8Rの鎌倉涼をどう表現すればいいだろうか。
事故に巻き込まれたあと、ボートが満足にコントロールできなくなってしまったのだ。なんとか完走しようと頑張ったが、ついには制御しきれなくなり、ホームストレッチでコースを逸脱してしまう。そして結局は、ボートとともにレスキューで引き上げていくことになったのだ。
その後の鎌倉にはもちろん、休んでいる暇などはなかった。12Rにも出走するので、すぐさまモーターやプロペラのチェックなどを始めた。その作業がひと段落して、ボートにモーターを着けたのが9Rの発走が近づいていた頃だ(結果的にボートのみ交換している)。
時おり笑みを浮かべたりしながら、くじけた様子も見せずに作業をしていたのだから、芯は強い。
レース間近の時間帯にはボートを水面に降ろせないので、9Rが終わってから、あらためて試運転に出て行った。
そんな鎌倉を励ますように、肩を抱くようにしながらポンポンと肩を叩いた田口節子も格好良かった。
8R後のピットはなかなか慌ただしく、10R出走の永井聖美がプロペラを持って、ピットから整備室へと走っていったかと思えば、そのすぐあとには、11R出走の中谷朋子が同じようにプロペラを手にして走っていった。
そしてまた、8Rで今日のレースを終えていた池田明美もそれに続いた。
午後のピットもやはり暑かったが、それでも選手たちは駆けていく。
ラン! ラン! ラン!
こうしたかたちのアスリートの競演も、見ていて実に気持ちがいいものだ。
午後のピットで、別の意味で目立っていたのが岩崎芳美だ。
新田芳美に対して「あっ、よっちゃん」と呼びかけているのを見て……、つい「あなたもよっちゃんでしょ!」とツッコミたくもなってしまった。
その岩崎のTシャツが洒落ていて、背中に書かれている文字は「うずしお熟女軍団」と、徳島勢お揃いのものだが……、袖口には「夜露死苦」と書かれており、胸元の名前は「岩崎芳美(パシリ)」となっている。
とはいえ、岩崎をパシリ扱いするような選手はいないだろうと思っていたら……、やってくれました、海野ゆかり!
ほれっパシリ、というようにアカクミ(ボートに積む巨大スポンジ)をぽんっと渡してみせたのだ。
これには岩崎もさすがに苦笑。……もしかしたら、胸に(パシリ)と書かれていることとは関係のないやり取りだったかもしれないが、なかなか微笑ましい光景だった。
そんなピットの中で、高いレベルの集中力を見せていたのが「うずしお軍団」の一人、淺田千亜希だ。
10R3号艇の淺田は、ここが勝負どころと踏んでいたのだろう。
展示航走あたりの時間帯はゾーンに入っているかのように集中した顔になっていた。
結果として、10Rは転覆という結果に終わってしまったが、それはなにも気負いすぎが招いた事故などではない。
近い時間帯においても、西村美智子と話しているときなどは、“やさしい先輩”の顔つきになっていたように、心のバランスは取れていたのだ。
3日目終了時点で得点率は18位。明日もまたゾーンに入ったような彼女を見られることだろう。
今日の午後には、“気になる弥生さん”こと宇野弥生に対して、「今節はどうですか?」と、あらためて聞いてみた。
すると、少し悩んだ顔をした彼女は……。
「う~ん、最初はいいと思ってたんですけど、だんだん良くなくなってきた感じで」
――なんとか修正はできそうですか?
「まだ方向性が見えてないので……。ただ、明日中には見つけられれば、とは思っています」
明日はもちろん、勝負駆けの1日。
準優への道が見えている者はもちろん、厳しい勝負駆けに挑む者も、準優への道が閉ざされてしまった者も、暑い中を駆け回る1日になるのは間違いない。
(PHOTO/池上一摩、TEXT/内池)