BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――西山の“グランプリ”

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 10R発売中のドリーム組スタート練習が終わると、西山貴浩はいったんボートを陸に上げている。ちょうどリフトからボートを装着場に押し始めたとき、11Rの展示準備を終えた瓜生正義がそこを通りかかった。西山は神妙な顔で、瓜生に訴えかける。両腕を肘を曲げながら掲げ、次には両肘をピンと伸ばす仕草。これはおそらく「両サイドに伸びられる」ということであろう。今日の西山は早い時間帯に整備をし、その後も調整と試運転を繰り返した。換えた部品はセット(ピストン2、ピストンリング4,シリンダーケース)、キャブレター、クランクシャフト、キャリアボデー。交換発表のある部品はあとギアケースと電気一式、すなわちほとんどの部品を交換し、何度も何度も水面に出ていたのだ。それでも、直線足の上積みは思うままにはならなかったのか。

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 西山は瓜生と別れるとボートを整備室前に移動。ギアケースを外して調整を始めている。ギリギリまでの調整! 10R発売中まるまる、時間を費やした。10Rのエンジン吊りが終わり、展示の準備のため再度着水。その前に、10Rを逃げ切った石野貴之が白い勝負服のまま、西山のもとに歩み寄った。二人はけっこう仲良しで、絡みは頻繁に見かける。石野も今日の西山の奮闘が視界に入っていたはずだ。控室に戻る前に西山のもとを訪れたのは、どう見ても激励のためと思われるのだった。

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 11R発走。モーター始動の合図がかかると同時に、12R組は展示待機室を出て展示ピットへと向かう。その隊列の前から2番目を歩く西山に、ちょっとした異変が起こっていた。スタート練習のときに履いていたのは、曲者軍団お揃いのカッパだ。展示に向かう西山は……グランプリカッパ! 昨年のグランプリ時に入手した、このある種の勲章を、西山はこれまで決して着用してこなかった。僕が着るわけないじゃないですか~、なんて、そのグランプリのときに言ったりもしていた。それを、今日ついに履いた! 実は昨日のうちから宣言はしていて、「ドリーム戦だけ着用します」とのことだった。本当に履いた! 前を歩く峰竜太と同じそのカッパを西山はたしかに着用したのだ。
 このドリーム戦は、西山貴浩にとって、グランプリと同等、あるいはそれ以上のレースだったのだ!

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 結果は、不完全燃焼だったことだろう。大外から伸びてきた守屋美穂が自身の舳先に引っかかり、その影響で松井繁に接触。ほとんど何もできなかったと言っていい。さらに守屋が落水したことで、そこで実質的にレースは終了。隊列を崩さずに完走するしかなかった。着順よりもそのことが無念だったと思う。しかし、ここに懸けた思いは決して無駄ではないはずだ。オールスターのファン投票にこだわり続け、事あるごとにアピールしてきた。得票数は年ごとに増えていき、昨年はグランプリファイナリストになって、さらに人気が爆発。地元中の地元である若松でオールスターが開催されると決まってからは、ただただここに照準を合わせ、ついにファン投票2位という急上昇でドリーム戦に出場することになった。西山にとっては、もしかしたら人生における一世一代の舞台、だったわけだ。

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 そのドリームは不本意な結末だったとしても、オールスターが終わったわけではない。ドリームに渾身を懸けたのはたしかでも、そこが本当のゴールではないということは西山自身、認識しているだろう。そう、あとは優勝を目指すのみ。厳しいモーターを引いてしまったけれども、明日からもさらにパワーアップを目指しての調整は続くだろう。文字通りの夢舞台がこうした結果にはなったけれども、だからこそ2日目以降は気合がさらに込められるはずだ。その戦いを引き続き見つめていきたい。

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 うむ。西山の話が長くなってしまった。もちろん、このオールスターに魂を込めて走っているのは何も西山ひとりではない。今日は10R頃から雨が落ちてきて、11R発売中にはわりと強めに水面に叩きつけられていた。そんななかで、試運転を走っていたのが太田和美、鎌倉涼、上田龍星。今節最若手の上田や、久しぶりのSGで初日6着6着と最悪のスタートになってしまった鎌倉が走っていたら、普通に首肯しながら見ていたと思う。そこに太田和美が混じっていたのだから驚いた。ベテランが最後の最後まで水面に出ていたのだ。今節の帰宿は4便制だそうで(9R後、10R後、11R後、12R後)、3R1回乗りの太田は1便で帰ってもよかった。しかし最後まで残って、雨を厭わず水面を駆けた。唸るしかないではないか。

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 整備室では、坂口周が遅くまで本体と向き合った。2R1回乗りだが、やはり最後まで居残ってパワーアップをはかったのだ。坂口はオールスター初出場。自分をここに導いてくれたファンの思いをひしひしと感じている。だから、妥協するわけにはいかない。おそらく多くは画面越しに声援を送ってくれる人たちを喜ばせるために、水面でも陸でも懸命に戦うわけだ。

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 そう、今節参加のすべての選手が、他のシリーズ以上にファンの思いを強く意識しながら戦っている。それがオールスターだ。明日からも随所でそんな感情が見える場面があることだろう。投票してくれた人たちを喜ばせるいちばんの結果はもちろん優勝。そこをめがけて、オールスターファイターは全力で駆ける。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)