ここで何度も書いているが、選手は自身の得点率はわかっていても、順位についてはほとんど把握していない。
我々マスコミには資料が配られるが、もしその資料がなければ
我々だって完璧に把握するまでには時間がかかるだろう。
「えっ! うそっ!?」 準優1号艇ですね、と岩崎芳美に言ったら、
目を丸くして驚いた。オール3連対で得点率7・67は、
そこそこ上位で内枠だろうとは思っていたようだが、1
号艇とは認識していなかったのだ。前検でボコボコだった足を
日々立て直し、予選3位通過はさすがの実力者。
ここまでは無欲で懸命な戦いを続けてきたわけだから、
ここから上を見据えての渾身の走りが見られるに違いない。
●決定戦●
トライアル組も、実は順位とか優出ボーダーとかは
把握していなかった。「えっ、そうなんですか?」
11Rを逃げ切った三浦永理は、明日は無事故完走で当確だろうと
会見で知らされ、目を見開いて驚いていた。
賞金王決定戦を取材してきた我々には、「3着+1着=17点」が
ほぼ当確であることは経験則でわかっている。
ボーダーはおおよそ21点と言われており、トライアルは6着でも4点。まして今回は3人が実質的にチャンスを失っているから、
ボーダーが下がる可能性もある。三浦が逃走を決めた瞬間に、
「優出一番乗りか」と考えた人は多かったはずだ。
だが、このシステムを経験したことのある選手が
一人もいない決定戦組、そのあたりの意識が希薄だったとしても
まったくおかしくはない。おそらく、第2戦を得点計算したうえで走った選手はいなかったのではないか。それはもちろん悪いことではなく、
純粋な全力投球の姿がそこにあったことになる。
11R発売中、ピットを駆ける中谷朋子の姿があった。
他の12R組のボートはとっくに展示ピットにつけられており、つまり中谷はギリギリまでプロペラの調整をしていたのだ。雨に濡れて滑りやすくなっているピットを、中谷は全力で走る。そう、中谷は勝負を捨ててなどいないのだ。 優先艇保護違反でマイナス10点を喫した初戦。残る2戦をピンピンで19点ならひょっとして……とは我々が考えることである。中谷はただただ、勝利のために走る。勝利のために準備を整える。明日は6号艇だが、中谷はもちろん全力を尽くすだろう。侮れないぞ!
SGを数多く経験し、賞金王シリーズのピットで
最高峰の戦いを目の当たりにしてきた横西奏恵は、
少しはこの戦いを知る者と言えるだろうか。
初戦3着発進で、上々のスタートを切ったが、今日は5着大敗。
この数字が、優勝戦に駒を進めるにはやや厳しいものだということは、もしかしたら理解していたかもしれない。
レース後の横西の表情はただただ、カタかった。
もちろん、敗戦自体に対しての悔恨が主な感情であろう。
それでも、戦いがもうあと1つしか残されていないのだと
危機感を抱いたということはなかったのか。
横西だったらもしかして、と勝手に想像してしまった次第である。
ともかく、それほどまでに横西は顔をこわばらせ、
悔しさを噛み締めていた。それは間違いなく、強者の姿だと思った。
●シリーズ戦●
シリーズ戦、予選トップ通過は海野ゆかりだ。さすがです!
本来であれば、11Rか12Rを走っているはずの実力者だけに、
10Rを走らねばならないというのは、
あまり表情には出していないけれども、屈辱であるに違いない。
しかし、12人が抜ければやっぱり怒濤の強さを見せるというのは、
まさに実力者の意地。もっとも、ピットでの様子はなんとも
柔らかい雰囲気で、岩崎芳美や武藤綾子や寺田千恵とにこにこ顔で話していたり、角ひとみと笑顔で行動をともにしたりと、
なんとも自然体である。それもまた、強者の余裕と言うべきだろうか。
3日目を終えて予選トップだった藤崎小百合は、
さすがにそのことをスポーツ紙などで知っていたと思う。
今日、しっかりポイントを積み重ねておけば、
そのまま逃げ切れるということは意識していたはずだ。
しかし、着を落としてしまった。4着2本で、結果的に予選4位。もちろん、その順位自体を把握していたわけではないだろうが、
もはや1位をキープできたとは思っていなかったはずだ。
終盤の時間帯、藤崎は整備室にいた。本体整備だ。
今日感じた違和感を吹っ切るために、本体を割って仕切り直し!
予選は通過点でしかない。トップだろうが、4位だろうが、
目指すは優勝! そう開き直れているのであれば、
もちろん準優も優勝戦も怖い存在になる。
(PHOTO/中尾茂幸=三浦、中谷、海野、藤崎 池上一摩=岩崎、横西 TEXT/黒須田)