BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝っても負けても

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「クロちゃん、今日はアカンわ」

10Rを逃げ切り予選トップ確定。

ついにこの男がSG制覇に片手をかけた、と浮かれているこちらに、

森高はそう吐き捨てた。は? アカンの? 

呆然とするこちらを尻目に立ち去ってしまった森高。

11Rのエンジン吊りが終わるのを待って、

森高を強引につかまえると、森高はやっぱり

「レースから何から、全部アカンやろ」と吐き捨てるのだった。

 

ようするにこういうことだ。1マークのターンはミスだった。

差されたっておかしくなかった。平山智加、あるいは

山崎智也がまくってきていて、それを意識したことが

ターンマークを外すことになったと思われるが、

森高いわく「そんなん関係ない」。ではなぜ逃げ切れたかというと、

モーターが噴いていたからである。あるいは、

森高を脅かす機力のある選手が他にいなかったということか。

つまり、「モーターに勝たせてもらった。たまたま逃げられただけ」と

いうのだ。

 

 

 

モーターがいいのなら、それだけで大きなアドバンテージじゃないかと

思うのだが、森高はひたすら失敗を悔やむ。そして思った。

実は少しカタくなってたんじゃないか、と。

だったら、今日失敗しておいてよかった、

明日も明後日もインになりそうなんだから。

そう言うと森高は「明日のことはわからん」。

今日の失敗をいまだ糧にできていないのであれば、

それは気持ちの問題だ。SG初制覇の大チャンスを前に、

この男でもやはり震えるというのか。

 

 

 

 

 

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 ただ、それは問題なく克服できるのかな、とも思う。ピットには心強い仲間がいるからだ。レース後の勝利者インタビュー、JLCでご覧になった方もいるだろうが、実はカメラの向こうに丸岡正典と田村隆信がいた。予選トップ確定の森高が、どんな顔でどんなことを言うのか、面白がっていたのだ。つまり、丸岡も田村も、森高にチャンスがめぐってきたことが嬉しくてたまらない! 彼らの支えがあれば、どんな重圧も乗り越えられるだろう。それに、負ければボロクソにこき下ろす、というのが銀河系軍団の流儀である。仲間にけなされたくなかったら、森高よ、勝て!

 

 

 

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 とまあ、どうしてもこの男には肩入れしたくなってしまうわけだが、決して森高だけを追っかけているわけではありません。準優メンバーをざっと眺めても、白井英治に「SGにもっとも近い男」の異名を返上してほしいとも思うし、白井よりも前からそう言われてきた仲口博崇にも悲願を果たしてほしいし、SG初出場で予選を勝ち抜いた土屋智則にも気持ちは惹かれるし、やっぱりとびきりの好漢・齊藤仁にも声援を送りたい気持ちは強い。ちなみに、仁ちゃんには「一真、やりましたね」と声をかけられた。そうか、森高にとってはこの人も心の拠り所になるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 銀河系軍団でいえば、やはり湯川浩司も気になる存在だ。今節の湯川は、表情をカタくしている姿を見ることが多かった。たとえば今日、エンジン吊りを待つ間、平石和男に話しかけられていたが、湯川は終始、神妙な顔つきだった。平石と湯川の間で交わされる会話の中身はうかがい知れないが、この二人なら笑顔があふれてもおかしくないのだが。その直前、エンジン吊りに向かう湯川とはたまたま進路が重なったのだが、会釈を送ると、ちょっと口を尖らせながら小さく頭を下げるのみ。気分のいいときの湯川はたいがい「っすぅ~~」と湯川語の「こんちわっす~」を返してくるのに、今日は、いや、今節はそれを聞くことができなかった。

 12R、湯川はノルマだった2着を死守して、なんとか予選突破。これでベスト12に残るのはほぼ間違いないだろうし、おおよその状況は本人もわかっていたと思う(だからこそ、実は追われる立場にもなっている今節、笑顔が少なかったのではないか)。

それでも、レース後の湯川はやはり神妙。

結局、予選の間じゅう、湯川のそうした顔を見続けたことになる。

 

果たして、明日はどんな表情になっているだろうか。

まずは朝、その様子を確かめたいと思っている。

 

 

 

 

 

 

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 勝負駆けの行方が気になるといえば、やはり山崎智也であろう。昨年の賞金王が、ベスト12陥落の危機を迎えている。何より、2年連続出場の条件は「チャレンジカップ優勝」である。予選を突破しなければその時点で終戦だし、それは前年のチャンピオンが賞金王出場を逃すという最大の屈辱である。

 ひとまず、今日の勝負駆けはなんとかクリアした。前付け宣言も他艇に抵抗され6コースに回されながら、1マークは果敢に攻めて3着。望みはつないだ。レース後、右手を何度も掲げながら、周囲に笑顔を振りまいていたが、いったい何の意味があるかはわからなかった。レースを振り返ってのものだったようだが、これ、何なんでしょ。ただ、自分の置かれた立場は理解していたはずだから、3着に残したことの安堵はあったはず。そう思えば、智也の笑顔はかなり本音に近いものだったのではないかと思う。

 

 

 

 

 

 

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 今節はもちろん全員が特別な思いを抱いて臨んでいたはずだが、特に気合を感じていた一人は、やはり赤岩善生だった。その気合は、実は数字にあらわれている。4年前にインタビューしたとき、当時の山崎智也が「最近50kgで走れていないのは、甘えだと思う」と言っていたことに触発され、自分も減量に力を入れるようになったのだと言っていた。しかし、今年の赤岩はSGで50kgで走ったことは数えるほどしかない。52kg前後が平均か。たった2kgとも思えるが、赤岩が智也の言葉のなかの「甘え」に引っかかったのであれば、この2kgはつまり精神的な部分をあらわす数値でもある。今節、赤岩は前検から50kgをキープした。戦績を見ると、ダービー後から徐々に取り組んできた痕跡が見えたりもするが、とにかく赤岩はこのチャレンジカップに賭けてきた。己とも向き合いながら、渾身のチャレンジに臨んだのだ。

 12Rは3着で予選突破だった。道中、3着を走った。ところが、2周2マークでやや流れたところを江口晃生にとらえられ、3周1マークで逆転を許した。結果、次点で予選落ち。赤岩は状況をわかっていたはずだし、だからレース後の表情はひたすら硬直していた。出迎えた池田浩二も顔を歪めていたし、つまりは半径1mほどの空気も凍り付いていたのだ。

 

すべてを振り切るかのように

足早に脱衣所に飛び込んだ赤岩は、

黄色の勝負服をやるせなさそうに脱ぎ、

憤りを振り捨てるようにグローブを手からはぎ取った。

溜め息も出ないし、表情も固まったまま。努力が、思いが、

結果的に報われなかったことを、赤岩は真っ向から

受け止めているようだった。赤岩が醸し出す空気感は

ひたすらにせつないものだった。

 

ただ、今節の奮戦が光明を見出すきっかけになるものと信じたい。

この男が触れれば斬れるほどの雰囲気を身にまとったときというのは、やはり魅力的なのだ。この痛みを、不本意な1年を心に刻み、

さらに強い赤岩善生をまた見せてほしい。

 

(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)