チャレンジカップは賞金王決定戦出場への勝負駆け。だが、その前にこれはSGなのである。
優勝でもベスト12には届きそうにない三井所尊春。だからモチベーションが下がっているかといえば、そんなことはありえない。全力で準優を戦い、優出を決めれば心から喜ぶ。
「ヒェ~ッ、あぶねえっ!」
中島孝平に最後に差を詰められて冷や汗をかいたわけだが、
大きな声でそんなふうにおどけながら、しかしまさしく満面の笑みなのであった。SG初優出がとにかく嬉しい!
ダービーでは準優1号艇で涙を呑んでいるだけに、なお嬉しい!
勝負駆けうんぬんなど、そのときには頭にない。
全力疾走の結果がこういう形で出て、
三井所はひたすらテンションを上げるのである。
いや、選手たちがどこまで自分の置かれた状況を知っているかどうか、という問題もある。
前半記事で書いたように、湯川浩司はほぼ当確ということを知らなかったし、9R前にもわざわざ「ホンマはどんな感じなん?」と
尋ねてきている。その時点でも9割方当確だったし、
準優3着で完全に当確。レース後、湯川とはその件について
もう一度話すことになったが、それよりも
湯川は優出できなかったことをかなり悔しがっていた。
なにしろ、「1マークでは松井さんとのワンツーかと思ったわ」という
展開で、道中でも2番手の目は充分にあった。
「それだけに、ホンマ悔しいわ……」。
もちろん賞金王には出場したいし、それは本当に嬉しいことだが、
それ以上にSGタイトルを手にするチャンスを
準優で手放したことが悔しいのだ。
まあ、それでも、賞金王勝負駆けという戦いは、
クリアというかたちで終わり、湯川も安堵の思いはあるようだ。
選手たちはさまざまな戦いと直面しながら、
目の前のレースに死力を尽くすわけである。
優出を決めて、ボーダー争いに残った齊藤仁も会見で言っていた。「一番いいのは優勝ですからね」。
そう、優勝戦に駒を進めたことは、
もちろんベスト12入りのための最低のノルマだったが、
それをクリアしたところで「優勝戦は●着でいい」などとは思っていないのである。優出を決めたからには、目指すは優勝のみ。
ベスト12入りのためには●着が必要というのは、
その次に来るテーマである。
だから仁ちゃんは言う。
「何着以上というのは、メディアの皆さんにも言われるんでしょうし、
話題になるんでしょうが、それはしっかり耳には入れます」。
それはつまり、その何着以上を目指すわけではない、
だから耳に入れたところでプレッシャーにはならないということだ。
そして仁ちゃんは、そうした重圧が方々から迫りくることに対する覚悟もできている。優勝戦は6号艇。もっとも不利な枠に入った。
だが、それとても齊藤仁の戦いの本質を変えることはない。
明日の仁ちゃんはまず優勝を目指し、
そのうえで賞金王決定戦を目指すのである。
そう考えると、10R後の池田浩二がめちゃくちゃ不機嫌になるのも当然であろう。レース前は静かな闘志を燃やしているように見えた池田は、レースを終えてピットに戻ってきたときには明らかに目に嶮があった。池田は、もはや優出の必要はないのだ、賞金王戦線においては。
もっと言えば、今節来なくたって、賞金王には出られた。
だが、そんなことではないのだ。やはり池田は勝ちたかった。
優勝したかった。それが途絶えたことが悔しいし、
それ以前の目の前のレースに負けたことが腹立たしいのであろう。
また、新田雄史は片付け作業を終えて控室に戻る際、
かぶったままだったヘルメットのシールドを下げている。
その先には、レンズを向ける池上カメラマンがいた。
新田は、悔しがっている顔を見せたくなかったのだ。
地元SG。師匠は途中帰郷。
もちろん優勝を胸に誓って乗り込んだはずだが、
その責任感はさらに強くなった。しかし、準優で敗れてしまった。
その悔恨は、他の誰とも違う意味をもち、
他の誰よりも大きいであろう。
そうした、SG制覇を目指すガチンコ勝負のなかにもうひとつ、
ベスト12争いという要素があるチャレンジカップが燃えないはずがない。準優を終えて、僕はもう今日の時点で
チャレンジカップを思い切り満喫できたのだと、
ふと思った次第である。
いや、もちろん腹いっぱいではないぞ。
まだ優勝戦が残っているのだ。
今年絶好調の徳増秀樹が、
駒を進めてきた。一般戦が主戦場だったが、
ここまでのVラッシュはお見事の一言。
そのうえ、尼崎GⅠも制しているのだから、価値が高い。
SGで優出しても、優勝しても、
何も不思議のない実力者である。
ここではよく、仁ちゃんの好漢ぶりをよく書いたりするわけだが、
徳増も素敵な人だなあと思う。優出会見では、
ここまでネガティブなコメントばかりを出したことを「記者さんに迷惑をかけた」と詫び、ではなぜそうしたコメントになったかということを実に懇切丁寧に語っている(ようするに、体感と映像で見る感じにギャップがあり、その点が不満だったということだ)。
まず、詫びる必要はまったくないと思うし、
その理由をじっくりと説明する実直さにはただただ感心させられる。
この人にSG獲らせたいなあ、
なんてそんな気分にもなってくる。
菊地孝平は、ピットに戻ってくると、
三井所と同じように奇声(?)をあげていた。
何度も何度も「ヒェー」は繰り返され、ピットに響く。
たしかに、1マークは差されるかもという展開になっていたからなあ。で、こうしておどけまくる菊地というのは、
めちゃくちゃゴキゲンモードに入っているときである。
久々のSG制覇のチャンスが訪れたこと、
それが賞金王行きにもつながることは、
菊地のテンションをぐっと高める。
爽快に笑い続ける菊地は、こちらの気分をも浮かれさせるほど、
気分を高揚させているようだった。
山口剛は、道中接戦を捌いての2着。
1周目バックでは4番手争いながら、
2マークで2番手争いに持ち込み、2周1マークで逆転した。
捌いた相手には王者が含まれていたのだから、
充実感があったはずである。
レース後、松井は苦笑い連発だったが、
そのなかで山口にも声をかけている。
その言葉を受けて、山口の目も細くなった。
二人ともヘルメットをかぶっていたので言葉は届いてこなかったが、
それがどんな言葉であったにせよ、
王者に“敗戦の弁”を語らせたことは、実に大きいことだ。
で、森高一真。僕の姿を見ての第一声は
「クロちゃん、今日は良かったやろ!」だった。
今日はも何も、昨日も「アカンわ」と言われて
ポカンとしてしまったワタクシである。森高が逃げて、
明日の1号艇が決まったことで、
ただただ安堵していたのだから、ボンクラである。
てなことはどうでもいいとして、
森高は「今日は掛かってくれたわ~」と機嫌良さそうに
何度も繰り返していた。
すなわち、今日になってさらに上積みがあったということである。
昨日までも間違いなく足は良かった。
「節イチじゃなきゃ、自分がここまでの成績は獲れん」と本人が言うほど、機力は上位だった。
そこに、昨日は来ていなかったターンの掛かりが来た。
まさしく万全だし、森高も饒舌になろうというものである。
勝利者インタビューに向かう森高に、拳を突き出す。
勝利のグータッチだ。しかし、森高は無視する。
さらに強く拳を押し出しても、一瞥するのみ。
「明日、やるわ」
その後、青山登さんの差し出した握手にも応えず、
その言葉を繰り返していたが、つまりは優勝宣言である。
明日の夕刻、森高の拳と僕の拳は邂逅するだろうか。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)