BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

準優ダイジェスト

残酷すぎたパワー差

9R
①平本真之(愛知)15
②湯川浩司(大阪)25
③平高奈菜(香川)23
④守田俊介(滋賀)12
⑤辻 栄蔵(広島)21
⑥中田竜太(埼玉)26

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 それまでの一般戦=イン8戦7勝とは別次元の激闘だった。主役は守田。4カドのトップスタートから豪快なまくり差しで突き抜けた。ただ、現実にはイバラの勝利ではあった。2コースから1艇身近く遅れてスタートした湯川が伸びる伸びる!! 昨日の4Rも5カドから1艇身ほど出し抜いた守田を、カド受け湯川がありえない伸び返しで封殺。無理に絞めまくろうとした守田(誰でもそうしたくなる隊形なのだ)は行き場を失って6着に敗れた。

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 今日もほとんど同じような絵柄に見えたものだが、おそらく昨日の教訓が生きたのだろう。湯川の猛烈な伸び返しに気づいた守田は瞬時に絞めまくりをやめて、やんわり外から外へ湯川を透かすように飛び越えてから再び左にハンドルを切った。まくりを警戒して握りっぱなしで先マイした平本は大きく外へ流れ、差した瞬間に守田のファイナル内枠が約束された。うーーん、技あり一本!

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 そして、平高だ。いやぁぁぁぁ惜しかった!!! 3コースから1マークの大乱戦を横目にくるり最内を小回りして2番手浮上! 内外からSGウィナーが追いすがったが、1周2マークは迷いのない全速旋回で防御網突破~2周1マークも超男前な全速ツケマイで難敵を突き放した。その走り、100点満点だった。女子レーサーとして史上3人目のSGファイナリストへ、何度も当確ランプが点った、はずだった。

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 だがしかし、そのたび背後から忍び寄ったのが平本59号機だ。2艇身ほどもケリを付けたはずなのに、凄まじい行き足~伸びでぐんぐん追い上げ、舳先を捩じ込み、ついに2周バックでその舳先を貫いた。残酷すぎるストレート足の差。2周2マーク、平本を行かせて差そうとした平高は、内から切り返していた湯川と接触。エンジン不調でずるずる最後方まで後退し、優勝戦への道は閉ざされた。本当に本当に惜しかった。平高56号機にもうひと伸び、いや半分の伸びがあれば平本を締めきって2着を確保できたと思う。奈菜ちゃん、お疲れさま! 今日の男前すぎる猛攻撃は、全国のボートレースファンの心に突き刺さったことだろう。

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 2着の平本59号機のパワーについては、ここまでの文面だけで十分に伝わるはず。今日の足は、2日目と同じくらいのハイパーレボリューションな鬼足だった。
 最後に私事も少々。このレースを、私は広くて薄暗い無人のスタンドの中でぽつんひとりで観ていた。予想フォーカスの他に、俊介応援の4-1-356という穴舟券を2枚ずつ買って。そこで、この激闘である。奈菜ちゃんが2番手を取りきったとき、私の心はそぞろ揺らいだ。色物好きな私としては、3人目の女子SGファイナリストの誕生を目の当たりにしたい。だがしかし、眼前の巨大モニターに映る最終決定オッズが嫌でも私の視野の片隅に飛び込んでくる。
【4-1-3 219・3】
 嗚呼、平高がこのまま2着なら舟券は外れるけど女子ファイナリスト誕生の目撃者になれるし、平本が逆転すれば平高が可哀そうだけど4万円以上のお小遣いGET……私の他に誰ひとりいないスタンドで、私だけが見つめるSG準優の激闘と、私のためだけに設置されたようなモニターの数字を交互に眺めながら、私はこんなことを思っていた。
 なんて贅沢な二者択一、なんて贅沢な瞬間。
 読者諸兄には本当に申し訳ないが、私はこうしてひとりごちていたのだ。

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 そして、いざレースが終わってみたらば、私の前から平高ファイナリストの瞬間は消え去り、同時に「100倍以下は好かん」という理由だけで切り捨てた【4-1-2 93・3】という数字だけが目の前に浮かび上がっていた。ふと我に返って周辺を見渡す。広くて薄暗いスタンドが、ありえないほど淋しい空間に思えた。ちゃんちゃん。

贅沢すぎるマッチレース

10R
①徳増秀樹(静岡)09
②峰 竜太(佐賀)12
③白井英治(山口)08
④森高一真(香川)07
⑤桐生順平(埼玉)10
⑥篠崎元志(福岡)10

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 スリット凸凹の9Rとは裏腹に、こちらのスリットは↑ご覧の通りの高いレベルのほぼ横一線。ここから力強く伸びて行ったのはインの徳増で、1艇身ほど後方から2コースの峰差し、3コースの白井まくりが飛び交ったが徳増を脅かす迫力はなかった。

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 ターンの出口でもはや3人目のファイナリストに当確ランプが点ったが、SG準優はここからだ。このレースの2着争いは、2020年後期適用勝率8・76の峰vs8・63の白井による壮絶なデッドヒートとなった。バックで先行したのは2コース差しの峰。最内から外へ持ち出して2艇身後方の白井の動きを牽制すると、すかさず白井は内に切り返して2マークを先取り。峰も十分に想定できる戦法だったはずだが、これを抱いて交わそうとした峰のターンは2マークを大きく外して逆転を許した。何か戦略に誤算があったか、舳先が言うことを聞かなかったのか。

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 ただ、そんな逆転程度でこのマッチレースは終わらない。2周1マークは白井の後方チェックの隙を突いて、峰がリベンジの切り返しで白井の前を塞いだ。握り過ぎず落とし過ぎず、実に嫌味かつ精緻な切り返し。気づいた白井は眼前に現れた最強のライバルを咄嗟のハンドルで差し返し。なんとか切り抜けたが、これで両者の差はグッと縮まった。
 さらに2周2マークでも峰が外から内へ、白井の挙動を惑わせる絶妙な切り返しでターンマークを先取りした。事実、白井は一瞬だけ握るか差すか、迷い箸のようにふらふら揺れてから半周前とは逆の握りマイを選択した。見た目には、明らかに峰の作戦勝ち。迷って減速してからの握りマイはまるで迫力を失っていたのだが、同時に仕掛けた側の峰も引き波の航跡に乗って推進力を失っていた。私の目には、峰の超高度な戦術に対して相棒の55号機が「そこまでは無理!」と悲鳴を上げたように見えたのだがどうか。

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 なんとも贅沢な勝率1位vs2位(しかも3位ブッチギリ!)のデッドヒートは、この推進力の差でほぼ大勢が決した。「足はいい」と自分に言い聞かせるようにコメントしてきた峰だが、優勝戦に行きつくには足りない足色だったと思う。一方、このマッチレースを制した白井の足も私は高くは評価していない。外枠の明日はどんな調整をして、ピットアウトからどんな戦略で臨むのか。できる限り、その一挙手一投足に注目したい。間違いなくレースの流れを左右するキーマンのひとりなのだから。

整備の魔術師

11R
①篠崎仁志(福岡)15
②毒島 誠(群馬)12
③新田雄史(三重)14
④井口佳典(三重)11
⑤永井彪也(東京)22
⑥瓜生正義(福岡)09

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 10Rの⑥元志に続いてこちらの⑥瓜生も動かず、穏やかな枠なり3対3。その瓜生が大外からゼロ台スタートを決めて凹んだ永井を叩き、全速のまくり差しを放ったがスロー3艇を脅かすには至らなかった。
 くるり先マイした仁志に対して毒島が差し、新田が得意のまくり差しで迫ったが舳先は入りきれない。10R同様、この最終バトルもバック出口で5人目のファイナリストがほぼ確定した。しかも、白いカポックが。

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 先に書いてしまうが、仁志にとって9Rの湯川が3着に敗れたことは、優勝の可能性を50%から90%くらいに跳ね上げるほどの大きな出来事だったと思っている。前検から仁志20号機のパワーに惚れ込んでいる私ではあるが、明日のファイナル4号艇(または3号艇)が湯川だったら仁志に◎を打つつもりはなかった。50%に見合わないほどの人気を背負うから。今節の全選手(モーター)の中で、スリット同体の4カドからインまで届く選手は、湯川しかいない。今日の平本59号機の気配は素晴らしかったが、やはりスリットの破壊力では湯川のそれに遠く及ばないだろう。最大の脅威が消え去ったインの仁志20号機に、誰が鈴を付けられるだろうか……。

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 さて、このレースの2着争いは1周2マークでほぼ決着が付いた。3番手から切り返した新田を、毒島がスパッと差しぬいて5艇身差。その差しは最後のチケットをもぎ取るどころか、先頭の仁志にグッと近づくパワフルな差しでもあった。うーーーん、恐ろしい。今日の毒島は、またしてもピストン2個・リング4本という大整備を施している。大一番の直前の大整備は、何かしらの非常事態でやむなく手を付けるケースが多いとしたものだ。だが、日々モーターと会話をしながらパートナーを育むこの男にとって、今日の大手術はそういうレベルではないのだろう。だって、ちょいとあやふやに見えた昨日よりも、今日の足色ははるかにしっかりしていたから。展示タイムも上々で、差してからの出口の押し足、新田を一撃で千切り捨てた出足、そこから仁志20号機に離されずに食らいついていた実戦足……どこをどう取っても5日間の22号機の中で最高の出来だったと思う。うーーーん、整備の魔術師としか言いようがない。5号艇の明日、このマジシャンが22号機にどんな魔法をかけるのか。ピット離れの気配も含めて、直前の直前までぬかりなくチェックするとしよう。(photos/シギー中尾、text/畠山)