若松の空が黒さを増してきてもなお、ボートを係留所につけたままのグレートマザーとパワークイーン。昨年の当地女子王座ワンツーコンビ=山川美由紀と日高逸子は、試運転と調整作業をなかなかやめようとしなかった。ここまで不本意な成績となってしまっている二人にとって、パワーアップは必須。そのための手立てを最後まで尽くそうとしていたわけだ。
夜になって、風はだいぶ心地よくなってきてはいたが、気温が高いことに変わりはない。パワーに自信があるなら、冷房の利いた場所で体を休めたいところだろうに、山川も日高も必死に走る。いや、必死は必死なのだろうが、会話を交わす二人の声はやけに明るくて、この状況を楽しんですらいるように見える。このような修羅場は、もちろん猛暑の中のレースや試運転も、何度も経験している二人。妙にふさぎ込むようなこともなく、前向きに、しかしやはり必死に戦っている次第だ。
その女子王座で1号艇ながら3着に敗れ、悔し涙にくれた平山智加は、対照的に調整作業を特にはしていなかった。レースぶりを見ても気配は悪くないし、成績も上々。余裕で過ごせる状況にはある。
ただ、だからといって休もうとしないのが平山智加。いわゆる新兵作業を先頭切ってこなしているのだ。登番でいえば、下に西村拓也、茅原悠紀、前田将太と3人いて、何も平山が率先して架台運びや試運転組のエンジン吊りを行なう必要はない。だが、レースを控えていたり、調整に忙しい後輩がいるのであれば、余裕のある自分が張り切って動こう。そう考えてでもいるかのように、平山は忙しそうに動き回っていた。他の選手が試運転している間など、「これでボートを陸に上げるかも」と予測してか、リフトのそばから動こうとしないほどだ。レースでももちろんだが、陸の作業においてでさえ、この人は心をこめて過ごしているのだ。
日高と山川がいったん手を止めて、話し込み始めると、そこに昨年女子王座で4着に敗れて3連覇を逃し、号泣していた田口節子があらわれている。田口は特に何をするでもなく二人に寄り添っていたわけだが、おそらく「手伝えることがあるなら」の気持ちだっただろう。実はその直前まで田口は本体整備を行なっており、自身もパワーアップに懸命。そんななかでも先輩に目配りできるあたりはさすがである。
てなわけで、やけにナデシコたちが目についた2日目の夕刻。昨年の女子王座1~4着が揃っているのだと改めて気づいて、あの若松の夜のことをまざまざと思い出したりしたのだった。明日の健闘に期待!
田口が本体整備をしていたように、今日は遅くまで整備室に選手の姿が途切れなく見られた。高沖健太も本体整備をしており、奇しくも銀河系軍団が隣同士で相棒と向き合う光景も。8人も参戦している85期生は、井口佳典が予選5位につけてはいるものの、田村隆信が不良航法をとられたりもしていて、やや差のある予選前半の戦いぶりとなっている。高沖も田口も、明日は追撃のメドを立てたいところだろう。
今日はイン逃げ1着も出て、初日6着スタートから巻き返した中島孝平も整備室にいた。整備用テーブルにはキャリーボディーが外されて置かれており、やがて整備士さんが別のキャリーボディーを持って中島に渡している。交換だろう。1着を獲ったといっても(後半も3着)中島はまだまだ感触に納得してはおらず、キャリーボディー交換で事態の改善をはかっているようだ。昨日今日の気配を信じ込まないほうがいいかもしれないな、明日は。
9Rで不運な6着となってしまった新田雄史も、本体整備に着手。着順自体は不可抗力も大きかったわけだが、機力的にも不満が残ったか。岡崎恭裕も整備士さんと相談しながら本体を覗き込んでいて、大きな整備というわけではなさそうだったが、まだまだ機力に納得していない様子。そして新田も岡崎も、まだまだぜんぜん諦めてなどいない様子でもあった。
予選は前半戦を終えた。明日からは勝負駆けが絡んでくる。好調組も苦戦組も、さらに熱のこもった戦いを繰り広げること必至。レース自体はもちろん、気配の変化からもますます目が離せないぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=日高、山川、新田、高沖 TEXT/黒須田)