BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――勝負師たちよ!

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 一度はつかんだはずの勝利(優出)が手からこぼれ落ちてしまった……これは敗戦のなかでもかなり大きな悔恨の部類に入るものだろう。たとえば、西島義則。あるいは倉谷和信。西島はピット離れでインを奪った時点で作戦成功のはずだし、差されたものの2番手を走っている。

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倉谷は内がスタートで後手を踏み、1マークでは主導権を握れるポジションにいた。それが、西島は逆転され、倉谷はズブズブと差されて、優出の権利を手放さねばならなかった。レース後、眉間にしわが寄り、口元を歪め、首をひねるのは当然というもの。直視するのが、ちょっとツラい。

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 一方、1マークではすでに勝ち筋を失うかのような展開になっての敗戦は、意外とサバサバできるものだろうか。古場輝義が、もちろん苦笑がおおいに含まれてはいるわけだが、笑みを浮かべているのには、少しだけ驚いた。スタートで後手を踏んでしまい、その時点で土俵際に押し込まれたも同然。後手を踏んだこと自体が悔しいに決まっているが、それは「やっちまった」の思いとともに笑いに変換されるのだろう。大きな失敗をやっちまったとき、人はつい笑ってしまうものである。

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 ただし、それが自分でも信じられないような失敗だった場合は、呆然とするしかないだろう。瀬尾達也がまさかのコンマ35。現役時代は古場と同グループで、いまも兄弟分の付き合いだという立山一馬さんが、思わず「うわっ」と小さく悲鳴をあげた瀬尾のスタートには、誰だって驚かされた。「おーい、なんで遅れたん~?」と新良一規も不思議そうに声をかけていたし、亀本勇樹はスリット写真を見ながら「デジタルスターターが……」と不思議がった(「アナログになったか」とギャグも飛ばしていた・笑)。瀬尾自身、不本意であり、謎であり。瀬尾としては、ただただ首をひねるしかないのである。

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 あと、金子良昭が吐き捨てるように、「ダ~メだっ!」と呟いたのも付け加えておこう。日高逸子の優出会見によると、「金子さんと合わせたら私のほうが強めだった」。機力的に、金子は決して万全ではなかったのだろう。それでも、勝負を投げることなく戦いに臨んだわけだが、思いは報われなかった。そこで、金子はまるで自分を責めるかのように、その言葉を言い放ったのである。己に厳しい人だと思う。

 

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 その日高のレースぶりには、ピットで「おぉぉっ!」と歓声があがっていた。西島の顔をゆがませた、10R2周1マークの逆転である。西島を思いやってか、決してはしゃいだ素振りは見せなかった日高だが、ヘルメットを脱ぐとさすがに嬉しそうに笑っていた。また、出迎えた占部彰二や他の女子勢がなんとも嬉しそうで、あの西島を破っての優出という殊勲が仲間を上気させていた。

 2周1マークも会心だっただろうが、2周2マークも渾身の走りだったと思う。西島の乾坤一擲の切り返しを交わしたのだ。「西島さんがやめてくれたから」と日高はあくまで謙虚だが、そうではあるまい。「絶対に切り返しに来ると思っていた」と予測しつつ、一歩も引かずに握って回って、西島を振り切ったのだ。やはりこの人はいつまでもグレートマザー。それは偉大なる女勝負師という意味もあわせもっている。

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 それにしても、落合敬一の折り目正しさにはちょっと驚いた。今節も随所に見せていたのかもしれないが、僕は不覚にも見逃してきたのだろう。レース後、戦った相手に礼をする。エンジン吊り、ボート洗浄(最終日前日=ビッグレースなら5日目に洗剤をつけて磨き上げるのが、どの場でもおなじみの光景です)を手伝ってくれた仲間に礼をする。レーサーたちの掟とでも言うべき礼儀である。落合はその礼を、深く深く腰を折って、頭が膝につくのではないかというくらいに丁寧にするのである。先輩に対しても、後輩に対しても。会見でも、その快活で丁重な受け答えで、「井川(正人)さんに続いて、長崎に優勝カップを持って帰りたいです」と力強く宣言するあたりがまた気持ちよすぎである。

 4カドからツケマイ放った若々しいレースぶりも含めて、応援したくなったなあ。明日勝てば水神祭! ずぶ濡れの落合敬一、見てみたいなあ。

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 勝てばGⅠ初優勝は、長谷川巌、二橋学も同様である。長谷川は「記念優勝戦に乗れて、いい思い出になります」(優出経験あり)、二橋は「意気込み!? いや~、意気込みというか、もうちょっとペラ仕上げてみんなと同じくらいにしないと……」(GⅠ初優出です!)と二人ともなんだか謙虚すぎるわけだが、しかし明日はもちろん大魚を狙うに決まってる。

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なにしろ、長谷川にせよ、二橋にせよ、仲間がまた優出をたたえており(二橋に笑いかける高塚清一の笑顔も最高でした)、そうした周囲の思いも力に変えての戦いになるはずである。特に長谷川は「優勝戦でも足負けはない」と断言しているだけに、台風の目になるかもしれないぞ。

 

 さて、明日の主役候補はなんといっても、この二人である。

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 まずは1号艇の江口晃生。一節を通して、なんともリラックスした様子で、笑顔が目立っていたのだが、「思ったより力が入りますね(笑)。珍しく緊張もしますし」とのこと。そんなふうには見えなかったけどなあ。

 ただ、たしかにその強者の姿勢にはちょっと圧倒された。今朝、江口はペラを思い切って叩き変えたのだという。行き足とグリップが良かったものを、グリップに特化させたというのだ。もちろん悩んだ。そう、「行き足とグリップが良かった」のに、それでも充分戦えるだろうとも思っていたのに、あえて直観にしたがったのだ。その決断力には感服するしかないでしょ。それで勝ち切ってみせて、「伸びられるわけじゃないかったので、これでいいのかな」とのことだが、僕にはその決断力が勝利を引き寄せたとしか思えないのだ。

 さらに江口は痺れることを言ってくれている。

「今までの名人戦と同じくらい、面白いと言ってもらえるレースをしたい」

「進入でも牽制をしっかりして、たとえ枠なりになったとしても、駆け引きを見せたいですね」

 これこそ真のファン目線である。さらに

「ボート界は西高東低と言われているので、東高となるよう、優勝旗を持って帰りたいですね」

 なんて盛り上げてくれる。すべての意味で、名人という称号にふさわしいとしか言いようがないのだ。

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 もうひとり、やっぱり来たか、今村豊。本人いわく「しょうもないスタート」で、外から山﨑昭生に伸びられて、バックでは二橋学に差し切られながら、2周1マークで追いついて1着。まあ、1マーク回って優出をほぼ確実なものにしていたわけだが、結果1着ゴールというわけだから、ともかく異次元の存在である。

 会見はもちろんミスターワールド。

「明日の調整? 本体はやりません。もう、明日は休むことしか考えてないです(ニヤリ)」

「えっ、3号艇!? あ、そうか、2着じゃないんだ(笑)」

「会見にしては人が少ない!」

「まあ、今日は誰もがスタートでハナ切っていくと思ってたんじゃないですか……僕と瀬尾選手が(ニヤリ)」

「進入は年功序列じゃないですか?」

 芸人ばりに笑わせることしか考えていないかのような、ギャグの連発である。(ニヤリ)として満足そうにしているミスターを見られるのは、幸せとしか言いようがありません。

 もちろん、ちゃんとしたことも話していて、足色は今日が一番良かったそうである。そう、きっちり仕上げてきているのだ。明日の夕方も、ミスターの会見で大笑いしている自分が想像できちゃうんですけど……。(PHOTO/中尾茂幸=江口、今村 池上一摩 TEXT/黒須田)