岡崎恭裕のこの言葉に尽きると思う。
「明日はフライングを切るより遅れてしまうほうが、
今後の僕の選手人生において、痛いと思う」
大きな心の傷となった昨年のモーターボート記念でのフライング。
6月の若松周年で優出したときには、2号艇だが3コース発進で、
コンマ19のスタート。これは完全にヘコんだスリットとなってしまい、
ダービーの前検日に「あのスタートは情けなかった……」と
語っていた。 仕方ない、と思う。そう簡単に克服できるほど、
あのとき負った傷は浅くはないだろう。
そして、明日の優勝戦は3号艇に入る。
そう、MB記念と同じカポックだ。幸ちゃんさんご指摘のとおり、
④瓜生正義⑥篠崎元志まで同じ。
フラッシュバックしてもおかしくはないのだ。
しかし、岡崎はそれを認識して、向き合って、
そしてひとつの決意を述べた。あのMB記念から1年間、
我慢を重ねてダービーに臨んだのだという。
しかし肝心のダービーで、岡崎はスタートを行ききれなかった。
それが情けなくて、その後はスタートを頑張ろうと決めたという。
クールに見える岡崎だが、胸の奥には熱いものがたぎっている。
いちど決心したら、真っ向から立ち向かうのだ。
だから、この決意表明は実に重い。熱い。カッコいい!
明日はまず、自分との闘いである。あの悪夢を完全に払拭できるのか、それともやっぱり負けてしまうのか。僕は信じたい。
岡崎の言葉を信じたい。もしそのトラウマを克服することができれば、栄冠と聖戦のピットはぐっと近づくことになるだろう。
太田和美と瓜生正義には、もちろん優勝争いという
もっとも大事な戦いがあるが、もうひとつの戦いもある。
賞金王トライアル初戦の1号艇だ。今日の時点では
太田が約500万円引き離してリードしているが、
瓜生が優勝すれば一気に逆転する。
「瓜生選手が優勝してしまえば仕方ないですが、
今はいい位置にいるので、できるだけのことはしたいですね」(太田)「それは意識しないで戦いたい」(瓜生) 瓜生は優勝するしかなく、
太田のほうが優勢ということもあるかもしれないが、
二人のコメントは対照的だった。もちろん瓜生だって
「意識しないで戦いたい」だから意識が
多少なりともあるということだろうが、太田のほうが
より強い思いを抱いているとは言えそうだ。
それが果たして、どのような結果を導くのか。
繰り返すが、それとは関係なく、二人が目指すのは優勝。
太田はグラチャンと同じ2号艇で、当然再現を狙っているだろう。
それでも我々は「トライアル1号艇」争いというフィルターを使えば、
さらに興味深く優勝戦を楽しめるだろう。
レース後の篠崎元志は、歓喜よりも安堵のほうが
強く表情ににじみ出ているように思えた。
今節はまず、機歴の弱いモーターとの格闘があった。
懸命に整備もしている(準優もリング交換で臨んでいる)。
パワー不足を補おうということもあったのか、
レースからはとにかく気迫が伝わってきた。
そうして一節間戦い抜いて、最終日には優勝戦のピットに
立つこととなった。「足以上の着が取れていると思います」と
会見では口にしていたが、本音だろうと思う。
それだけに、優出を喜ぶというよりは、ホッとしたという
思いが強かったのだろうか。
12Rで1着を獲った岡崎に、篠崎は上気した顔で
「すげーっ!」と声をかけている。腰を抱き合う場面もあった。
福岡のWヤングエースが、あのMB記念以来、
優勝戦であいまみえる。岡崎の悲しみを身近に見てきた篠崎としても、感慨深いものはあるのだろう。
二人がそろって再び未来へと駆け出すための一戦。
そんな見方をしても、優勝戦は面白いのかもしれない。
田村隆信はレース後、1着となった平尾崇典と笑顔で
レースを振り返っている。なんとも透明感のある表情で、
気分の良さがおおいにうかがえるものだった。
もちろん、機力には手応えがあるだろう。
「伸びは分がいい」ということで、外枠でも充分に戦える足はありそうだ。そして田村は、04年の児島チャレンジカップの覇者である。
さらに、昨年のチャレンジカップ覇者でもある。
その意味で、“W連覇”が懸かっているわけである。
それをどこまで意識しているかどうかはともかく、
児島との、またチャレンジカップとの相性の良さは感じているだろう。
そうした部分が追い風になれば、充分に伏兵たりうるだろう。
いや、伏兵は失礼かな。
優勝戦1号艇は平尾崇典! 地元SGで優勝戦1号艇。
初制覇の最大のチャンスである。もちろん、初賞金王出場も、
手の届くところまできた。 優出会見では、やけに饒舌だった。
足色よりについてよりも、今節は力が入っているか、という問いが
スイッチを入れたようだった。もちろん、地元SGへの思いは強い。
岡山勢は全員がそんな雰囲気で、そういう話をしているわけではないというが、はっきりと普段との違いは感じ取れているそうだ。
しかし、SGではチャレンジャーなのだとも言った。
正月開催とかなら、勝利が要求される立場だが、
SGではそうではない。地元SGへの思いと
チャレンジャーであるとの思いが複雑に交錯している。
だから、決して今節はピリピリしているわけではない、という。
この優出会見は、10R終了後に行なわれている。つまり、まだ枠番は確定していない。11Rで中辻崇人が敗れ、12Rで瓜生正義も敗れることは、この時点では想定していないのだ。明日、白いカポックが転がり込んできたことで平尾がどんな変化を見せるのか、注目したい。個人的には、巨大なチャンスを前に闘志あふれる平尾崇典を見てみたい気がする。
さて、準優の結果を受けて、ベスト12のゆくえが
輪郭を相当にハッキリさせてきた。詳しくは別項に任せるが、
フライング気味に言ってしまうと、今垣光太郎、山崎智也、
白井英治までが当確となった。
ただし、選手たちはおそらく、それを把握して走っていたわけでは
ないだろう。我々はひまひまデータさんなども見ながら、
細かい資料を検討できるが、選手たちが取得できる情報は
限られている。だから、準優に進んだ智也、白井、中島孝平は
ただただ優出を目指したはずで、中島の敗退が
大きな意味を持っていたとは、中島自身も含めて、
誰もわかっていなかったはずだ。
だから、レース後の白井は、とにかく悲痛な表情を見せていた。
ここ一番で敗れてしまった時の白井は、
悔しさを隠そうともせずに、顔をゆがませる。
それは泣き顔にも見えて、胸の内がせつなくこちらまで伝わってくるのだ。
逆に、これは本当に何度も何度も飽きるくらいに書いているが、
智也は笑顔や微笑で悔恨を隠す。今日もそうだった。
自力でまくって出て、しかし差されて、
インに残されて敗れたレースが悔しくないはずがないではないか。
だから、僕は勝手に、その微笑こそが悔しさの発露なのだと
解釈している。その意味で、あの表情は白井が見せたものと
なんら変わらないものだ。
中島は、常に淡々としていて、今日も同様であった。
言うまでもなく胸の奥に渦巻くものはあるに違いないが、
それをあまり表情に出していなかったのだ。
明日は中島にとって、なんともヒリヒリさせられる「結果待ち」の一日。それでもきっと表情をそれほど変えることなく、
目の前の戦いに全力投球するのだろうが。
(PHOTO/中尾茂幸=瓜生、平尾、山崎、中島 池上一摩=岡崎、太田、篠崎、田村、白井 TEXT/黒須田)