5日目を迎えて、賞金王行きの可能性が残された選手は絞られた。13位以下で一般戦回りになってしまった選手は、今年のROAD to 住之江に終止符を打ったことになる。
……と思っていたら、そうではない選手が一人いた。篠崎仁志だ。「少しでも多く稼いでおきたいんですよ」と朗らかに、力強く語る。何か入用でもございましたかね。違う。宮島周年のフライング休みは賞金王にかかっている。普通であれば、年末はお休みだ。しかし、賞金王に関しては、「賞金ランク15位以内の選手はF休みをずらすことができる」という規定がある。決定戦出場のベスト12はもちろんのこと、13~15位の選手もいわゆる予備選手として参戦し、賞金王シリーズ戦に出場できるのだ。
篠崎は現在14位。この位置をキープできれば、賞金王シリーズには出られる。しかし、上から2人、順位を落とすことがあれば、このままでは16位に弾き出されることになる。篠崎としては1円でも多く稼ぎ、いや、たとえば今日連勝して明日のツッキー選抜に潜り込み、高額賞金のレースに出場することは必須なのである。
篠崎は、賞金王シリーズ勝負駆け!
今日も明日も、篠崎のモチベーションは突出しているぞ。
同じ意味で、田村隆信も今日は気を緩めている場合ではない。
賞金ランク10位とはいえ、9~11位のなかで唯一の予選落ち。
ということは、いつでも11位に落ちる可能性はあるし、
ということはけっこう寒い境遇なのだ。
だから、朝から田村は精力的に動いている。
表情も昨日までと変化は見られなかった。
一瞬、表情が緩んだように見えたのは、
森高一真のある姿を目にしたとき。それは後ほど記す。
対照的というほどではないが、少し落ち着いたように見えたのは、
湯川浩司だ。そう、準優進出により、ベスト12入りをほぼ確実にしたのだ。緊張が解けたとしても、まあ当然ではあろう。
「あ、そうなん? ぜんぜん知らんかった」
実は湯川、この状況をわかっていなかった。
というか、気にしていなかった、が正解か。
準優進出でだいぶ楽になった、くらいの感覚はあっただろうが、
細かい計算はまったくしていなかったのだ。
だったら伝えないほうがよかったかな、とも思ったが、
それを知っても湯川の表情は変わらなかった。
つまり、準優を全力で戦うのみ、なのだ。
賞金王出場はもちろん大きな目標。
だが、そのためだけに戦うのではない。
この場においては、まず狙うのは優勝だし、
そのためには優出しなくてはならない。
その結果がベスト12入りをもたらすわけであって、
楽になったからって気を緩めるわけではないのだ。
それは、逆転を目指す齊藤仁についても同じことだ。
自分がどんな立場に置かれているかはわかっている。
現在13位という順位は、すなわち今日最大のキーマンだという自覚もある。だが、それもあくまでもここまでの積み重ねの結果なのだ。
「みなさん『気合入れて頑張ります』的なコメントを
引き出したいんでしょうけど、僕の中からは出てこないんですよね。
これまでだって気合はいっていたかもしれないし、
その意味では今日ももちろん入っている。
今日もいつも通りやるだけですよ」
ただ、もちろんベスト12入りへの最大のチャンスだという意識はある。優出しなければ目がなくなるのだということもわかっている。
だが、わかりやすいのはこの言葉だろう。
「去年もチャレンジカップに出たわけだから、
優勝すればベスト12入りできたわけですよ」。
13位だからどうこうではない。この場で勝負できることが大きい。
そのうえで、いつも通りに全力で戦うわけだ。
齊藤仁は、優出を目標としているわけではない。
ただただ、いつも通り勝利をもぎ取りにいく。
その先に、大きな結果があるのである。
さて、予選トップの森高一真。
誰もが森高の様子を注目しているわけだが、
今朝はなかなか姿をあらわさなかった。
朝の試運転もしていないし、レースが始まっても顔を見せない。
1、2Rには四国勢が出場していなかったから、
エンジン吊りにも出てこない。
テレビも新聞も含めて、報道陣がみな森高の登場を待ち構えていた。
ようやくあらわれたのは3Rの展示後。
その瞬間、ピットがざわっと動いた。
テレビカメラ数台、スチールカメラ数台、その周辺の人たち、
話を聞きたい人、などなどが一気に森高を取り囲んだのだ。
よっ、超大物!
先ほどちらり書いた、田村が表情を緩めたのは
まさにこれを目にしたときで、
控室に戻る際にこの事態と出くわしたのだ。
それほどまでに、森高を中心とする輪はデカかった。
来日したポール・マッカートニー級である(←言い過ぎ)。
僕はこの欄に「森高はまったく姿をあらわさなかった」と
書こうと決めて、ピットを後にしようとしていたのだが、
まさにそのとき、この光景を間近で目の当たりにしている。
ちょっと面白くなって、僕もその輪に加わり森高の様子を眺める。
女性キャスターの質問を受けてニヤケ顔の森高を見ながら、
なんだか感慨深くなってしまったなあ……。
(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=森高 TEXT/黒須田)