BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――カポック脱ぎ場にて

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 7R、リビング・レジェンド対決が実現した。3年前の徳山名人戦でも実現していたが、加藤峻二が3年ぶりに名人戦に登場した今回、ふたたび今村豊との戦いがマッチメイクされたのだ。2号艇・加藤、3号艇・今村という枠番も3年前と同じだ。

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 徳山では、2コースまくりに出た加藤の上を二段まくりで攻めた今村が快勝したが、今回は……今村4着、加藤6着だった。ボートレースは2艇の勝負ではない。当然こういうことも起こる。

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 そういう成績だったからか、レース後は二人の接触はほとんどなかった。今村がカポック脱ぎ場にやって来たころには、加藤はすでに装備を粗方ほどいていたから、なおさら会話を交わすシーンにはならなかった。それでも、カポックを脱いでいる今村の左腕のあたりを加藤がポン。雲の上の人と称する憧れの先輩に戦いをねぎらわれたミスターは、直立不動になり「すみませんでした!」と頭を下げた。誰もが特別な存在と認め、ミスターと呼ばれる今村豊が、単なる若手選手となった瞬間。結果はともかく、やはり美しい戦いだったのだと、僕は強く強く思う。

 また見たいな~、加藤峻二vs今村豊。

 

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 何度か書いているが、カポック脱ぎ場が装着場の隅にあるからレース後の選手の表情がうかがいやすいのがびわこピットである。たとえば12R、快勝した西島義則がニコニコ顔でカポックを脱ぎ始めると、後輩である北川幸典と言葉を交わしている。西島のスタートはコンマ07、北川はコンマ06。二人とも、ちょっと早いかもという感覚はあったようである。

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「でも落とせんかったわ~。落としたらまくられると思ったから~」

 のぞいている北川が確実に外攻めに来るであろうということを、西島はちゃんと知っている。それだけに、ここで落として叩かれるわけにはいかない……と後輩を意識しながらスタートしたわけである。で、やっぱり北川は握って攻めた。西島が絶対に張って来ることは北川ももちろん知っている。それでもまくりを放ち、西島に勝負を挑んだ。わかり合っている二人の真っ向勝負。ガチンコ勝負。それをやり遂げた二人は、丸見えのカポック脱ぎ場で爽快に笑い合うのだ。

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 11Rでは、瀬尾達也が大技を決めた。6コースまくり! コンマ07のトップスタートを決めたのもさすがなら、迷わず外を攻めたのも韋駄天・瀬尾らしかった。豪快!

 ただ、激勝のあとでも瀬尾の表情は大きくは変わらない。笑みを浮かべて淡々とし、決して喜びを激しく表現するようなタイプではないのだ。モニターでリプレイを見ながらも淡々。静かに静かに喜びを湧き上がらせているのだろう。マンシュウぶち当てては大騒ぎしている畠山とか黒須田にはとうていたどり着けない境地だな。

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 一方、同じレースで6着に敗れた岡孝も、静かにカポックを脱いでいた。微笑も浮かんでいる。今村豊が例によって大はしゃぎで感想戦をしていて、それを眺めながら穏やかにほほえんでいるわけだが、これが、なんと言うのか、実に悔しそうな微笑だったのだ。場の空気は、今村の存在により華やいでいる。だが、岡としてはそこに染まることはできない。大敗が悔しいからだ。とはいえ、その場でそれをあらわにはしたくない。今村らが笑っているからなおさらだ。だから、悔しさを押し隠して笑みを浮かべる。でも心から笑えない。頬がひきつる。そんな表情で岡は、会話に加わることなく装備をほどいていたのだ。勝負師・岡孝、あらためて惚れました。

 

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 さて、日ごろ取材し慣れていて、選手もお馴染みの方が多いSGでは、誰かと誰かが話し込んでいると、その関係性がすぐに思い浮かぶのだが、年に一度の名人戦ではなかなかそうはいかない。12R発売中、選手の姿をほとんど見かけない装着場で、佐藤幸子と落合敬一がずいぶん長く話し込んでいた。身振り手振りもあることから、よくある機力の手応えを確認し合う会話だったと思うが、それにしても話が長い。途中、僕は喫煙所で一服しているのだが、煙草の火を消して装着場に戻っても、まだ二人は会話の最中だった。その後も10分くらいは話を続けていたか。

 ふと登番を見たら、近いじゃないっすか、この二人。そう、54期の同期生なのである。落合と佐藤が同期って、ぜんぜん意識になかった。佐藤はすでに名人戦に登場経験があるが、落合はこれがデビュー戦。けっこう久しぶりの再会、だったかも。ましてGⅠの舞台というのは、これまでにあったかどうか。心やすい同期生だからこそ、できる話もある。30年の時を超えて、ベテランとなった二人だからこそ、通じる会話もきっとある。

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 で、そのあと、佐藤と江口晃生が話し込んでいて、江口はなぜか大爆笑していた。ん? もしかして……。そうです。江口と落合は同期生。ということは、江口と佐藤も同期生であります。江口と金子良昭、島川光男が同期とは認識していたが、これまた意外な“同じ釜の飯”なのでありました。というか、今節、54期って一大勢力なんですね。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=敬礼、西島、佐藤&落合 TEXT/黒須田)