賞金王決定戦最後の勝負駆けだからといって、
前検からピリピリとした緊張感が充満しているというわけではない。
慌ただしいのはいつものこと。それぞれがさまざまな思いを抱えていたとしても、今日のところはそれほど強く発露されてはいない。
あえて言うなら、赤岩善生がいつも以上に視線が鋭い、
というくらいだろうか。
桐生順平と松尾昂明の100期コンビも、穏やかな表情で動いている。今節は二人が新兵中の新兵。当然、モーター架台運びやら何やらと
若手仕事には追われているが、
チャレンジカップという特別なSGに気圧されている様子は感じられない。もっとも、彼らにとって賞金王決定戦はまだ
現実味が強くないということもあるだろうか。
それにしても、もう100期生が複数もSGに登場するのだと思うと、
なかなか感慨深いものがあるな。このボートレース特集をスタートした頃には、まだやまと学校に入学もしていなかった桐生と松尾である。
最初のチャレンジカップ取材となったは、
05年芦屋で優勝は上瀧和則。その時点でも、
100期生はまだ選手候補生ですらなかったのだ。
その二人が、こうしてチャレカのピットにあらわれ、
「おはようございまーす!」と礼儀正しく挨拶をしてくる。
いやはや、しみじみしてしまいますな。
99期生の茅原悠紀も、地元の若手ということもあって、
テキパキとした動きを見せていた。
彼の場合は、穏やかな表情をあまり見られなかったような気がする。賞金王勝負駆けというより、念願の地元SGということのほうが、
彼にとっては意味が重いか。ともかく、ピット内を駆けまわっている姿をもっとも多く見かけたのは、茅原なのであった。
桐生、松尾、茅原の姿を見ていて、
もはや篠崎元志や平本真之が登番最若手ではないのだなあ、
と改めてしみじみしたりする。
もちろん、彼らとてまだまだSGでは新人の部類なので、
やはり新兵仕事を率先してこなしてもいるわけだが、
しかし彼らの後輩が徐々にピットに増えていくこともまた、
おっさんに遠い目をさせるものである。
篠崎は、岡崎恭裕と行動をともにすることも多く、
この福岡イケメンコンビがSGピットで復活したことは嬉しい限り。
篠崎は「峰さーん!」と峰竜太を呼び止め、
真剣な顔で相談を持ちかけたりもしていて、
この九州イケメン三銃士が戻ってきたのも、嬉しいことだ。
それにしても元志、峰竜太のことを「峰さーん」と呼ぶのね。
先輩はたいがい「竜太」とか「竜ちゃん」と呼んでいるのだが、
後輩は苗字で呼ぶのか。なるほど。どうでもいいことだけど。
そんな若者の姿を微笑ましく眺めつつ、整備室を覗き込むと、
西島義則が早くも本体を割っていた。すごいなあ。
西島の作業の早さ、前検から徹底的に自分のスタイルを貫く姿には、常々、唸らされている。若手の瑞々しい表情を見た直後には、
なおさら強烈なプロフェッショナルの姿勢を見せつけられたような気になって、ひたすら尊敬の念が浮かんだ。
部品交換をしている様子は確認できなかったので、
点検をとことんやった、ということだろう(直前情報をご確認ください)。前検は外回りの整備に励む選手がほとんどなのに、
西島は一気に本体にまで手をつける。
若手がこの姿を見て何を思うのか、というのも興味深いな。
なお、西島イズムを受け継いでか、辻栄蔵も本体をしっかり点検。
割っていたわけではないが、西島の隣でモーターを見つめる目つきは、なかなか強烈だった。
で、やけにリラックスした様子だったのが、松井繁である。
すでにすべての作業を終えたのだろう、
整備室をぶらぶらとしながら
エンジン吊りの待機中といった感じの王者。
ドリーム共同会見では「体感は悪くない」と言っており、
前検としては合格点の手応えを得たか。
ゆったりと過ごす王者の姿も悪くないな。
明日のドリーム戦は進入から注目。
「基本、動くつもり」と言っているぞ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)