BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ムードメーカー

 

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 午後のピットに足を踏み入れて、最初に目に入ったのは記者陣に囲まれている井川正人の姿だった。

「中高年の希望」がテーマとなっている井川だが、水神祭という結果を出せたことで、中高年に勇気を与えられたことが嬉しかったのだろう。ニコニコしている顔を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。

 7年ほど前にインタビューをさせてもらったこともあるが、本当に謙虚で、素敵な人なのだ。

「ヒゲは家系なんです。親父はアゴヒゲまで伸ばしていたし、姉は生やしていなかったけれど、上の兄たち4人はみんな伸ばしていたので、生やすのが当然という感覚だったんですね」と話してくれたことも思い出される。

 

 

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 次に目に入ったのは、腕組みをして、じっと考え込んでいた宇野弥生だ。

 午後になって、さらに風も強くなっていたので、気持ちを引き締めなおしていたのかもしれない。レースも近づいていたので、当然、声は掛けなかった。

 ただ、8R1号艇で2着になったあとに、遠目で様子を見ていると、やはり気になった。最初は悔しそうな顔をしていたものの、その後に他の選手と話をしているときには、充実の表情を見せていたからだ。

“あ、SGを楽しんでいるんだな”

 それが感じられたので、その後に「SGはどうですか?」と聞いてみた。

 すると思ったとおり、「楽しいです!」と答えてくれた。

「予想していたよりレースに参加できるんで……。全部6等になるかもしれないくらいに思ってこっちに来ましたから」とも続けている。

 そうして“この戦い”にやり甲斐を感じているならば、結果もついてくるのに違いない。

 

 

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 レース前後に宇野弥生によく話しかけていたのは同県の原田幸哉だ。

 原田がいつでも、ピットのムードメーカーであるのはいうまでもない。宇野のこともSGに馴染せようとしていたのだろうが、幸哉節は、それだけではなく、さまざまなところで発揮されていた。

 たとえば、平本真之がしていたお洒落な花粉症対策メガネを借りて、自身で装着!

「ほらっ」というように同期の瓜生正義に見せに行ったが、瓜生は「……ああ」というように、頷いただけ。すぐに違う方向をむいてしまったのは残念だった。

 

 

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 その後、9Rで今井貴士が勝利すると、ピットに戻ってきた今井に対してかけた言葉が「今井、調子に乗るなよ!」というものだ。

 一見、怖い先輩の恫喝のようだが、もちろんそうではない。あとで今井に「調子に乗ってるんですか(笑)」と聞いてみると、「ハハハ。幸哉さんにいじられちゃいました」との回答。

 そうして、みんなをなごませつつも、きっちりと集中してレースに臨むのが原田という男だ。

 ……参考のために書いておくと、平本のメガネは最近CMでよく見る、流行りのアレかと思い、「アレですか?」と確認してみたが、そうではなかった。

「いえ、薬局で買ったやつです」とのこと。

 最近は、クスリ屋さんでも、こんなにお洒落な花粉症対策メガネが売られているわけである。

 

 

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 宇野が2着になった8Rは、節イチ級の2人、吉田弘文と山本寛久もいたためか、ピットにおける注目度も高かった。

 優勝戦などではよく、ピットで歓声があがるが、このレースも3周のあいだ、度々「ああ~!」といった声があがっていたのだ。

 結果は坪井康晴が1着で、吉田が5着、山本が6着となっている。

 予選1位通過も見えていたのだから、さすがに吉田も落胆が大きかったか。レース後には、悔しそうに顔をしかめていたし、しばらくあとには、浮かない顔で歩いているところも見かけた。

 それでも、JLCのピットリポーターからインタビューの申し込みを受けると、「名前は伏せてください」とギャグ(?)を言いながらそれを受けていたし、インタビューが終わって離れていく際には、「もう一丁、良くなると思います」とも話していた。

 その後、瓜生と話しているときには笑顔も見せていたし、しばらく経ったあとは、整備室の“朝と同じポジション”でプロペラにゲージを当てていた。

 予選1位通過はならなかったとはいえ、明日の準優勝戦でも楽しみな存在であるのは変わらない。

 

 

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 強風の影響も多少はあるのかもしれないが、今日は全体的にピットで作業をしている選手は少なかったといえる。

 記者しかいないな……と思うような時間帯もあったが、そんなときに目に入ったのが、待機ピットでひとり、回転数チェックをしている福田雅一の姿だった。

 まったく珍しくはない風景ではあるのだが、周りに他の選手がいなかったこともあり、“孤高の職人だなあ”という印象を受けたものだ。

 その職人が、待機ピットを離れて装着場を歩いていたとき、駆け寄ってきたのが山川美由紀だ。

 聞き違いでなければ、山川は「一便のバスで帰っていい?」と尋ねたはずだ。宿舎に選手を送り帰すバスは10R後と11R後、12R後の3度、出発する。それで、同県の福田が12Rを控えていたため、一応、そう聞いたのだと思われる。

 それに対して福田は「ぜんぜん、大丈夫!」と笑顔で回答。

 聞いた山川も、答えた福田も、なんだかとても、かわいらしい顔をしているように見えたものだ。

 これで山川は、安心して一便で帰れるのだろう……と思っていたら、なぜだが、一便には乗らず。

 気が変わったのか、乗り遅れたのか(僕の聞き違いの可能性もあるけど、たぶん聞き違いではないと思う)。どちらなのかは確認できなかったけれど、あんなことを聞いていながらピットに居残る山川さんは、やはりかわいい人だ。

 

 

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 そういえば、今垣光太郎は一便のバスで帰ったけれど(レースが終わったベテランは、若手に気を使わせないため、できるだけ残らないようにもするそうだ)、帰る間際には、上位選手の点数の動きを気にして、筆者に対しても質問してきた。

 自分は予選通過ができなかったわけだが、気になっていたのはおそらく、中島孝平が1位通過できるかどうか、ということだったのだろう。

 結果的に中島は予選5位となっているが(吉田が2位、調子に乗っていない今井は3位、ムードメーカー原田は6位)、そうやって仲間(後輩)のことを気にかけているあたりは、やっぱり光ちゃんらしいといえる。

(PHOTO/池上一摩、TEXT/内池)