BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝負駆けと勝負師

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 11R組が、掲出されているスリット写真の前で、ちょっとした盛り上がりを見せた。スタートタイミングが思いのほか遅かったのだ。逃げた吉川元浩がコンマ24。トップスタートが永井彪也(4コース)と片岡雅裕(6コース)のコンマ19。どうやら遅いのではないかという感触はそれぞれにあったようで、誰もが苦笑いを浮かべながらスタートを切った際の感想を語り合っていた。歴戦のツワモノたちが、時に遅いタイミングで揃うことがあるって、なんだか不思議ですよね。選手たちも、そんな心持になるのだろう。特に内2艇の吉川と峰は可笑しそうに振り返り合っていた。

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 それにしても峰は強いね。バック3艇並走の真ん中、さらに内から片岡が突っ込んでくるという展開、決して有利な位置ではなかったはずなのに、さらりと捌いて2番手確保。本人はさらりとやってのけたわけではないだろうが、そう見えてしまうのも峰の力量なのだろう。それが峰をゴキゲンにしていたのか、レース後の声はやけに大きかった。「彪也、ゴメン!」なんて、妙に明瞭に聞こえてくるのだった。

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 ゴメンと言われた彪也は悔しい限りだろう。バックでは2番手争いはむしろ有利に見えたのだ。片岡の先マイを冷静に捌いた判断も悪くなかったと思う。しかし、ターンマークをやや外した分もあって、あっさり峰に追いつかれてしまった。それでも予選4位、峰よりも上位なのだが、そういう問題ではないだろう。まるで1号艇で大敗してしまったかのように、落胆する表情を見せた。師匠の中野次郎と戦況を振り返り合う際も、端正なマスクがゆがむ。次郎も呼応するかのように、渋面を作っていた。反省と悔恨ばかりの3着だったのだ。

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 6着大敗の瓜生正義も、珍しくというべきか、顔をしかめてピットに戻ってきた。無事故完走で準優当確だったが、これまたそういう問題ではない。準優の枠が外になってしまったということでもないだろう。不本意なレースをしてしまったことを、ひたすらに悔やむ。好感・瓜生もやはり勝負師だ。

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 ようするに、今日は勝負駆けデーではあるが、それがすべてでもないということ。10Rを逃げ切った井口佳典は、それでもボーダーには届かずに予選落ちとなっているが、レース後の表情は実に力強いものだった。勝っても予選落ち濃厚という局面であっても、1号艇が回ってきたからには負けられない。西島義則が6号艇だったことも、かえって井口を奮い立たせていたのかもしれない。爛々と輝く瞳で、声をかけてくる選手たちに頭を下げていた井口。準優に乗れないのは残念だが、カッコ良かった。

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 その10Rでは木下翔太が2着で勝負駆け成功。うん、やっぱり勝負駆けも非常に大事に決まってますよね。木下は充実感あふれる表情でピットに戻ってきたのだった。石野貴之に祝福されたのだろう、声をかけられて力強くうなづく様子は若々しくもあり、カッコ良くもあり。木下は施行者希望での出場、いわゆる“21世紀枠”での出場だが、水面に出てしまえばもう関係ない。大阪に優勝旗を持ち帰るべく、明日も奮闘するはずだ。

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 12Rは白井英治が逃走。5着でOKという割と楽な条件の勝負駆けだったが、1号艇とあれば逃げるしかない。やけに透明感がある表情で戻ってきて、JLCの勝利者インタビューに急ぎ向かうのだった。

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 注目の萩原秀人は5着。予選トップのためには5着でOKと、これはこれでそれほど厳しくはない条件での出走であった。そして、きっちりというかなんというかの5着。ただ、もう想像がつくかと思いますが、レース後の様子は悲壮感にあふれるものだった。5着でトップ、ではあっても、5着でいい、とは思ってなどいないのである。ピットに戻ってから控室へと消えていくまで、終始カタい表情だった萩原。地元でのトップ通過の喜びよりも、大敗を喫した悔恨のほうがずっと大きいようであった。勝負駆けであろうとも、まずは目の前のレースで勝利をとことん追いかける。それがボートレーサーの習性なのである。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)