BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――何も起きなかった!?

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 喫煙所に一服つけにいったら、今垣光太郎がいた。目を閉じて、肩を伸ばすストレッチをしている。正直、どう声をかけていいかわからず、「ストレッチですか?」と聞いてみると、こちらの質問が聞き取れなかったか、そしてこちらが何を聞きたいのか斟酌したのか、「やっちゃいましたね」と言った。話を続けるしかない。

 今垣は、出走回数の不足によるA2級落ちをすでに覚悟していた。ひまひまデータさんによれば、わずかな望みはあるとのことで、それを伝えもしたが、一瞬目を丸くはしたものの、追加斡旋などをアテにするつもりはなさそうだった。ただ、「いつものことですからね」と笑ったあたりに、苦難をたくさん乗り越えてきた今垣光太郎という男の強さを感じたい。そして、すでに前を向いているはずであることも。ここからふたたび光ちゃんストーリーを紡いでもらいたい。

 

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 喫煙所を出ると、平本真之とバッタリ顔を合わせた。ドンマイ、と言うと平本は苦笑しながらため息をついた。

 準優1号艇をやはり意識したのだという。平本は「してしまった」という言い方をしたが、意識して当然のシチュエーションだろう。平本には下を向いてほしくはない。「芦屋も、グラチャンも、本当にいろいろある……」そう呟いた平本だが、ならば芦屋で、グラチャンで、リベンジを果たせばいい。もちろん次のSGであるオーシャンカップでもいいぞ。景気のいい言葉が出てこないのは当然とはいえ、「切り替えるしかないですね」という平本の言葉を信じて、次の激走を待つことにしよう。

 

 さて、準優組。実は、僕がピットにいた時間帯は、ほとんど動きがなかったと言っていい。見かけるのは、ほぼエンジン吊りのときだけで、作業を終えると控室へと帰っていく選手が多かった。ボートをチェックすると、横西奏恵と湯川浩司はペラが装着されたまま。ゆったりと動き出すつもりのようだ。それはもちろん怠けているのではなく、気温や風などの気候の様子を見ているということもあるだろう。横西のボートは濡れていたし、ということは朝の特訓には参加している。急ぎ動く必要がないということは、感触がよかったということかもしれないな。

 

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 エンジン吊りや、すれ違って挨拶を交わした際などに見た、個人的な印象を少し記しておく。井口佳典は、まったくもって自然体。おそらく緊張やプレッシャーはほとんどないと思う。賞金王の1号艇を経験した人ですからね。もともと精神力も強いおとこだから、これくらいのことで震えるわけはない。丸岡正典もまったくいつもどおりで、飄々と、また柔らかく笑みを浮かべたりしていた。銀河系ラインはやっぱり気持ちが強いな。

 

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 四国勢もリラックスしまくり。重成一人、森高一真、横西奏恵が並んで大笑いしながら歩いているシーンがあって、今のところはまるっきり平常心と見える。地元唯一の優出となった瓜生正義は、屋外ペラ調整所で作業をしていたが、こちらも笑顔いっぱいで、福岡勢や職員さんと話していた。

 というわけで、実に穏やかに、また静かに過ぎていった準優の朝、というわけで、思い切りざっくりと言ってしまうなら、「何も起きなかった」のである。

 

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 こちらの先入観込みと断わっておくが、吉田俊彦は少しカタいように思えた。予選トップの準優1号艇。この初体験に重圧を感じない選手は少ないだろう。カタくなって当然。ボートを丁寧に磨く姿があり、装着場で作業をしているのを見かけた唯一の準優組だったりするのだが、その表情もあまりにも神妙だ。ただ、中野次郎が歩み寄ったときには、いい笑顔も見せていた。これからますます緊張感は高まるだろうが、朝の時点を見る限りあまり心配しなくてもよさそうではある。

 

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 で、準優組で唯一、大きな動きを見せていたのは原田幸哉である。すでに試運転を始めており、一般戦組に混じって水面を駆けていた。試運転停止の赤ランプがつくと、ペラを手に調整室へ。12Rまでたっぷり時間があるにもかかわらず、準備を止めるつもりはなさそうだった。

 ただし、切羽詰まった作業ではなさそうで、ペラ室に向かう際には原田のほうからこちらに気づいて挨拶をしてきた。その笑顔は実に爽快。ならば、この早い準備はアドバンテージになる可能性もある。吉田にとって最大の脅威はこの男かも。

(PHOTO/中尾茂幸=平本、井口 池上一摩=それ以外 TEXT/黒須田)