BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝負駆け……

 終盤のピットは、実に閑散としていた。レースを終えた選手も、手早くモーターを格納しては控室へ。選手の姿をほとんど見かけないという時間帯も長く、手持ち無沙汰な報道陣が冷たい風に吹かれて震えている姿が目立ったりもしていた(僕のことだ)。

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 プロペラ調整室も人影は少なく、高塚清一、井川正人ががらんとした室内で懸命にプロペラ調整をしている程度だった。二人とも予選突破はならず、しかし明日からの戦いを投げ出していない。高塚は新プロペラ制度以降に好調ぶりを発揮してきたわけだが、こうした飽くなき調整の積み重ねがもたらしたものだったのだろうか。

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 井川は内心忸怩たるものがあるはずである。序盤連勝で連覇を意識できるポジションにいながら、まさかの勝負駆け失敗。足色にその理由があるとするなら、予選落ちが決まったからといって調整をやめるわけにはいかない。むしろ、その原因を探らずにはいられないだろう。

 昨日までとは一転、季節が逆に進んだかのような冷気のなか、最後まで調整を続けた二人。明日も応援せずにはいられない!

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 12R、今村暢孝がカドまくりを決めた。外からのまくりは流れる、というのが今日のパターン。それを、強い追い風にも負けず、うねる荒れ水面にも負けず、華麗にまくり切ったのだから、少しは賞典除外の鬱憤が晴れたものと思いたい。

 とはいえ、レース後の今村の表情はほとんど崩れず、凛々しいままだった! 江口晃生に笑いかけられると少し頬が緩んだが、それ以外は仕事人の雰囲気を漂わせ続けていた。シブい! 怒りの一発、明日もまだまだありそうだぞ!

 

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 レース後の装着場では、あちらこちらで報道陣に囲まれる準優組の姿が見られた。11R前にはモニターの下に人だかりができているので、何か興味深い映像が流れているかと思ったが、その輪の中心には富山弘幸がいたのだった。まあ、そりゃそうだわな。

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 レース直後は、整備室内にも人の輪ができる。モーター格納作業をしながらの談話、という光景だ。11Rを4着で切り抜けて、なんとか予選突破にこぎつけた日高逸子にも報道陣が集まる。日高は作業しながら、快活に質問にこたえる。1着の可能性もある展開ながら着外に敗れただけに、レース直後にはどちらかといえば悔しさのほうが大きいと思われるが、それでも笑みを絶やさないあたりがグレートマザー。報道陣が離れると、高橋淳美が歩み寄って“ガールズトーク”が始まった。準優では紅一点の日高だが、声援を送ってくれる仲間はそばにいる。

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 倉谷和信は、先頭を走りながらのまさかの3着後退に、顔色は冴えない。リプレイを見ながらも、何度か首をかしげるような仕草をしており、これは痛恨の一戦だろう。そのとき倉谷が知っていたとは思わないが、もし1着ならば準優は1号艇だった。その意味でも痛恨の4点ロスだったのだ。

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 とはいえ、12R後には柔らかな表情を見せている。その12Rは「予選1位決定戦」の様相を呈しており、それを制した先輩・古場輝義を称えるように笑いかけているのだ。得点状況をそれぞれがどこまで把握していたかはわからない。だが、古場と江口晃生、先着したほうが予選トップ、くらいは理解していた可能性がある。倉谷がからかうように声をかけると、古場も照れ笑い。名人の座をぐっと引き寄せる価値ある2着だったのだから、古場も充実感があっただろうし、倉谷も祝福の気持ちがあっただろう。

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 で、江口は終始、微笑をたたえていた。少なくとも、ヘルメットを脱いでからの江口はただただ優しげな笑みを見せていたのだ。勝った今村にも、その表情で祝福。ともに戦った他の仲間にも同様だ。江口の柔らかい表情はまあお馴染みといえばお馴染みなのだが……。

 長嶺豊さんが言っていた。現役時代、A1級勝負駆けとなった長嶺さんに、毎日得点状況やボーダーラインを計算して教えてくれたのが江口だというのだ。その計算力に、長嶺さんは舌を巻いたという(そのおかげで勝負駆けに成功したとか)。

 だとするならば、古場に先着を許したことの意味をわかっていたとしか思えないではないか。悔しい時ほど笑みを見せる。群馬の後輩にそういう人がいることをふと思い出した。(PHOTO/中尾茂幸=日高、倉谷、古場 池上一摩 TEXT/黒須田)