BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ボーダーのドラマ

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 8R後、魚谷香織はさすがにホッとした表情を見せていた。

 リプレイを映し出すモニターを見つめているときなどには真剣な目つきになっていたが、取材陣に「勝負強いですね」と声をかけられたときには、「よかったあ!」と笑顔を爆発させていた。

 要するに、短い時間のあいだにも、めまぐるしく表情を変えていたのだ。

 魚谷は、6点ボーダーとして、3着2本が求められる状況で、今日の勝負駆けデーを迎えている。2Rを4号艇で3着したあと、この8Rでは6号艇で1着を取ってみせたのだ。女子王座出場そのものも、土壇場の鳴門女子リーグ優勝で掴み取ったのだから、どこまでも勝負強い。

 準優出で満足してしまうような選手でないのはもちろんだが、この勝負駆け成功に対しては、笑顔を見せても当然だ。

 

 

 

 

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 6点ボーダーと書いたが、「ボーダー」に関しては記者席もピットも大いに揺れた。このブログでも速報を出しているが、9Rを終えた段階で、準優出ボーダーが6.50になる現象も起きたのだ。

 そのことがピット内に伝わると、選手たちもさすがに驚きの表情を見せていた。

 昨日の段階で当確ランプが点いていたといえる西村美智子にしても、それを聞いて、「そんなことって普通、ないですよねえ」というリアクションを見せていた。

 それでも昨日の段階で7.50の得点率になっていた余裕といえるのか、焦るようなそぶりを見せることはなかった。

 12Rでは着を落としてしまったが、今節は今日に限らず落ち着きのある様子を見せているので、明日もおもしろい存在になってきそうだ。

 

 

 

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 最終的にボーダーは6.33に落ち着いたが(それでも高い!)、この動きによって一喜一憂させられた選手たちは多く出ている。

 たとえば9Rに出場した宇野弥生は、6点ボーダーならこのレースでは5着条件となっていた。

 本人はどこまで状況を知っていたのか、道中はさらに着を落とす可能性もある5番手となっていたが、意地の走りで4着を取っている。

 これで本人も、大丈夫だと思ったのだろう。レース後は納得した表情も見せていたが、その後に記者陣に取り囲まれたあと、はっきりと表情を変えていた。

 ダメだったのか……。

 悔しさを抑えて上を向くようにしていたほどだったので、声もかけられなかったくらいだ。

 その後、ボーダーの動きによって準優出が決まると、また表情を一変! 嬉しそうな顔をしてセーフサインを出していたという(その場面は残念ながら見逃した)。

 それくらいのハラハラドキドキがあったわけだ。

 

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 ボーダーの動きに惑わされたということでは、海野ゆかりもそうだった。

 得点率6.50で予選を終えた海野は、普通に考えれば超のつく安全圏にいるわけだが、記者陣に状況を聞いたときには、はっきりと表情を変えていた。

 どちらかというと、ポーカーフェイスの海野にしては、珍しいくらい落胆しているような顔つきになっていたのだ。

 神様に祈るように二拝するポーズも見せていたが、それもポーズというか、記者陣へのサービスのようなものだったのだろう。終わった結果について神頼みするような人ではない。

 結果として海野は13位で予選を通過している。それは神頼みの結果ではなく、海野が呼び込んだ結果であるのに違いない。

 

 

 

 

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 そんな中にあって、こちらが驚くくらいの落ち着きを見せていたのが落合直子だ。

 彼女の場合、6点ボーダーとして3着2本条件だったところを1着、2着でクリアしている。

 決してあまくはない勝負駆け条件の中で、点数の動きに振り回される必要のない結果を出したのだ。

 もっと喜びや安堵の表情を露わにしてもよさそうなものなのに、こちらが拍子抜けするくらいに落ち着いていた。

 女子王座は昨年2度出場したのに続いてこれが3度目の出場になるが(予選通過は初)、想像を超える大物といえるのかもしれない。

 

 

 

 

 

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 金田幸子も、似た反応を見せていた。

 10Rを迎える段階では当確圏につけていたが、今節の好調選手が揃ったこのレースを3号艇で制している。それもコンマ01のタッチスタートからのまくりで決めたのだ。

 この段階で本人は把握していなかったとは思うが、これで結果的には準優1号艇をゲットした。

 それにもかかわらず金田は、いつもどおりの飄々とした様子を少しも変えることはなかったのだ。

 それはある意味、ものすごく彼女らしい。

 

 

 

 

 

 

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 この10Rで3着に敗れた平山智加は、それでも結果的に予選を1位通過しているが、レース後、唇を噛みしめるように厳しい表情を見せていたのも印象的だ。

 この結果によって予選1位通過が「相手待ち」になったということではなく、自分のレースを不甲斐なく思ったからなのだろう。そういうところが平山の強さの芯になっている。

 

 その平山と予選1位の座を争っていた1号艇=山川美由紀を破り、12レースを制したのが大瀧明日香だ。

 これで大瀧も準優1号艇を獲得している。

 今節、雰囲気がいいな、とは思っていたが、あれよあれよのうちにここまで来ていたという印象も強い。

 この調子でいけば、“3000番台最後のクイーン”がさらなる大仕事を果たすこともあるかもしれない。

(PHOTO/池上一摩、TEXT/内池)