BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ざわわざわわ

<9R>

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 毒島誠が抜け出した瞬間、ピットが一瞬ざわついた。オーシャンカップでラッキーボーイ的にSG初優出を果たした毒島が、立て続けに優出を決めたのだ。「ブス、来てるね~」と声があがる。

 2着に新田雄史が抜け出したことで、ざわめきはさらに高まる。1号艇が飛んだ! 大穴の予感は空気をざわわと動かすのだ。

 波乱の立役者となった若武者2人。毒島は山崎智也ら先輩に囲まれて、ニコニコと笑っている。

 一方、新田雄史は出迎えた井口佳典に何かささやいたようだ。

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「やめろっつーのっ!」

 井口が大笑いしながら、新田に突っ込んだ。何事?

「すいません、って言ったんですよ。早く帰りたいだろうに待たせてしまうから」

 新田から聞いたときには、ふーんとしか思わなかった。井口は1便で宿舎に帰る予定だったのだろう。だが、新田が優出したことで、すぐには帰れなくなったか。新田は共同会見やら何やらに引っ張りまわされるわけだし。

 ……待てよ。1便出発は10R終了後。エンジン吊りはもちろんとっくに終わっている。それに、会見とか展望番組のインタビューとか、井口には関係ないし、待っている必要もない。

 明日か!

 優勝者は表彰式に会見にJLCのインタビューにと、たくさんのスケジュールをこなさなくてはならない。なにしろナイター開催だ。すべて終わるのは10時前後か。三重まで帰れますかね。井口はもちろん、これには付き合うこととなる。早く帰りたいのに、ってこのことか!

 ということはこれは、優勝宣言である。6号艇だけに公式コメントは強気ではないかもしれないが、実は狙っているのだ、新田雄史は。ま、「冗談で言ったんですけどね」とも付け加えていたのも確かだが(そして井口の言葉は「待つに決まってるだろ」の意味だろう)、言葉の真意に気づくことができずに間の抜けた返答をしてしまったことが、なんとも悔やまれたのだった。

 

<10R>

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 瓜生正義、敗れる。

 1号艇で盤石かと思われたが、まさかの3着。モーターボート記念3連覇、前人未到の同一SG3連覇は、ここで潰えてしまった。

 単に連覇の夢が消えただけでなく、1号艇での敗戦だから、これはさすがに悔しい。エンジン吊りで瓜生を出迎えた後輩たちの顔はやや固まっていたし、瓜生もヘルメットの奥で眉間にしわを寄せていた。3連覇うんぬんを抜きにしても、準優1号艇で優出を逃したことは、あまりにも痛恨事であろう。

 時間が経って、残念でしたね、と声をかけた。こちらの「残念」をおそらく瓜生は2つの意味で受け取ったのだろう。いつものように快活ではあったが、ちょっと顔をしかめて「残念です……」と返している。そのわずかな表情の崩れが、瓜生の心中を余すところなくあらわしていた。

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 勝ったのは平石和男! 余計なことだが、女子王座を金田幸子が制し、平石和男がMB記念を制せば、BOATBoyの「ライター」、つまりはファミリーの連覇なのである(平石も長くコラムを連載してくれました)。で、余計なことなのに、平石にはそれを伝えてしまった。そしたら、平石はニッコリ。「そうなるように頑張りますよ!」と力強いお言葉だ。機力は間違いない。もはや優勝戦に震えるようなこともないだろう。準優と同じ2号艇だから、同じレースができれば10年ぶりのSG制覇は充分ある!

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 なにしろ、「平石さんをハメたと思った」と中島孝平は語っている。3コースから鮮やかなまくり差しを放った中島は、平石を追い抜き、瓜生のふところにグサリと差し込む手応えを感じていただろう。しかし、平石は差して残した。「平石さんが巧すぎましたね」と中島は言い、平石も「下手に握ればハマりにいくようなもの」と百戦錬磨の捌きを強調していたが、もうひとつ見逃せないのは、差し残した平石の機力であろう。

 といっても、中島は間違いなく瓜生を差してはいるのだ。こちらも機力には自信がある。「ほとんど触っていない」と感覚、体感を信じ切っているのである。その感触は、優出しただけに正解。いつもと同様、淡々、粛々の中島だが、もちろん頂点を狙いすましていることだろう。

 

<11R>

 1号艇、全敗! インが強い傾向にあった今節、準優でこんな事態が起ころうとは誰が予想しただろうか。

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 その瞬間、毒島誠の優勝戦1号艇が決まった! やはりざわついていたピットだが、そのざわめきの何割かは毒島に大チャンスが転がり込んできたことに対するものだろう。

 中野次郎が毒島に詰め寄る。岡崎恭裕も詰め寄る。そのとき。

「やぁ~めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 大きく手を広げて毒島をガードしたのは、山崎智也だった。マネージャー?(笑)お前ら、ウチの後輩に余計なプレッシャーかけんなよぉ~! あっち行け、あっち行け! そう言われれば、余計に詰め寄る次郎と岡崎(笑)。しばし智也と次郎、岡崎がもみ合って、毒島は智也の背中でおかしそうに笑っていた。

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 まったく対照的だったのは、毒島に1号艇をプレゼントすることになってしまった菊地孝平だった。2着なのである。優出なのである。しかし、レースを終えた直後に、それを嬉しいとか満足とか考えられるわけがない。そこには悔恨しかないのが当然である。予選1位なのだから、なおさら。

 ピットに戻った直後に見せた硬直したような表情は、会見にあらわれても変わらなかった。一点を見据え、固まったままの表情で、苛立ちや自分への呵責を押さえきれない様子で、淡々と答えるのみであった。

 菊地孝平もまた、BOATBoyでコラムを連載してくれた選手の一人である。平石に告げたことを、菊地にも告げようと狙っていたわけである。しかし、とてもそんな軽口を投げかける雰囲気にはなかった。そこに割って入る勇気など、とても持てないほどに、菊地は己を責め続けていたのである。

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 それにしても、篠崎元志の強さと言ったらどうだ。これでSG3節連続優出。この高いレベルでの安定感、折々で見せるインパクト絶大のパフォーマンスは、もはや一介の若手の域をはるかにはるかにはるかに×10くらい超えている。

 今日のまくり差しも凄すぎた。齊藤仁の頭を超え、菊地のふところを捉えたスピードといったら! 準優3個レースはとにかくざわつきっぱなしだったわけだが、今日イチのざわつき(というかどよめきと感嘆)はまさしく篠崎のまくり差しである。

 会見が終わって、会見場の出口で篠崎と顔を合わせた。「凄かった」とささやくように伝えると、「信じられないっす」と篠崎もささやくような声で返した。勢い、ささやき合戦は続く。「鳥肌立った」「あそこに入るとは思わなかった」「強すぎ」「うっそぉ~~んと思いながら差した」。別にささやき合う必要はまったくないのだが、意味もなくそんな会話になったあたりに、篠崎の高揚っぷりを感じたのだった。

 明日も3号艇。再現があったら、今度はどのくらいの高揚感を見せてくれるだろうか。(PHOTO/中尾茂幸=中島 池上一摩 TEXT/黒須田)