BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――己を貫く

 津のピットは比較的狭い部類に入るが、優勝戦の朝は報道陣が大集合! 節イチのにぎわいを見せていた。SG優勝戦であり、賞金王目前の勝負駆けであり、だからこのお祭り騒ぎ(と言ったら大げさだが)はなんだか嬉しい。狭い分、その密度が濃く感じられ、こちらのテンションも上がってきたぞ!

 ただ、冷静になって考えてみると、優勝戦メンバーたちはこの空気の中、どんな気持ちで過ごしているのだろうか。集中力を切らさずにいられるのだろうか。

 係留所にボートがあったのは1艇のみ。山口剛だ。(PHOTO①)昨日、「明日はエンジンを回して、リングをなじませる」と言っていた。ピストンリングはシリンダーと接触する部分、スムーズにピストンを動かす役割だ。だから、リングとシリンダーをなじませる。そのためにはエンジンを動かして、なじむのを促すというわけだ。その言葉通り、山口はレース間には係留所でボートに乗艇し、エンジンを始動させた。ボートの上で山口はモーターを見つめながら、真剣な表情でエンジン音に耳を澄ませていた。ピットに延々と響き渡る山口のモーター音。山口は、優勝戦に向けての行動を予定通り、着実に行なっているのだった。

 三井所尊春(PHOTO②)は、杉山正樹と話しながら、ペラ調整を進めていた。表情を覗き込むと、なんと笑顔。アドバイスを受けているというより、談笑しているといった風情だ。優出メンバーのなかでは、とにかく笑顔が目立っていたのが三井所で、エンジン吊りを待つ間も、モーター返納作業をヘルプする際も、柔らかい顔つきばかりが目に飛び込んでくる。池田浩二に肩を抱かれて激励を受けた際には、破顔一笑! 優出インタビューなどでも語っていたが、実にリラックスした様子である。

 菊地孝平(PHOTO③)も、笑顔が多かった。2R発売中にはペラを調整していたが、やはり仲間と笑みを交わしながらの作業だった。その2R、賞金ランク11位の中島孝平が6号艇。何としてもベスト12に残るため、少しでも上の着順を獲りたいところだったわけだが、これがものの見事に2着を獲り切っている。喫煙所で観戦していた菊地は、それを見ながら大盛り上がり! 思い切り大げさに言ってしまうと嬌声をあげて、キャッキャキャキャとはしゃいでいる雰囲気(笑)。ベスト12争いを心ゆくまで楽しんでいる、といった感じだった。12Rではあなたもその戦いに臨むんですけどね。ともかく、やはりリラックスしているのは間違いない。

 徳増秀樹を見かけた回数はそれほど多くなかったが、昨日までよりも表情は柔らかく感じた(PHOTO④)。昨日、やっと納得のいく機力にもってこれたというから、その分の心の余裕だろうか。「予選の間は、けっこう考え込む時間が多かった」という意味の言葉を優出インタビューでも言っていたが、たしかに節間通して、徳増は声をかけにくい雰囲気を醸し出していた一人だった。それが、優勝戦を前にして、余裕をもてるようになった。これは大きいだろう。

 エンジン吊りで一緒になった新田雄史が、徳増に向けてピッと親指を立てた。そして「頑張ってください」。徳増は笑顔を向けて、ピッと親指を立て返した。その表情は実に優しく、同時に力強かった。

「来月のBOATBoyには“キーマン・齊藤仁”って書かれるんですよね~?」

 そりゃ書きますよ。そう返すと齊藤仁は、あはははと笑った。(PHOTO⑤)今日はとにかく、仁ちゃんにはさまざまな声が投げかけられるだろう。本当にキーマンなんだから、これは仕方がない。そして、齊藤はそんな状況に不快感を覚えてはいない。というより、仁ちゃんは今日も己を貫き、自分の戦いをするだけなのだ。ならば、周囲が浮足立っていようと、仁ちゃんに影響は及ぼさない。

「今日は頑張ってくださいね」

「いや、そうじゃないんです」

「???」

「いつも通り頑張ります、ですね」

 仁ちゃんのいつも通りの頑張りがどんな結果を導くのか。今日起こるドラマのひとつとなるのは間違いない。

 

 というように、さすがの優出メンバーたち、周囲の空気がざわつこうが、まったく関係ない。それでペースを乱すようでは、この位置には上ってこれないということだろう。

 優勝戦1号艇。森高一真にしても同様。(PHOTO⑥)昨日と同じく、ほとんど姿をあらわすことなく、平穏な時間を過ごしている。したがって、顔を見るのはエンジン吊りくらいだったりするが、昨日と何も変わっているようには見えないし、つまりは「予選トップで出場した準優を逃げ切った」ときと同じ状態ということだ。もちろん、優勝戦が近づけばどうなるかはわからないが……。

 さあ、すべてが決まるまで、あと数時間。普段と変わらず、しかし優勝への闘志を燃やした彼らがどんな戦いを見せるのか。何度も言ってるかもしれないけど、見逃し厳禁だぞ!(TEXT/黒須田)

 

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①山口剛は真剣な表情だったが、カタさは見受けられなかった。(PHOTO/池上一摩)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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②三井所尊春は最高の笑顔! このリラックスぶりが怖いぞ。(PHOTO/池上一摩)

 

 

 

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③これは昨日の写真だが、今日も同じような笑顔を見せている菊地孝平。(PHOTO/池上一摩)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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④やはり、モーターの調子は選手の気分に影響を与える。上昇を感じ取った徳増秀樹の穏やかさを見ると、それが実感させられる。(PHOTO/池上一摩)

 

 

 

 

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⑤さあ、齊藤仁の「いつも通りの頑張り」を見守ろう!(PHOTO/池上一摩)

 

 

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⑥森高一真も特にカタくなってはいないように見えた。逃げ切るのみ!(PHOTO/中尾茂幸)