BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――緊張

 ピットに緊張が走った。11R、1周目バックで白井英治と丸岡正典が転覆したのだ。スピードの乗っている状態にある直線での転覆は危険度も倍増する。まずは係員さんたちがレスキューを迎え入れるために大急ぎで動き出し、続いて選手仲間が控室などからレスキューの到着する場所に駆けつけている。

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 丸岡と同県同期の湯川浩司が、心配そうに水面を見つめる。石野貴之も合流して、丸岡たちが戻ってくるのを険しい顔つきで待ち構えていた。白井は山口から単独参戦。白井を心配して駆けつけたのは、茅原悠紀ら岡山勢だ。こちらも、表情は険しい。

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 やがてレスキューが帰還し、まず丸岡が陸に降り立った。足取りはしっかりとしており、どこかを激しく痛がる素振りも見せていなかったので、まずは一安心。ズブ濡れになりながら、自力で救護室へと向かっている。

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 一方、白井はヘルメットの奥で顔を歪めていた。左腕を気にしており、負傷は明らか。自力でレスキューを降りたものの、その足取りは重い。上瀧和則選手会長の「英治、大丈夫か?」の問いかけに頷きはしたが、歩くスピードは依然として遅く、見るからに痛々しげであった。

 結局、白井は無念の途中帰郷。悲願のSG初制覇は、次に持ち越しとなってしまった。この傷を癒して、次は笑顔で会いたいぞ。丸岡は明日も出走表に名前がある。この転覆分の巻き返しを期待しよう。

 

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 11Rのレース前までは、ピットには穏やかな空気が漂っていた。ペラ室や整備室に選手の姿はあるが、朝の慌ただしさとは状況が一変。ペラ調整室を覗き込んでも、原田幸哉の笑顔が見えるなど、張り詰めた雰囲気はあまり感じられなかった。

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 そうしたなかでも、エンジン音は鳴りやまなかった。試運転を続ける選手は少なくなかったのだ。顔ぶれを見渡すと、90期以降のやまと世代が中心で、最後に陸に上がったのは平本真之である。平本はモーター架台の準備などで駆け回る姿もあり、もっとも忙しそうにしていたのは、この男だったかもしれない。

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 宇野弥生、三浦永理のナデシココンビも遅くまで試運転を繰り返していた。レース後のエンジン吊りを終えると、速攻で係留所に降りていき、試運転開始の合図とともに水面に出ていく。9、10Rの発売中には終盤レースのスタート練習も行なわれており、カポックを着ながら試運転開始を待つ姿はそのたびに見られたものだった。

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 三浦はSG初参戦となった10年賞金王シリーズでも延々と試運転を繰り返し、見事にSG初1着もあげている。ならば、宇野にも当然それを期待したいところ。一刻も早く水神祭が実現するのを楽しみにしよう。弥生さんフリークとして名を馳せるU記者こと内池は4~5日目に参戦する予定だが、その前に初1着を達成して、内池に地団駄踏ませるのが理想……ですよね、内池記者。

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 ほかには、九州地区選を制してGⅠ覇者の仲間入りを果たした今井貴士も遅くまで試運転をしていた一人。陸に上がって、瓜生正義のアドバイスを受けているシーンも見かけた。福岡支部の若手にとって、瓜生とともにSGを戦えることはこの上なく心強いことだろう。

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 さらに、そうした若者たちに交じって、烏野賢太の姿も遅くまで水面にあったのだから、感服の一言。烏野は、昨夏のオーシャンカップでも猛暑の中で最後まで試運転を繰り返していた。すでにベテランの域にも入ってきている烏野だが、その動きはひたすら若々しいのだ。SGでは登番も上のほうになっているわけだが、それでも一線で活躍する原動力は、この勝負への執念にあると言っていいだろう。

 

 さて、平和島ピットの選手控室は、もっともスタンド寄りにある競技棟にあるが、一方で出走待機室と展示待機室はもっともスタンドから離れた、いちばん奥のほうに設置されている。出走&展示ピットの並び、といえばおわかりいただけるだろうか。だから、レースが近づいた選手たちは、控室から50mほどを歩いて待機室に向かうことになり、皆、水面際に近いところを通過している。

 今日の僕は、装着場の水面際を根城にして、取材を行なっていた。もちろんずっとその場にいるわけではないが、多くの時間、そこで突っ立っていたのだ。西日が当たって暖かいから、である。今日のピットは風が冷たかったのだ。

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 僕はそのうち、胃の痛みを覚え始めた。昨日の夜、畠山と酒飲んだのはたしかだが、飲みすぎたということはない。なのに、胃がシクシク……。もしかしたら、僕は選手の緊張感をもろに浴びていたからではないか、と思った。

 そう、そこはレースを間近に控えた選手たちが通る“闘魂ロード”の目の前なのである。誰もが緊張感に包まれ、レースに闘志を燃やしながら、そこを歩く。それを至近距離で見ているわけだから、こちらも緊張して当たり前なのだ。

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 写真は、展示に向かう山崎智也。どうですか、この凛々しく厳しい表情。気になる智也のこんな表情を目の当たりにすれば、そりゃあこちらも背筋が伸びるというものである。うむ、明日はポジションをちょっとだけ変えようかな……。(PHOTO/中尾茂幸 闘魂ロードと智也は黒須田 TEXT/黒須田)