遠い隊形でもあった。
「遠藤が遅れとる! 遠藤が遅れとる!」
 スタンドの1マーク寄りに張り付いた私の耳に、どこかのオジサンのだみ声が届いた。徳山には対岸モニターがないため、背後の場内モニターを見ているファンが“実況”してくれるのだ。まだSタイミングも隊列も分からない私は、波乱の胸騒ぎを感じつつ6艇の到来を待った。数秒後、その胸騒ぎは大きな期待に変わった。インの遠藤よりも2コース守屋が半艇身ほど突出している。さらに3コースの今井もダッシュ勢も、守屋よりかなり劣勢に見えた。

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 差さるかもっ!!??
 2-1の舟券を厚く買っていた私は、ひたすら1マークに向かう守屋を凝視した。圧倒的に有利な態勢から、急かすように遠藤を回しておいての鋭角差し。
 差さる!!
 期待が確信に変わった瞬間、私の視界が妙なハウリングを起こした。黒カポックでも白カポックでもない、別の何かが先頭に躍り出た。守屋と遠藤ばかり見ていたせいもあるが、その直前まで誰かしらが割って入るような気配すら感じていなかったのだ。

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 赤!!??
 それが今井だと認識するまでに2秒ほどかかっただろうか。今井だと認識しつつ、「なぜこうなったのか、何がどうして黒と赤が入れ替わったのか」はまるで判然としなかった。分かったのは記者席に戻ってリプレイをクリックしてからだ。それはそれは、マジでありえないような3コースまくり差しだった。守屋から1艇身ほど遅れていたのに(スリット同体だったのも驚いたが)、内の遠藤の態勢がまったく見えないはずなのに、守屋に全速のツケマイを浴びせるような形でメチャクチャ狭い隙間を針の穴を通すようにして突き抜けていた。初日の5コースまくり差し(2着)に続いて、ここでも「見る前に飛ぶ」勝負手を成功させたのだ。先のGPシリーズ戦の馬場貴也も目の覚めるような真骨頂=3コースまくり差しで優勝しているが、それよりもド派手にして度胸満点の旋回に見えた。

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 そう、今節のトップ12人の実戦の中で、私の目をもっとも惹きつけた選手は良くも悪くも今井だった。初日の驚嘆すべきまくり差し~ワースト級のパワーで悲惨な6着大敗~コンマ02のスタート勝負でド根性のイン逃げ……どのレースも足色は実に頼りなく、だからこそ今井の健闘ぶりが目に焼き付いた。

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 ボートレースは機力だけでは決まらない。
 今節の今井はそれを何度も再認識させてくれたのだが、それでも私は「今井の優勝はありえない」と決め込んでいた。優勝戦に入ればさらに機力の差が生じる。少し良くなったくらいでは、好枠の遠藤や守屋には太刀打ちできない、と。今井はそんな私の決めつけを、コンマ03のスタート(昨日のコンマ02のレース後、「これ以上早いのは行かない」とコメントしたが、それはそれで有言実行ではあったw)と男子レーサー顔負けの凄まじい旋回で蹴散らした。脱帽するしかない。
 はじめてのクイクラ参戦でGI初制覇を成し遂げた今井は、来年3月の平和島クラシック参戦という大きな“副賞”も手に入れた。

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 ボートレースは機力だけでは決まらない。
 女子の最高峰のステージで何度もそれを知らしめた29歳の快活な美女が、百戦錬磨の猛者を相手にどんなサプライズを見せてくれるか。大いに楽しみだし、できれば平和島のエース13号機あたりを引いてもらって、思う存分に暴れ回ってもらいたい。
 あ、最後に、今年のクイクラは最近のプチバブル?に乗って売れまくった。目標の115億円に対して実売は133億円!!! 去年の平和島の120億も楽々突破。ボートレースに携わる者としても嬉しい限りだが、徳山さんにはこの売上の余剰金で是非とも対岸モニターを設置してほしい、などと思うのは私だけだろうか(笑)。
(photos/シギー中尾、text/畠山)