勝負駆けだからどうこうというのではなく、
このクラスの選手たちはとにかく動きが早い。
足色が気に食わないとなれば、速攻で手を尽くす。
そこにあるのは勝利への強い渇望であり、
納得のいく戦いをしなければいられないという妥協のない気概。
頭の片隅に賞金王が鎮座していたとしても、
それがあるから動くというわけではなく、
別にどんな場面だってとことん動かずにはおれないのである。
前半記事で中村亮太が2R後に整備室に飛び込んだ話を書いたが、どうやらキャリーボディーを換えたようである。
そしてその後は、11R発売中まで試運転を繰り返した。
手応えは明らかに良くなった、という。
しかし、亮太はまだ満足していない。
「よくて中堅上位なんですよね。
レースのときは中堅もなかったから、良くはなってるんですけど……
まだ整備したい気持ちはあるけど、一か八かって感じになるし……」 話をしたのは11R出走間近。整備したとしても
試運転に出る時間はないし、
もし明日、早い時間帯のレースだったら、
悪くした時に元に戻す時間がない。
「1回乗りなんですけど、後半レースだったら、いろいろ考えます」
結局、亮太は明日、2R1号艇。目論見通りにはいかなかった。
だが、少なくとも中堅上位には積み上げて
1号艇に間に合わせたのは大きい。
まずはこの足で必勝の白カポックを戦い、
そしてきっとそのレース後にも忙しそうに動く亮太を
明日は見られるだろう。
9R後には、森高一真が整備室に飛び込み、
「三ツ割整備」を始めていた。
これはもっとも大きな整備と言ってもよく、
つまりはクランクシャフトの整備。前半で2着を獲っている森高だが、
そのときもおかしな感じだったそうで、三ツ割してみたらズバリ。
クランクシャフトに異常が見つかったそうだ。
「上も下もくっついていたんや」という言葉に
思わずフリーズしてしまったが(意味を理解できなかったんです。
勉強不足……)、JLC解説者の秋山基裕さんに教えてもらったところによると、シャフトが曲がっていたのだろうという。
クランクシャフトを交換し、
整備は12R発走直前までかかっているので試運転はできていないが、森高は「たぶん……いや、絶対にようなる!」と
手応えを感じた様子。モーターの背骨とも言われる
クランクシャフトの異常を発見し、修正したわけだから、
ある程度の確信は持てているのだろう。
もちろん、明日試運転をしてみて、
さらなる調整をはかるのだろうが。
今日のところは試運転の時間もないのに、
一気に大整備に手をつけた森高。明日は11R1回乗りと、
結果的には明日に回しても間に合う整備だったのだが、
「(さらに調整できる時間があるから)ツイとるな」。
やっぱりこういう姿勢がSGクラスでいられることの
ひとつの根拠なのだろうと実感した次第だ。
整備していたのは彼らだけではない。
石野貴之は、森高より先に整備を始めて、
終わったのは森高より少しだけ遅かった。
こちらも三ツ割をしていたようで、それ以外にも
徹底的に調整をはかったのだ。
篠崎元志も、9R後に整備を始めて、
12R発売中まで作業に没頭していた。
整備室の奥のほうにいたので、手元を確認することは
かなわなかったが、ワースト機を立て直すべく、
終盤の時間を丸ごと費やしたわけである。
ほかにも、吉永則雄や辻栄蔵の姿も整備室には見えており、
彼らもさらなるパワーアップをはかっていた。彼らが明日、
どんな気配の変化を見せてくれるのか、
レースや試運転を見るのが楽しみになってきたぞ。
さてさて、ドリーム戦は井口佳典が先行する瓜生正義に
喰らいついて逆転。1着をもぎ取っている。
レース後は満足げな表情を見せており、
同時に安堵の思いもあったことだろう。
瓜生正義はさすがに苦笑い気味だった。
児島のカポック脱ぎ場は装着場の片隅にあるので、
レース後の感想戦はもろに目に入るわけだが、
黙々とカポックを脱いでいた太田和美に、
残念な結果に終わってしまった馬袋義則が背後から話しかけた。
ざわついた装着場の空気で、馬袋が話した内容はわからない。
少し高いトーンの声が途切れ途切れに聞こえてくるだけだ。
だが、それが馬袋らしさ満点の言葉だったのは間違いないと思う。
太田がなんとも優しい表情で笑い始めたのだ。
この場所で、苦笑い含みでレースを振り返るシーンはよく見られる。
笑顔自体は珍しいものではない。
だが、まるで控室での談笑のように柔らかい笑みを見せた
太田を見て、馬袋も人柄のようなものを勝手に感じ取った次第なのである。太田の笑顔も最高だった。
そして、背中しか見ていないのだけれど、
馬袋がまたまた大好きになった。賞金王で、
彼ら優しき勝負師が大仕事を果たしてくれたら最高だ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)