BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――幸せな空間

 今日の後半は、なんかもう、エキシビションに尽きる、という感じだった。OBたちのレースが始まると、出場選手たちもみなニコニコしながらレースに注視し、「あんな進入ありか~(爆笑)」「おぉっ、行ったぁぁっ!」と大盛り上がり。レースが終わると、多くの選手がリフトで出迎えて、拍手喝采であった。

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「現役のときよりスタート行ってるやないですか!」

 今村豊がからかうと、巻き起こる爆笑。レジェンドたちが現役の頃、多くは後輩として、バチバチにやり合った面々。さまざまな思い出が、爆笑とともに湧き上がる……そんな光景は、見ているこちらをも幸福にさせるものだ。

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 ただ、出場選手にとって、これはあくまでコーヒーブレイク。レースにその雰囲気は引きずらない。前半レースに続いて外攻めが弾き飛ばされてしまった山室展弘が、さすがに浮かぬ顔でピットに引き上げてきて、そこには間違いなく闘魂とでも言うべき勝負師のメンタルが貼りついていたのであった。展開が不利だったという見方はもちろんあるが、それは山室自身を納得させるものにはなりえないだろう。

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 そんな山室に歩み寄り、嫣然と微笑む万谷章。なんともほのぼのとした顔つきで、山室の言葉に優しくうなずいていた。これ、癒されるだろうなあ。思い出すのは07年総理大臣杯。山室は常に万谷に寄り添い、行動をともにしていたものだった。山室にとって心から尊敬すべき先輩なのだろう。そして万谷にとっては山室はかわいい後輩。ともに同じ空気を共有することは、限りなく自然なことなのだろう。山室がヘルメットを脱いだ姿は確認できなかったけれども、味わわされた悔しさが少しは緩やかになっただろうか。

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 10Rでは、池上裕次がエンスト失格を喫している。前半1着の好発進、ここも2~3番手争いには持ち込んでおり、上々の初日となるはずだったが……。今回が名人戦デビューで、いわば新兵である池上は、加藤峻二をはじめとする先輩たちがボートやモーターの引き上げをしているところに、恐縮しながら駆けつけている。ボート界の不文律では当然の光景ではあるが、この舞台、この環境で新人が大きな顔をできるわけがない。モーターを整備室に運ぶのも先輩、池上はそれを後ろから走って追いかける……と、そのときの池上が、一瞬顔を歪めるのを僕は見た。そりゃ悔しいよなあ。上位着順を競っていて、突如ゴールする権利を奪われたのだから。SGで池上の姿を見かけていたのは数年前のこと、その頃よりなんだかスッキリ穏やかな雰囲気になったなあ、と昨日あたりは感じていたが、どっこい戦士の魂は生きている。爽やかなる闘志はいささかも衰えてはいないのだ。

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 池上を追って整備室を覗き込みにいくと、片隅で高塚清一、陶山秀徳がゲージ擦りをしていた。新プロペラ制度導入以降の法則といえば「早い段階でゲージ擦りをしている選手は、エンジン出てる」。機力劣勢ならまずはペラ調整や本体整備に取りかかるのが当然のこと。それをせずにゲージを擦っているのだから、余裕があるということだし、あるいは良機についているプロペラのゲージを作っておいて今後に活かそうということでもあろう。

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 高塚、陶山といえば、新プロペラ制度導入後に、成績を再浮上させて、この舞台に駒を進めてきた二人。新制度を味方にして、これまでの経験を水面に叩きつけている代表的な選手と言える。その二人が早くもゲージを作っているのが、実に象徴的と思えた。この動きに、新制度のヒントがあるかも!?

 あと、北川敏弘もゲージ擦り組でありました。

 

 さて、エキシビションについても記しておこう。9R発売中にはスタンド内特設ステージでトークショーが行なわれ、10R発売中にレース。12R発売中にはレース後インタビューが行なわれている。

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 9R発売中のトークショーでは「クビになって14年」(中道善博)「僕はスタート遅いですから」(野中和夫)などの100%ウソや、「インから行きます」(北原友次)「残念ながらインは取れそうもないですね」(長嶺豊)などの結果的ウソなどで、開会式以上の人出となったステージ周辺は大爆笑。モンスターは「2連単でも売ったらええのに」ともおっしゃっていて、僕の周囲半径3mくらいのファンはみんなうなずいてました。

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 レースは2周戦で行なわれ、並びは524/136。3号艇の中道が前付けでインに入り、長嶺が2コース。インを獲るかと思われた北原はなぜかもたついていて、そうこうしている間にインの中道が回り直し。長嶺がインを獲り切った。回り直したら普通6コースなのだが、なぜか鈴木弓子が外に出ていた、カドは植木通彦。

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 そこからが凄かったっすね~。逃げる長嶺に野中がまくりで襲いかかる! これ、第1回名人戦の優勝戦ですよ!(二人で大競りになった)その上を植木が二段まくり! これ、モンキーターンで先輩を次々と撃破していった艇王ですよ! その植木に乗って、狭いところを超絶まくり差しで中道が突き抜ける! 名腕・善さんですよ! そして、バックは中道-植木のワンツー態勢で、植木が猛追! くわぁぁぁぁっ、伝説の95年賞金王!

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 ボートレースの歴史がたった2周の間にこれでもかっと詰め込まれていたのだ。勝ったのは中道で、あの日のリベンジ! ピットに戻った中道さんは、満足そうに微笑んでおられました。

 そこに登場、加藤峻二。同期の盟友である北原に「お前、進入もヘタになったなっ!」。大笑いする北原さんと峻ちゃんのツーショット。あぁ、気絶しそう……。

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 12R発売中のトークショーでは、レースの真実がさまざま明かされました。「波があったのでハンドルを堅くしたら、一度切ったあとハンドルがうまく戻らなかった」が北原さんが進入で失敗した理由。「一世一代の失敗でした」と、引退後にまさかのビッグ・ミステイクをやってしまったのだった。

「進入ヘタや!」(野中)

「何を言うか!」(北原)

「名人戦に出場してあの進入だったら、即お帰りやで!」(野中)

「ほんと、ガックリきました……」(北原)

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 グランドスラマー同士の漫才を見られるのはここだけです! クラクラする……。

「野中がまくってくるとは思いませんでしたわ」(長嶺)

「みんな僕のまくりを見に来ているからね」(野中)

 モンスター、あなたはまだ現役バリバリじゃないっすか、お気持ちが!

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 で、中道さんは植木さんとのワンツーをこう回顧する。

「タダのときは勝たせてくれるんですけど、賞金王のようにお金が懸かると勝たせてくれない」

 ダハハハハ! これには艇王も苦笑いするしかありませんでしたね。

 もう、何もかもがハッピーなスーパー・エキシビション。目撃者になれた僕は、本当に幸せ者です。

 そして明日からは、レジェンドたちに刺激を受けた匠たちが、さらに激しいバトルを繰り広げてくれるだろう。この1週間、ハッピーに過ごせそうだなあ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)