BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――異変

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 さすがに痛々しかった。

 8R、1号艇1コースの吉田俊彦がまさかの出遅れ。起こす直前にエンストし、慌てて再始動を試みたものの、エンジンが動いた時にはすでに遅し。5艇ははるか先を走っており、規定の1秒以内にはスタートできなかった。これが、選手責任の出遅れとなった。もちろん賞典除外である。

 本人いわく「リトライ」が、こんな形で終わろうとは吉田自身も想像はしていなかっただろう。まして、初日である。誰もが欲しがった20号機を手にし、初日1走目は2着と好発進、1号艇の8Rでさらに勢いをつけるはずだったのに……。ピットで見た吉田の表情は、やはり冴えないものだった。

 吉田はその後はペラ室にこもっている。もはや優勝を望めない立場とはいえ、残り5日間を投げ出すわけにはいかない。たとえ落胆があろうとも、作業の手を休めるわけにはいかない……まあ、そういうことだったのだろうし、僕はそう思おうとした。だが、吉田が力いっぱい木槌を振り下ろしている姿を見て、どうしてもまた別の想像が浮かんできてしまうのだった。この一打一打が怒りの表現ではないのか、と。もちろん、やけくそで叩いているわけなどないし、パワーアップをはかっての作業だったのは間違いない。それでも、あんな出来事の後だけに、どうしたって傷んでいるはずの胸の内を思ってしまうのだ。

 明日からも頑張れ、トシ。評判機なんだし、逆にこれからのトシは狙い目だと思う。外枠ばかりになるのだろうが、僕は明日からもしっかり舟券を買って、ひそかに声援を送らせてもらおう。

 

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 池田浩二も赤岩善生も地元SGに特別な思いで臨んでいるが、原田幸哉だって思いの大きさは負けていない。棲家は沖縄にあっても、蒲郡や常滑にだって心は置いている。

 初日は2着2本とまずまずのスタートだったが、幸哉はレース後に本体整備をしていた。今日は1号艇と2号艇で、1着2本だって狙えたはずなのだから、幸哉にしてみれば4点を失ってしまった感覚だったのだろうか。彼が本体を整備しているのもあまり記憶になく、そこに何らかの深い意味を見出さずにはいられなかった。

 新プロペラ制度が始まってからの幸哉は、ペラと向き合う時間が非常に長いが、その前の数年はいわゆるノーハンマーが幸哉の理念だった。ペラを叩かずにレースに臨むのだ。ペラに頼るレースを理想とはせず、レーサーは己の技術で戦うのが本分だと信じていたわけだ。そうした独自の信念をもつ幸哉が、後輩の赤岩が乗り移ったかのように本体と向き合っていた。明らかに、幸哉の思いの大きさをあらわす動きだったと思う。

 なかなか順風満帆にいかない最近の幸哉だが、それだけに09年チャレンジカップを制している地元常滑で何かを掴んで沖縄に戻りたいはず。明日は11R1回乗りなので、それまでの長い時間をどう過ごすかも注目してみたい。

 

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 今節も元気いっぱい、今村豊。52歳のオジサンになった? いやいや、ピットでの様子は相変わらず若々しい。報道陣にちょっかい出して笑いを取っている様子なんて、むしろやんちゃである。

 だが、そんなミスターでもレースに敗れれば厳しい表情を見せる。11R、1号艇をモノにできかなかった今村は、かなり苛立った様子でピットに戻ってきている。インからスタートで2コースにのぞかれて、まくられて、というレースは、全速スタートを信条とする今村にとっては屈辱でしかない。それでレース後ににこやかでいられるような今村豊ではないのだ。ピリピリしたミスターも、負けた後で失礼な話ではあるが、魅力的ではあった。といっても、着替えを終えたあとには、後輩たちに「スタートの時点で勝負が終わっとったわ~」とニコやかにおどけていましたけどね。

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 一方で、今村をまくり切った赤岩善生の表情はやはり明るかった。いったんは森高一真に先行されており、決まり手は抜きだが、今村をジカまくりで沈めてレースを作ったのはまぎれもなく赤岩。そのうえ道中逆転で初戦1着なのだから、気分が悪かろうはずがない。

 赤岩は「勝ったときにはしゃぐのは、一緒に戦った人に失礼」という信念をもっているので、ピットに戻っても笑顔を弾かせるわけでもなければ、仲間とハイタッチをするわけでもない。淡々とエンジン吊りをするのみだ。だが、ヘルメットの奥には間違いなく充実した表情があった。出迎えた原田幸哉の控え目な笑みに赤岩はそんな顔つきで応えていたのだった。こんな赤岩、久々に見たぞ。近況の悪い流れを変えるのは、本当に地元のプールということになるのかもしれない。

 

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 さて、10Rで敗れた山崎智也にちょっとした異変があった。智也も今村と同じく1号艇で、やはりスタートでのぞかれて盟友の川北浩貴にジカまくりを浴びている(勝ったのは山田哲也)。今村は5着だったが、智也はシンガリの6着。今村同様に、ひたすら悔しいレース後だったのは間違いない。

 多くの選手は、レースを終え、ピットに戻ってもヘルメットをかぶったままである。エンジン吊りもヘルメット着用でこなし、そのまま控室に戻ってようやくヘルメットを脱ぐ、という選手だって少なくない。だから、選手のレース後の表情というのはヘルメット越しに垣間見ることしかできない場合が多く、ヘルメットのシードルがサングラスのような反射素材になっている森高一真のようなタイプの場合は、まーったく顔色がわからないことだってあるのである。11R後、いったん先頭に立ちながらも逆転された森高の表情はひとつも見えなかったのでありました(ちょっと足取りがおかしかった、というのはありました)。

 智也はまったくの希少種で、ボートリフトのはるか手前でヘルメットを脱いでしまう(もちろんボートはデッドスローになってるので、安全性の問題はありません)。だから、レースを終えた直後の表情がわかりやすく、だから智也の帰還にはつい目が向いてしまったりもするわけである。昨年のグラチャンでは、リフトにいた奏恵ちゃんに投げキスしてたぞ。そういうシーンも、ヘルメットを早々に外す智也ならではである。

 そんな智也が、今日はヘルメットをかぶったまま、リフトまで戻ってきた。脱がなかったのである。リフトに乗って、上昇を始めた頃にようやく脱いだわけだが、これ、智也基準では遅すぎるタイミング。小さなことではありますが、思い切り気になったという次第である。だからもちろん、リフトに乗る前までの表情はうかがい知れなかった。どんな顔つきだったのかはわからない。だけど、いつも脱ぐ人が脱がなかったってことは……と想像がたくましくなるってものであります。ほんと、悔しかったんだろうなあ……。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)