「ほんと、お腹とかちっちゃくなったわよね~」
テラッチの開口一番。かつてはテラッチの福の神として、
女子王座Vにも貢献した(?)私のデカッ腹。
下関女子王座では、テラッチがこの腹を触ると
あら不思議、その日は1着が獲れたのであった。
もちろん、優勝戦の日もスリスリされたものだ。
そんな私は、ここ数か月で10kg以上痩せたのである。
というわけで、もうスリスリは封印と相成ったわけだが、
それにしても寺田千恵に褒められると嬉しいですな!
寺田は電気一式を交換するつもりなのか、
その部分を外しながらそんな話をしてきたわけだが、
それから内容はどんどんと真面目なほうに向かっていった。
そして寺田がもっとも言いたかった部分とは、
「本当にみんな全力で頑張ってる」ということなのだった。
残念なことに、この女子王座は
想像したほど売上が伸びていない。
寺田はそのことに心を痛めつつ、
しかし選手たちがどれだけ必死で戦っているかを
誰よりも実感している。そうしたジレンマは、
責任感の強いテラッチに複雑な思いを
抱かせているのだろう。
同時に、寺田は女子選手たちに誇りを抱いている。
その必死な戦いを、あるいはその思いを、
ファンに伝えたいという思いが非常に強いのだ。
係留所に目をやると、
準優組のボートが意外なほど多いことに驚く。
出走は夜の時間帯となるので、
調整はもう少し夕刻に近づいてから……
というのは単なる素人考えなのか。
早い時間からとことん調整を尽くし、
納得できる状態で準優に臨みたい。
作業をすること自体がどうこうではなく、
その思いの強さが女子選手にはあるということだろう。
準優インタビューで
景気のいい言葉をひとつも口にしなかった長嶋万記は、
整備室やペラ室と係留所を早足で行き来しながら、
調整を続けている。
山下友貴も、水面に飛び出して、
係留所に戻ると足早にペラ室に向かう。
角ひとみも鋭い視線で回転調整などを続け、
細川裕子は試運転から戻って
足合わせの手応えなどを仲間と語り合う。
おっと、水面から戻ってきたのは、 田口節子ではないか。
女王も、早い時間帯から力を尽くしているのだ。
僕は選手ではないので、何が正解かはわからない。
気温がもう少しレース時に近くなってから
調整をしたほうがいいのかもしれないし、
機力に満足がいかないのだから
徹底的に時間を使うほうが
やはり正しいかもしれない。
ただ、ナデシコたちの思いは
伝わってきたような気がした。
テラッチと話したあとだったからかもしれないが、
たしかに「全力で頑張ってる」姿が
そこにあるのを僕は見たのだ。
その後、守屋美穂もボートを着水するのを目撃した。
守屋はその少し前には、
いわゆる新兵仕事でピット内を駆けまわっていた。
樋口由加里や浜田亜理沙が
序盤レースに出走するので、
その時間帯にいちばん働くのは
守屋の役割ということになる。
そのかたわら、水面に出て、
係留所とピットを走って往復して、
準優への準備を尽くす。
別にSGなどでも当たり前の光景ではあるが、
やはりそこには何らかの意味を見出さずにはいられない。
そうしたなかで、3R後に落合直子が
香川素子に歩み寄っている。
落合は、香川に真剣な表情で語りかけていて、
調整の方向性なのか操縦に関することなのか、
相談をしているようであった。
チャーリー池上によれば、落合は今節、
上向かない機力に泣きを入れまくっているそうである。
香川はそんな落合を元気づけ、
有効なアドバイスをしようとしているのだ。
準優勝戦は2号艇。
実は、準優組のなかではややカタく見えたのが
香川だったりした。
だが、一般戦回りになっても
懸命にパワーアップを模索する落合を、
香川はやはり懸命に支えようとしている。
自身の戦いの準備のかたわら、
後輩の苦悩にもとことん付き合っているのだ。
ところで、「ペラを調整したら、たまたまかかりが来た」と、
勝利者インタビューのたびに語っていたテラッチ。
そんなわけないよなあ、と思っていたのだが、
それを問いかけると、「ほんとにたまたまなのよ~」と
テラッチは言う。
またまたぁ、そんなわけないでしょ。
「いや、本当に」。
ある程度の調整の方向はわかっていて、
それがハマったわけでしょ。
しつこく食い下がっても、
テラッチは認めようとしなかった。
「調整がうまくいったのも、たまたま。
レースでうまくいったのも、たまたま。
そういうもんなのよ」
やれることはすべてやり尽くし、
それが結果に結びつくこともあれば、
そうでないときもある。
それでも、やっぱりやれることは
すべてやり尽くさなきゃいけないのだ。
人事を尽くして天命を待つ。
テラッチが言ったのはそういうことだ。
ナデシコたちはたしかに皆、人事を尽くし切っている。
よし、僕も人事を尽くす予想をして、
舟券で大勝負するぞ!
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)