猛暑の若松。「暑いですね~」はもはや挨拶の言葉であり、ピットでもその言葉は空中を飛び交っている。
といっても、それを口にしているのは選手以外の人間ばかり。選手はそんなこと言ってる場合ではないのであって、暑さなど感じていないかのように、慌ただしく動いている。しかも、選手はみーんな長袖ですからね。乗艇するとき、肌を出しているわけにはいかない。前検日は作業→試運転→スタート練習などが短時間で一気に行なわれるから、ジャンパーやらの上着を身につけて作業しているのだ。もちろん汗だく。しかし、それを厭うことなく選手は走る。真夏のレースは、想像以上に苛酷なのである。ま、減量も兼ねられているのかもしれませんが。
整備室やペラ室は、空調が利いている。そこで長い時間を過ごす選手も多いから、そのときはまあ快適なのかもしれない。ただ、そこでの作業は神経を使う。パワーアップのために集中力をフル動員し、相棒が思うように動いてくれない場合はストレスも感じながらの作業になるだろう。いずれにしても、苛酷は苛酷。選手の皆様、しっかり水分とりつつ、全力ファイトを願います。
で、スタート練習&タイム測定が始まる前の試運転タイム、ペラ室を覗き込むと、早くもペラを激しく叩いている選手たちがいる。前検はもらったままで走って、本格的な調整はその後、という選手も多いが、いきなり自分のスタイルに叩き変えて前検も走るという選手も少なくはないのだ。菊地孝平、鎌田義、森高一真などの姿があって、この3人はすでにボートを着水し、係留所につけたあとに、ペラ室に駆け込んでいた。すぐに試運転に出られるように、ということなのだろう。菊地が何度かペラ室と係留所を往復する姿も見かけている。
一方、井口佳典はボートを着水する前に、ペラを叩いている。それもけっこう強力に叩いていて、いち早く自分の形状にマイナーチェンジしようという意図が明らかだった。で、これがどうなったかというと、「みんなが回転上がってない中、僕は回転が上がっていた」とのこと。今日は回転不足というコメントが少なからず聞こえてきたのだが、井口だけは正反対だったわけだ。「だから、今日の時点では僕が分がいいということはあるかも」とのこと。これが井口のスタイルであり、戦闘の準備はここから始まるのだ。
かと思うと、太田和美はまたもやペラを叩かずに前検日に臨んでいる。グラチャンでは試運転1周目に好感触を得て、シリーズを通してノーハンマーを決意した太田。自分のペラのスタイルとは違っていても、噴いているなら自分自身を合わせていこうという戦略だ。テクニックに秀でた太田ならではである。
今日は「普通」「石渡くんとあまり変わらなかった」「乗りにくさはない」「重いのでスタート行かないと出られるかも」と、景気のいいコメントが並んだわけではなかったが、ペラに関しては「自分のスタイルとあまりにも離れていて、逆に叩けないということもあるんですよ」とのこと。
こうなると、明日からの太田の動きがおおいに気になる! ゆったりと過ごすのか、右に左に駆けまわるのか。そして結果は!? SG2連覇があるか、ももちろんおおいに気になっております! 最近2連覇出てないから、そろそろ見たいな~。
さて、前検が終了し、あとはそれぞれの調整作業のみ、という時間帯に、田口節子が吉田弘文に声をかけている。現住所はともに岡山とありますが、支部は違います。でも、岡山県民のよしみで話しかけた?
実は、田口が引いた58号機は、吉田が5月の周年で引いたモーターである。田口としては吉田がどんな調整をしたか、どんな手応えだったかが気になるところだろう。吉田としても、話せることなら何でも話すという姿勢で、田口の質問に応えていた。なにしろ、吉田は周年優出! そう、58号機は評判機のひとつなのだ。周年は現場に来てましたけど、出てたもんな~、吉田。ただ、その優勝戦で吉田は転覆(妨害失格)。そのことで多少様相が変わってしまっているようだ。「ごめんね~、あまり役に立たない話で」と恐縮する吉田。先輩に気を遣わせて恐縮返しの田口。
いろいろな意見があるかもしれないが、陸の上で情報を隠したりせずに交換し合うことは、水の上でのガチンコ勝負をおおいに彩っていると僕は思う。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)