予選最終日だから、勝負駆けの選手はモチベーションが高いし、好枠を目指す面々も緊張感高まるのは当然だが、そうでない選手たちだって、そこに戦いがある限り、渾身を尽くしている。1R終了後、田中信一郎が速攻でペラを外して、調整所へ向かった。後半は7Rで時間がそれほど残されていないこともあるのだろうが、その動きの素早さはとても大敗後の選手には見えない。わずかな時間のなかで少しでも機力を上向かせようということなのだろうが、厳しい条件の勝負駆けを控えている選手の動きのように見えたのだ。後半1着でも、ここまでの成績を考えれば、予選突破は絶望的である。だが、それが次なる戦いへの闘志を萎えさせるものにはなりえない。そうとしか思えない動きには、強者の信念が透けて見えるような気がした。
1R後には、鎌田義と松井繁が“反省会”を行なっている。今節、レース後に鎌田は師匠・松井に歩み寄って、レースへの意見を求めることを恒例としている。いや、今節だけではないだろうが、ここまで大敗が続いていただけに、鎌田が深刻な表情で松井の言葉に耳を傾ける様子は印象に残っていた。2着となった1R後も、それが行なわれていたわけだ。1着だったわけではないから、完全に気持ちが晴れるようなことはないかもしれない。だが、昨日などに比べて、少し表情が柔らかく見えたのもたしかだった。このままでは終われない。そんな思いを胸に、明日もまた鎌田は松井のもとに向かうだろう。松井ももちろん、必死に頑張る後輩をないがしろになどしない。
もちろん、勝負駆けの選手はピリピリした雰囲気を漂わせていたり、レース後には感情の起伏をあらわにしていたりする。予選突破できるかどうかの正念場なのだから、1つの着順の違いが気持ちを重くも軽くもするだろう。
2Rでは、2番手争いを鎌倉涼と湯川浩司が演じていた。大阪支部の先輩と後輩。それを差し引いても、二人はともに3着2本ノルマであり、ここで2着を獲っておくことは2走目のレースを楽にする。湯川には、実績上位の意地もあっただろうか。後輩のSG初出場を後押ししたい気持ちはあっても、水面に出れば話は別。ある意味、どうしたって負けられない相手の一人がかわいい後輩であろう。
湯川の攻撃をなんとかしのいだ鎌倉は、レース後はホッとした表情で、また重苦しい雰囲気はもちろんなかった。一方の湯川は、表情がカタかった。3着という結果に対しても、後輩を競り落とせなかったことに対しても、悔しさがつのって当然だろう。後半レースを終えた後に、二人はともに笑えているだろうか。とりわけ、湯川の渾身のレースには注目したい。ちなみに、ですが、エンジン吊りでは鎌倉に松井、田中ら大阪の先輩格が、湯川に丸岡正典、石野貴之の若手格が参戦していました。先輩を競り落として大先輩に出迎えられるのは、どんな気持ちだっただろうか、涼ちゃん。
さて、今日気になる選手はやはり桐生順平である。2走3着2本なら、予選トップ確定である。ただし、枠番は5と6。快進撃を見せた若武者の予選ラストは、ひとつの正念場となっている。ここを舟券絡みでクリアすれば、SG制覇もぐっと近づく。
そうした状況をどこまで知っているのか。ここでいつも書いていることだが、選手は細かい得点状況を把握していないことのほうが断然多い。だが、今日しっかり着を取っておけば、予選トップ通過の可能性が高いことくらいは意識しているだろう。それでも桐生の表情は昨日までとは変わっていないように見えて、雰囲気は悪くないと思う。ちょっと声をかけてみようと思って背中を追ってみたが、桐生は整備室奥のペラ室に直行。平石和男の隣でプロペラを叩き始めていた。結果がどう出ようと、いつも通りに準備をして、レースに臨む。それをこの舞台、この状況で自然にできているのだとすれば、この男、やっぱり大物だ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)