BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――王者vs若武者

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 やまと軍団は、本当にみな仲良しだ。レースになればバチバチにぶつかり合う若武者たちが、ピットでは盟友意識を発散しながら輪を作る。言っておくが、これは決して馴れ合いではない。陸の上での信頼関係が、水の上での遠慮なきガチンコを生み出しているのだ。

 岡崎恭裕、篠崎元志、峰竜太の九州イケメン三銃士に篠崎仁志、前田将太がともに行動するのは地区的、世代的にも当然。そこに新田雄史が加わっているのは、元志と同期ということも強く関係しているか。さらに茅原悠紀も参加して、一大やまと勢力をピットに作り上げる。ここ何年かの新鋭王座で主力を張ってきた面々が、SGの舞台にずらりとそろっているわけだ。なかなかに感慨深い。

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 ただし、この巨大なグループを目にするのは、ほとんど終盤の時間帯である。10R終了後に出発する帰宿バスの第1便。これに乗るのはおおむね“先輩たち”であって、若き戦士である彼らは最後まで居残って新兵仕事などもこなすというのが、当たり前の光景である。選手の姿がピットに少なくなる時間帯、自然と心安い若者たちが集い合うというわけで、ペラ調整所を中心に彼らの集会は長く続くこととなる。

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 もっとも、今日などはそこに篠崎元志の姿はなかった。12R出走だから当然でもある。やまと軍団がペラ談義などに花を咲かせているそのとき、出走待機室の前では元志が地べたに座って入念なストレッチを行なっていた。水の上での戦いは、常に孤独。元志はたった一人、盟友たちには目もくれずに、身体をほぐすのであった。

 元志は12R1着! 井口佳典の差しは強烈で、バックでは舳先がかかっていたが、これを振り切っての1着。レース後の元志の表情には疲労感がへばりついており、いかにバックでの井口との戦いが激戦であったかを物語っていた。それを岡崎に前田、そして弟の仁志がねぎらっていて、強い絆を立ち上らせていた。

 

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 仲がいいのはやまと軍団だけじゃないぞ。ベテラン勢だって、水の上では信頼関係を結びあっている。11Rの展示を終え、出走待機室に戻ってきた松井繁に、10Rを終えた江口晃生が声をかけた。待機室前に設けられている休憩所のモニターが、10Rのリプレイを映し出していたのだ。松井とともに、自身の走りに見入る江口。松井は白いカポックを着たまま、リプレイを見ながら江口と会話を交わす。名人にアドバイスを送る王者の姿? 王者に意見を求めた名人の姿? いずれにしても、そこにはただならぬオーラが柔らかく漂っていたのは確かだった。江口も松井ももちろん笑顔。そして、それをかたわらで聞いていた山崎智也も、穏やかな顔をしていた。こうしたやり取りも、水の上で出会った時のガチンコ勝負につながっていくのだろう。

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 その松井は、11Rを逃げて快勝。松井にしてみれば、いつものイン戦かもしれないが、戦況的には大きな意味をもつ1勝だった。桐生順平の連敗が止まったのだ。王者に果敢なツケマイを仕掛け、バック流れながらも2マーク全速で2番手浮上した桐生も圧倒的に素晴らしいが、若者の活きのいい攻撃を堂々と受け止め、がっちりしりぞけて格の違いを見せつけた王者も素晴らしすぎる。勢いだけでは俺に勝てへんよ。松井の航跡からは、そんな言葉が聞こえてくるような錯覚に陥った。

 松井を出迎えたのは、鎌田義に湯川浩司。鎌田と湯川が笑顔を浮かべると、松井は「どんなもんじゃい」とばかり目を見開き、小さくガッツポーズを作った。3回4回と拳を握り直す仕草は、どこかおどけて見えたものだが、やはり「桐生の勢いを止めてやったぜ」的な感慨はあったのだろう。こんなふるまいが絵になる人は、そうそういない。あるいは王者にだけ許された、誇り高き仕草だろう。で、ひとしきり鎌田と湯川と勝利の喜びを分かち合うと、すぐに表情が引き締まったりするあたりも、さすがとしか言いようがない。

 若武者大活躍の今節。立ちはだかるのは、やっぱりこの男ということだろう。王者vs若武者。ボートレースの未来を明るくするに違いない至高の戦いが、この笹川賞の大きなテーマになるのかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=元志&新田&岡崎 黒須田=江口&松井 TEXT/黒須田)