「今日だけチヤホヤされて、あとは角(ひとみ)さんの応援をしながら、こっそり自分も勝ちたいと思います」
明日のドリーム戦出場選手の会見の場で、海野ゆかりはそう言った。 最近、ある男性レーサーからこんな話を聞いていたことを
思い出した。「賞金王シリーズに初めて出たとき、
決定戦の凄さを目の当たりにして衝撃的でした。
だって、決定戦の出場選手たちがピットにやってきた途端、
記者さんたちは僕たちのことは無視ですもん(笑)」
“決定戦”と“シリーズ”。 その関係の微妙さは
「賞金王」も「賞金女王」も同じということなのだろう。
賞金ランキング13位の“次点”となり、
明日のドリーム戦1号艇に入る永井聖美もまた、
ドリーム戦に向けてのモチベーションについて、
会見で聞かれた際にこう答えている。
「13位になった時点で(モチベーションは)上がらないですね。
気持ちは来年です」と。 永井のこの言葉のなかには、
レーサーとして本音が出ているには違いない。
しかし、だからといって、今節に臨む気持ちが
ゆるむことにはならないだろう。「来年」に向けて、
勢いよく走りだすためにも、ここで勝っておくことは
重要な意味を持つ。 ピットの様子を見ていても、
「シリーズだから……」という感じで作業をしている選手は
一人もいなかった。海野も永井も、その代表格である。
ドリーム戦5号艇の長嶋万記に対しては直接、
「決定戦がある中でシリーズに出るというのはどうですか?」と
聞いてみた。 すると、彼女はこう答えてくれている。
「これがGⅠだったなら、とは思いますけどね(笑)。
でも、どのレースも同じ気持ちで走るのは変わらないですね。
それにさすがは大村ボートさん。にぎやかな感じも
女子王座みたいだし、そんな気持ちになっていますよ」
……そう。気分は女子王座! そういう一般戦が、
この賞金女王シリーズであるはずだ。選手がそのような気持ちで
戦ってくれるのだから、我々ファンもそうした感覚で楽しみたい。
今日のピットでは、ペラ小屋に出入り選手の多さが目立ったが、
そのうちの一人が鎌倉涼だ。
最近、悪いモーターばかり引いていたので、
今節に入る前には「神頼み」もしていたというが、
それもやはり、このシリーズを軽くは見ていない証左といえよう。
「乗った感じは悪くなかったです。前検にしては
いいほうじゃないですかね」 とも話していたが、
そこからの上積みを求めての作業だったわけである。
ペラ小屋の中をこっそり覗き込んでいた時間帯もあったのだが、
「きゃあ」というような悲鳴が聞こえて、
「びっくりしたあ」という声がそれに続いた。
声の主は平高奈菜だ。 彼女がペラ小屋から出てきたとき、
「どうかしましたか?」と聞いてみると、
「なんか、虫がいました」と、やや冷たく返された。
こういうときはやはり……、見て見ぬふりをするのが
紳士というものなのだろうか。 男として未熟である。
そんなことも実感された。
未熟といえば、女性を見る目もまだまだなのかもしれない。
これまで、特別な印象を持つことはなかった堀之内紀代子が、
今日はなんだか魅力的に見えた。普通に過ごしているときではなく、
作業をしているときの目がすごく美しいのだ。
心身のコンディションがいい証拠かもしれないが、
これも基本的には「内面」から来るものなのではないか。
堀之内が作業をしているところなどは、
過去に何度も見ていたはずなのに、
いままでそれに気づかなかったのはやはり未熟だ。
ただ……、今節の堀之内が、これまでにはないほどの輝きに満ちた
走りを見せたとしたなら、私の見る目はなかなかのものだということにもなる。 SGなどにしても、大きな結果を出す選手は、
早い段階から違って見えることが多いものなのだから。
(PHOTO/森喜春 TEXT/内池)