勝負駆けはいつだって悲喜こもごも。
18位というラインが決まっているからこそ、
そこには単なるレースの勝ち負け以上の思いが渦巻く。
10R、レース自体がアツかった。
篠崎元志、峰竜太、魚谷智之の2~4番手争い。
2周目ホームでは魚谷が2番手優勢だったが、
1マークで逆転を狙った峰竜太が突進。
魚谷がこれを交わす間に篠崎が2番手に上がっている。
魚谷は2着6・00、3着5・60という得点状況だったから、
このままでは終われない。一方の峰も2着5・83、3着5・50で、
2着が欲しいところ。篠崎は準優当確ではあったが、地元SGでひとつでも内枠をと考えれば、この番手を手放すわけにはいかない。
で、最終コーナーがもつれた。篠崎、峰、魚谷という隊列で、
魚谷が峰の内に果敢な切り返しを放ったのだ。
これを交わそうとする峰、そして魚谷はスピードが乗った状態で
2マークに突っ込む。これが篠崎の行く手をふさぐかたちになってしまう。結果、2着・峰、3着・篠崎、4着・魚谷。
もし淡々と回ったならありえなかった順番で
3人はゴールを通過している。
戦いが終われば、ノーサイドである。陸に上がると、
まず峰が魚谷のもとに走っていった。
たしかに、2周1マークで峰がアタックをかけなければ、
ここまでもつれることはなかっただろう。峰の顔は申し訳なさそうに
歪んでいる。魚谷はこれに左手をあげて応えている。
レースが終われば遺恨などないのだ。
次に、魚谷が篠崎のもとに駆け寄った。
最終コーナーはやはり心にひっかかりを残すものだっただろう。
もちろん篠崎も、いえいえと魚谷の謝罪を制している。
そして、峰も篠崎にペコリと頭を下げた。
盟友とも言うべき二人だから、因縁など残るわけはないが、
それでも……いや、だからこそだろうか、
峰は後輩に対して礼を尽くしたわけだ。
結果的に、魚谷は不良航法をとられている。
もちろん3周2マークだ。篠崎が受けた被害を思えば、
仕方のないジャッジだろう。だが、僕は魚谷の闘志を否定したくない。
むしろ、敬意を表したい。そして、ともに戦った峰と篠崎をも讃えたい。ノーサイドで終わったからこそ、なおさら。結果、峰は準優に残った。
魚谷が反則をとられたことに対して憂鬱な表情を見せてもいたが、
この激戦をともに戦った魚谷の分まで準優を思い切り戦ってほしい。
魚谷もあと2日、スッキリとした気持ちで激しく戦ってほしい。
11Rは、白井英治の勝負駆け失敗が痛々しかった。
ドリーム1着、2日目2着3着。予選前半を順調に乗り切った
勝率ナンバーワン男の予選落ちを誰が想像しただろうか。
白井自身、まったく頭になかっただろう。3日目の大敗で
にわかに首元が寒くなり、しかし巻き返すべく2号艇で出走した11R。
2着6・17、3着5・83という状況で、結果的には3着でも
次点となってしまっているが、それでもまさか予選落ちを
ほぼ確定的にしてしまう4着=5・50に終わってしまうとは。
レース後の白井の顔は、泣き顔だった。泣いていたわけではない。
泣きだしそうだったというわけでもない。だが、顔は激しく歪み、
もし涙が流れていたとしても不思議ではない表情。
まさかの敗戦をやってしまった……自分でも信じたくない現実に、
ただただ悲嘆にくれているという雰囲気だった。
その表情を見た後に、川﨑智幸の淡々とした様子を見て、
実に不思議な心持になったのも確かだ。川﨑は3着で6・00、
そして1号艇。伸びる赤坂俊輔、丸岡正典がセンターに構えるイン戦は、大敗の危険性も充分にあったわけだが、
きっかりと逃げて予選突破。ホッとするとか、
歓喜するとか、そうした様子があっても
おかしくはないと思ったわけだが、川﨑は表情を特別変えることもなく、なんとも穏やかにレース後を過ごしているのである。
これこそキャリアのなせる業ということだろうか。
しぶとく着をまとめて最後に1着を獲り予選突破という航跡も含めて、
そのたたずまいは何とも言えずシブく感じられたのだった。
12Rは、まず太田和美と川北浩貴の「予選トップ争い」が
注目を集めていた。1着を獲れば、トップ確定。
その時点で1位だった川北は1着でなくとも先着すればトップ。
太田は川北に先着することが絶対条件で、
着順の差がひとつならば上位着順の差などで
川北に軍配が上がるため、ふたつ以上の着順差をつければ
トップとなる。で、結果は太田2着、川北3着。
二人がどこまで条件を把握して戦っていたかはわからないが、
太田はレース後に川北にニッコリと笑いかけて
健闘をたたえ合っている。川北は報道陣に囲まれて、
1位を告げられると一瞬だけ目を見開いた。
ともあれ、両者の直接対決の結果、川北がトップ通過となり、
引き続きシリーズの主役として明日を戦うことになる。
そうした興味が盛り上がるなか、坪井康晴はしっかりと逃げた。
レース直前、たまたまニアミスしたのだが、
これがまた何ともスッキリした表情。2着6・00、3着5・67だったから、
絶対に2着は外せないイン戦で、
しかし坪井はまったく心乱れることなく、
レースに臨んだようだったのである。
レース後、坪井はなぜか走ってカポック着脱室に向かっている。
JLC展望番組で勝ち上がりインタビューを担当している
青山登さんのマイクを振り切っての速攻劇。
レースも、レース後も逃げ切り!?
もちろん最後は青山さんの質問にちゃんと答えているが、
なんとも不思議な疾風のごとき動きだった。
あ、あとこのレースでは、吉川元浩の安堵したような
表情も印象的だったな。
4着条件で、しかし横澤剛治と接戦となっての4着。
苦労した時期のあった吉川が、賞金王制覇の地で
本格的にSGに戻ってきた。変わらず男っぽい顔つきを見ながら、
僕はなんだか嬉しくなってしまったのだった。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)