BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

帰還。

12R優勝戦
①石野貴之(大阪)11
②篠崎仁志(福岡)15
③稲田浩二(兵庫)12
④守田俊介(滋賀)13
⑤湯川浩司(大阪)16
⑥毒島 誠(群馬)21

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 去年10月20日のフライング(F2持ち)あたりから勝率が暴落、スランプ状態に陥っていた石野貴之があれよあれよと今シリーズの頂点に君臨。今日の勝利をもって梅雨明け、完全復活とお伝えしてもいいだろう。

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 レースもそれを象徴するような圧勝だった。スリットほぼ横一線のトップSから、1マークまでの行き足で半艇身ほど突出。気持ちの入り過ぎで?ややターンマークを漏らす旋回ではあったが、まったく問題なし。2コースから差した仁志、3コースから握った稲田が止まって見えるほどのレース足で、3艇身ほどもぶっちぎっていた。今日の石野46号機の強さを伝えるにはそれで充分だし、ここからの道中は孤高の一人旅という感じで書くべきこともない。

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 独走のゴールで上積みしたSGタイトルは計9個。クラシック制覇はこれが初めてで、まだ勝ち獲っていないSGは【メモリアル・ダービー・賞金王シリーズ】の3タイトルだけになった。こんなデータを書くだに、強い石野が帰ってきた、と改めて思わずにはいられない。正直、つい2カ月ほど前には「今年は長いトンネルから抜け出せないかも」などと思っていた。そう、F休み明けから水面に復帰した1月の石野は、1号艇でありえないほどボコられた。その3連単配当とともに列挙しておこう。
1/15 平和島一般戦 1号艇4着 20770円
1/18 同上     1号艇4着 23790円
1/25 からつGI  1号艇5着 10680円
1/27 同上     1号艇6着 21360円
 もちろん、すべてインコースで4戦4敗(F休み前の去年11月・福岡GIの6着を含めると5連敗)。実のところ、1号艇でこれほど惨敗を繰り返した石野はわずかにこの期間だけなのだが、ファンに与えたインパクトは小さくなかった。今節の私が何度か「石野をまだ信じきれない」と書いたのも、この4連続の惨敗があればこそ。

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 F休みが明けたのに、なぜこんな惨敗を繰り返すのか。膝とか腕とか、どっかがかなり悪いんじゃないか。
 まずはそんなことを思ったし、かつて服部幸男の取材で聞いた言葉を思い出したりもした。
「賞金王を獲ってから目標を見失って、何をやっても気持ちがしっくり来なくて、完全に“燃え尽き症候群”に陥ってしまった。理由がわかってなんとかしなきゃと思っても、もう身体が言うことをきかなくて、ずっとスランプみたいになってしまいました」
 石野が地元で賞金王(GP)を獲ったのは1年ちょい前で、それはそれは寿命を縮めるような勝負手を連発して、まさに悲願とも言えるタイトルを奪取したわけで、燃え尽き症候群に陥っても不思議じゃないな、などと思ったりしたわけだ。

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 が、石野はそんなスランプの頂点みたいな時季から、わずか2カ月でSGを獲ってみせた。
「エンジンの力が大きい。エンジンのおかげです」
 今日のレース後に石野は相棒の46号機を讃えていたが、おそらくそれは謙遜でもなんでもない本心からの言葉だろう。今節の相棒が中堅上位レベルくらいでしかなかったら、まだまだ復活の兆しは見えなかったかも知れない。日々レースごとに、強力な出足・行き足を誇るパートナーとともに、かつての自信を取り戻して行ったに違いない。スランプから短時間で脱却するには何かしらの要因が不可欠であり、石野にとってたまたま今節の福岡46号機が背中を押してくれた、と私は考えている。

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「今日の優勝で、石野はこのまま完全復活するんかな」
 ウイニングランの最中、私の後ろにいた若者ふたりがこんな会話をはじめた。
「うーーん、大丈夫っちゃないや、今節はビシビシスタートが切れとったもん」
「そうな、前にココの周年に来た時(去年11月)はスタートからビビッてなんもできよらんかったもんなぁ」
「もう、あんときとは別の選手っちゃろ。こっからは成績も上がる一方だと思うわ」
 そう、石野はこの福岡に来るまでA1どころかA2級の勝負駆けの真っ只中で、「まさかのB級陥落まであるのか?」などと噂されてもいた。前検時の来期適用勝率が5・48(例年のA2級ボーダーは5・40前後)なのだから、無理もないところ。が、2点増しの今シリーズで石野の期間勝率は一気に跳ね上がり、今日の優勝も含めれば5・90に近い数値になるはずだ。

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「A2級でグランプリに行きます」
 昨日、石野はこう言って記者たちを爆笑させたらしいが、来月末までの残り3節(住之江周年!~大村GI~津一般)で、残念ながらその“公約”は無効になるだろう。A1残留という形で。スタンドの若者がそうであったように、全国の多くのファンはそんな勝負駆け・石野の一挙手一投足に注目するはずだ。そこに出現する数値が、そのまま「石野貴之の復活指数」と思っていただきたい。(photos/シギー中尾、text/畠山)