架台トレイン、出発進行!
若松ピットの架台置き場は装着場の奥。
また、ボートリフトの脇あたりにも小さな枠があり、
だいたい2レース分の架台が置けるようになっている。
というわけで、たとえば10Rのエンジン吊りが終わると、
若手が12台ほどの架台を一斉に移動。
手際よく運ぶため、いくつかの架台を連結させたりして、
まるでトレインのような連隊を作り上げているのだ。
10R後に参加していたのは、藤崎小百合、西村美智子、
松本晶恵、山下友貴、守屋美穂、浜田亜理沙。
実に若々しく瑞々しいトレインは、
なんとも微笑ましいものだった。暑いなか、お疲れ様です!
その後、浜田が整備室に駆け込んでいったのを見て、
覗き込んでみると、
あら、けっこう選手の姿がたくさんあるではないか。
大雑把に言って、機械いじりは
男子の得意分野のような気がしていたが、
初日の終盤の時間帯であることを考えれば、
むしろSGなどより人口密度が高いように思えた。
女子選手も優秀なメカニックなのだ。
浜田はピストンリングを外し始めており、
明日の直前情報に注目。記念すべき女子王座初陣は
5着に終わっており、パワーアップに懸命の表情だ。
奥のほうでは樋口由加里も本体整備。
落合直子も本体を割っていた。
やがて、谷川里江も整備室にやってきて、
本体を割ってピストンを取り出していた。
洗浄という可能性もあるので、これまた直前情報に注目。
さらには、10Rを終えたばかりの長嶋万記も本体を割り、
残された短い時間を有効に使う心づもりのようだった。
長嶋は明日、8R1回乗り。作業を明日に回すだけの
余裕があるようにも思えるが、今日やれることをやっておけば、
明日のレースまでの時間をさらに有効に使える。
こういう積み重ねが、長嶋万記を強くした要因のひとつなんだろうな、
と思う。
なお、隅っこでは垣内清美がゲージをこしこしと調整中。
「早い段階でのゲージ調整はエンジン出ているの法則」から言えば、機力上々の証なのだが、果たして。
終盤の時間帯といえば、若手選手が先輩たちの翌日の
艇旗艇番を準備するというのが日常の光景。
今日もそれぞれの支部の若手たちが、
装着場のボートの間を渡り歩いていた。
そんななかに、金田幸子の姿が。
岡山支部にはもっと若い選手がいるわけだが、
金田は黙々と新兵の作業をこなしていた。
ちなみに、その頃樋口は先述の通り本体整備、
守屋は試運転を終えて引き揚げてきた
岸恵子のエンジン吊りに参加していた。
金田に気づいたのは、エンジン吊りのヘルプを終えた守屋。
艇旗艇番の準備でもしようかしらと歩き出したときに、
先輩がせっせと動いているのに気づいたようだった。
すみませーーーーーんっ! 恐縮して走り出す守屋。
金田に駆け寄って、艇旗艇番を受け取ろうとした。
たまたま金田は守屋のボートに赤い旗を刺そうとしているところで、
守屋はなお恐縮。気持ちはよくわかる。
だが、金ちゃんはまったく気にした様子もなく、
別に手の空いてる人がやればいいのよ的な優しい雰囲気。
まあ、そこまで言うならお願いしようかしら、てな感じで、
ゆっくりと守屋にバトンタッチ。
といってもすべてを守屋に託したのではなく、
半分は金田も飄々と受け持って、
そのまま手分けしての作業となったのだった。
金ちゃん、やさしーっ!
で、その少し後に、「うわ~、テンション下がるぅ~、シゴロ~」との
悲鳴を聞いた。堀之内紀代子だった。
一瞬、ジゴロの聞き間違いと思ったが、
堀之内のボートを見ると黄色い旗が立っている。
今日は4号艇と6号艇だったから、
堀之内は予選前半で外枠をこなすことになったという次第
なのだった。別にジゴロに騙されたとかいうわけではなさそうだ(当たり前だ)。堀之内選手、前半シゴロということは、
後半に好枠が連発されますよ。
明日の5号艇で着をまとめておけば、
勝負駆けは有利に戦えるはず。頑張れ!
さてさて、レース後の表情で印象に残ったのは、
寺田千恵の渋面だった。
1号艇で大敗を喫してしまったのだから無理もない。
前半の1着など忘れてしまったかのようなイラついた目つきは、
あまりに強烈だった。 控室に戻る際には、
武藤綾子に何事かを語りかけ続け、
着替えを終えてピットに出てくると、
展示を終えて戻ってきた田口節子に声をかけていた。
その様子は、ぼやきとか愚痴とかにしか見えず、
いつまで経っても悔しさは晴れない様子。
たった1回の敗戦が、あるいは1号艇での敗戦が、
いかに選手の気持ちを暗くするのかを改めて知らしめられた。
若松はもともとテラッチにとっては純地元。というか、故郷なのである。この地で開催される女子王座には、もちろん思い入れはタップリ。
それだけに、連勝発進のチャンスだったはずの
1号艇を取り逃したのが、特別に悔しいわけである。
この敗戦で、明日のテラッチはさらに気合を入れて臨むはず。
11R、渾身の一撃があるかもしれないぞ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)