「置いて行かれちゃいました~」 峰竜太が頭を掻く。
3R1回乗りだった峰は、今日は1便バスで
帰るつもりだったようなのだが、身の回りや周囲の片づけをしている間にバスは出発してしまった様子。置いてけぼりを食ってしまったわけだ。「ちゃんとぜーんぶ片付けてたのに~」 と笑う峰リュー。
別に落ち込んだふうもなく、穏やかに笑っていた。
それにしても、と思う。今日は1着が出たせいもあるだろうが、
峰が実に柔らかな雰囲気だ。足は良くない。
出ていない部類だと思うし、本人もそう感じているようだ。
かつての峰なら、そうした場合は悲壮感を漂わせていた。
わりと気軽に声をかけてくれる峰なのに、
機力に苦しんでいるときには挨拶の声をかけても
目を合わそうとしない(もちろん挨拶を返してはくる)。
しかし、今日の峰はそうではなかった。
これも1着が獲れたからというのが理由な気もするが、
なんとなく峰竜太はさらに強くなったのかな、と思ったりもした。
結局、峰はペラ調整所に直行して、ペラ叩きを始めている。
本来は宿舎でのんびりしていた時間に、ペラ調整を行なったわけだ。
この分だけ機力が上向けば、バスに乗り遅れた甲斐もあろうというもの。明日は気配がガラリ一変していたりしたら、面白いことになるぞ。
一方で、岡崎恭裕がちょっと心配だ。
元気がないように見えるのである。
もともとたたずまいはクールで、
気合をバリバリに表に出すようなタイプではないが、
それでもどこか覇気のなさを感じてしまう今節。
11Rは山田哲也を逆転して3着に浮上しているのに、
レース後は笑顔もなく、むしろ溜め息をついているような表情だった。
山田とレースについて語り合う際も、山田は苦笑いも見せているのに、岡崎は淡々とした表情のまま。まあ、3着浮上といったって、
負けは負けなんだけど……。 峰がペラを叩いているとき、
そこには若手の輪ができあがっていた。
新田雄史、古賀繁輝の顔があって、そこに岡崎も加わっていた。
そのときはさすがに笑みも浮かんでいて、
岡崎らしい雰囲気も感じられた。機力には満足していないのかもしれない。SG復帰戦を華々しく飾れるかどうか、不安も大きいだろう。
そこをぐっと踏ん張って、明日は爽快な笑顔が見たいぞ!
実は腹の底に気合がたぎっていて、今日のような雰囲気になっているのであれば、そんな岡崎恭裕は大歓迎である。
それにしても、この若手の輪の中に、
古賀繁輝がいるのはなかなか感慨深いことだ。
これまでSG出場のチャンスは何度かあった。
ほぼ確定となったこともあった。しかしその都度、
フライングなどで出場権を逃した。遠回りして遠回りして、
やっとここに辿り着いたわけだ。
青山登さんに「やっとここまで来れましたって、今まで自分で棒に振ってたんだろ」と突っ込まれて困ったように笑っていたそうだが、
ともかくここは古賀繁輝にふさわしい場所である。
2日目を終えて得点率6・00。
単なる初出場の選手ではないということを、見せつけてほしいぞ。
さてさて、若手の瑞々しい様子を見ているのも
たしかに明るい気分になれるが、この二人のツーショットは
いつだってドキドキさせてくれる。松井繁と服部幸男だ。
ライバルと認め合い、今も切磋琢磨する盟友同士。
SGのたびに二人の絡みは何度も見られるが、
何度見たって、この二人が一緒になれば眩しいオーラを感じてしまう。
今日は、11Rに服部、12Rに松井という出走で、
11R後に服部が着替えを置いて装着場に姿をあらわしたのと、
松井が展示からピットに戻ってきたのとがまったく同時になったことでツーショットが完成していた。松井が本番用の係留所から
渡り橋を昇り切ったら、そこに服部がいたという感じ。
どちらからともなく歩み寄り、自然と会話が始まっていた。
どうやら服部の11Rでのレース、あるいは機力の手応えが
話題になっていたようで、二人とも穏やかな目で言葉を交わしているのであった。明日は11Rで直接対決!
レース後はどんな表情で語り合うのだろう。
(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)