BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――冷や汗流れる勝負駆け

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 いやはや、こんなことってあるのだろうか。3日目終了時点で予選トップだった井口佳典が、4日目6着6着で勝率急降下。一時は21位まで順位を下げ、まさかの「暫定トップ→予選落ち」の危機を迎えていたのだ。8R、まさか連続で6着になるとは思わず、レース直後のピットに出遅れてしまったため、井口がどんな表情で帰ってきたかを見逃してしまっている。慌てて駆け付けたピットで、井口はただ黙々とモーター格納作業とボート磨きを行なっていた。そのとき井口の胸に去来する思いは何だったのか。結果的に18位になんとか滑り込んで準優行きは決めたが、その後のピットでそれを喜ぶような様子はなかった。他者の失敗を手放しで喜ぶような男ではないのだ。ただ、11Rを2着で予選突破した愛弟子の新田雄史に対しては、柔らかい笑顔で祝福を送っている。

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 予選落ちの危機に瀕していたのは、峰竜太も同じだ。ドリーム快勝からまさかの軌跡を描き、9Rは4号艇で2着勝負を強いられることになっていた。5Rの大敗っぷりを思えば、峰の実力をもってしても、ひとつも安泰とは思えない状況なのであった。
 結果を言えば、さすがの峰竜太、である。4カドから内を締め、まくり差しにチェンジして2着。逃げた前本泰和を捕らえられなかったあたり、まだ完調ではないようにも思えるのだが、剛腕っぷりを見せつけるハンドルであった。レース後はやはり安堵に目を細めており、出迎えた周囲も「ヒヤヒヤしたな、おい」的な笑顔を見せていた。江夏満はカポックの上から峰の肩を揉む仕草。まあ、改めて峰の勝負強さを思い知らされた局面ではあった。

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 9Rで3着は磯部誠。これで得点率6・00となったのだが、これがけっこう気を揉む状況となっていた。たとえば直後の10Rで松井繁や魚谷智之が勝負駆けに成功していれば、19位以下になる可能性があったのだ。磯部も、着替えを終えたあとには報道陣に状況を確認しており、自分が予選突破できるのかどうかに確信は持てないでいるようだった。10R発売中、磯部は淡々とモーター格納などの作業を行ない、特にそわそわしているようには見えなかったが、実際のところはどうだっただろうか。

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 その10Rでは松井、魚谷ともに勝負駆けは実らず、これで井口佳典が18位に浮上してきたことで、17位となった磯部は予選突破確定。19位以下から浮上する可能性が残されたのは12Rの上野真之介だけとなったのだ(結果3着で勝負駆け成功ならず)。磯部ももちろん、他者の失敗に喜びをあらわにするようなことはしない。とはいえ、前検記事で書いたように、「今節は終わった」などとうそぶきながら、しっかり予選突破を果たしたことは称えてもいいだろう。

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 この10Rでは1着勝負だった菊地孝平が1号艇で登場。必勝の一番だったが、1マークで流れてしまって3着に敗退。予選落ちを喫してしまった。これはさすがに悔しい一番で、レース後の表情は硬かった。勝ったのは後輩の深谷知博で、これが結果的に予選トップを決めるまくり差し一撃。その深谷が頭を下げてきても、菊地は軽く右手をあげて応えるのみ。それ以上の所作をする余裕がないようにも見えた。もし敗れるなら後輩相手であるのが望ましいとも思うのだが、そうした発想にはすぐにはなれなくて当然でもあろう。

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 そう、深谷がこの1勝で予選トップにぐっと近づいた。速報にもあったように、11R4号艇の金子龍介が勝てば深谷を逆転していたが、なにしろ1号艇は毒島誠。相当な確率で深谷の逃げ切りは濃厚と思えた。そうした感覚は誰もが持っていたのではないか。レース後、歩み寄ったのは守田俊介。特に関係が深いとは思えない守田も、素晴らしいまくり差しと予選トップを確定的とさせたことに感銘を覚えたのだろう。深谷も笑顔で守田に応え、充実感を発散しているのであった。

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 11Rの金子は4着。予選トップを逃したことへの悔恨みたいなものは特に感じさせず、淡々と戻ってきている。それでも準優は1号艇だ。絶好の優出チャンス。前付けのあるイン戦となるが、気合の入った戦いを見せてくれるだろう。

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 勝ったのは毒島誠で、予選2位をもぎ取った。ただ、このレースはピットをざわつかせていて、選手たちの目に「スタート早すぎ!」と映っていたようだった。スタート正常の文字が対岸のビジョンに出るまで、選手たちは「おいっ!」「ブスッ!」などと声をあげており、実際に毒島はコンマ00のタッチスタート! 新田雄史もコンマ01で、深川真二がレース後に新田と毒島を指さして呆れたような表情を見せていた。深川もコンマ07で、だから「早かったろ!」と感じていたのだろう。ともかく、毒島は(新田も)セーフ! ダービー連覇、大村SG連覇に向けて、明日明後日は腕を撫すことになるだろう。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)